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Ⅷ
ある日、ふと見るとお気に入りのピアノが綺麗になっていた。びっくりしてよく見て、でもやっぱり整えられていた。いつもみたいに埃を被ってない。楽譜まで、ちゃんと揃えられて並んでいる。誰だろう、と思って、不思議で、いつもこちらでお喋りするお人形のひとりに尋ねて、空覚えの童話の中の小さな妖精を思い浮かべた。だけど違う気がして、考えて、もしかして月ちゃん、と思い当たる。あたしがピアノを好きなこと、どうして分かったのだろ。誰か、言ったの?とみんなを見回す。言ってない、とそれぞれが悪戯っぽく答えるイメージがして、微笑ってしまう。
きっとあの子だ。
改めて思って嬉しくなる。あの子はきっと、あたしのことをいちばん分かってくれている。そんな気がした。
すごく久しぶりに四角くて黒いそれ用の椅子に座って、ピアノの戸を開けて、鍵盤の上のカバーを外した。横に畳んでおいて、コードを繋ぐ。夜でも弾けるようにと買ってもらったヘッドホンと消音装置まで、隅々まで拭かれていた。うーん、何か、お礼がしたい。でもどうしよう。あたしに出来ることなんて何にも思いつかない。