そこから始まる光の旅。
遠くから、体に響く音が聞こえてくる。誰もがおびえ、城から逃げ出していた。それを非難する事は出来ない。資源には恵まれていたが小さな国で中立を保っていた。だが、どうしても由々しき事大に襲われ、父は金国に援軍を送りまだ幼い王子に国を任せ、援軍と共に海を渡っていった。罠だと気付いたのには、時が遅すぎた。父が帰ってくるまで、まだ日がかかる。王子は、母親と妹を守ろうと戦った。だが、もう敗戦は、目の前だった。
「僕は、すぐ行きますから」
そう言って、母と妹を逃した。どこまで、逃げ切れるか、わからない。だが、信用できる重臣と腕の立つ騎士を母親と妹の為に着けた。自分は、大丈夫。そう言い聞かせた。
「お前が守るんだ」
出掛けに、父がほほ笑んだ。守らねばならない。父からの言葉と母と妹の命。敵の狙いは、自分とこの小さな国の持つ資源。母達さえ、逃がしてしまえば・・・。
「お前は、まだ、行かないのか?」
王子は、柱の陰に気配を感じ、声をかけた。
「いえ・・。」
同じ年の位の少年が顔を出した。乳母のただ一人の息子だった。
「ずっと、一緒だったんだ。僕も居るよ」
「お前まで、ここに残ったら、乳母のミーヤに叱られる」
「置いてきたら、今度は、僕が叱られます」
同じ、背格好の細い少年は、アスエルと言った。
「アデュース様より、僕の方が腕はいいいですし・・。」
「失礼な」
アデュースは、眼下を見下ろした。どこも、火の海となっていた。事前に、待ち人を逃がしていた。無用の殺し合いは避けたい。父にそう言われていた。戦わずにすむなら・・。王子として、国の民の命を守るのは当たり前。敵は、それを知ってか、たくさんの兵を送り込み、火を付けていった。町のあちこちで火の手があがり、一年で緑が綺麗な季節なのに、無残な景色があちこちに、広がっていった。
「なんて・・。むごい」
アデュースは、小さな胸を痛めた。無条件降伏を考えていた。だが、少しでも父の帰りを信じ、城に留まった。父さえ戻れば・・・。父の軍さえ、間に合えば・・。大砲の音が、木霊していた。
「アスエル・・。逃げろよ。」
「嫌です。」
「一緒になんて、言わないから」
「ずっと、伝えたい事があるんだ。まだ、離れるわけには、いかないんです」
「でも・・。」
城の最上階へと、すすむ兵達の声や足音が聞こえてきた。
「時間がない」
アデュースは、アスエルの腕をとった。
「早く」
「だめです!」
アスエルは持っていた小刀で、アデュースの脇腹をついた。
「なんで?」
「ご・・めんなさい」
ゆっくりとアデュースは、床に崩れ落ちた。気を失ってしまったのだ。
「本当は、こうした方がいいんだ」
アスエルは、アデュースの衣服を急いで脱がせると大きな絵画の後ろを叩いた。
「母さん。」
ミーヤが絵画の後ろから、泣き顔を見せた。隠し通路に潜んでいたのだ。
「これで・・。いいんだね。」
「母さんを許して。」
「わかっているよ・・。これが・・。僕の・・。いや・・。」
アスエルは、アデュースの衣服をまとうと、ミーヤにアデュースの体を預けた。
「せっかく、女の子として生まれてきたのに・・。男として育ててしまった母さんを許してね。」
「いいよ。女の子の親では乳母になれないもん」
じっと、ミーヤの顔をみつめた。女の子であれば、アデュースと出会う事はなかっただろう。
「母さん。お勤め、果たすよ」
ミーヤは頷いた。
「しっかりと・・ね。」
隠し扉は締められ、ミーヤとアデュースの姿は消えた。次第に、兵士達の足音は近づいてきていた。
「アデュース」
アスエルは、自分を抱きしめるかのように、両腕を回した。勇気がほしい。怖い。そう思った。最初の敵の兵士が目の前に現れた時、窓の上に駆け上がった。
「いたぞ!王子だ」
誰もが、口々に叫んだ。
「捕まえろ!」
一斉にアスエルに向けて駆け出していった。