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ⅩLⅣ
偶然だったかもしれない。何かのはずみで、出逢わなかったかもしれない。だけど、出逢えたから。
結局、否定された自分が怖かったの。誰かに見放される私が私だなんて思いたくなかったの。向き合いたくなかったの。肯定できるほど強くなんてなかったの。
あなたと出会って、向き合いたいと思えた。わたしはあたしを肯定してもいいんだと、思えた。
だから扉を叩いたの。叩くことができたの。変われたの。
「ありがとう、奈緒」
ささやく声が、震えた。
奈緒は首を振って、
「話してくれてありがとう。喋るの、つらかったでしょう」
またふわりと微笑んだ。
きっとこれだ、とわずかに残った月の意識のまま、ほんの少し思う。まっすぐ見つめる瞳と、微笑が、たぶん夕と奈緒はよく似ている。どこか夢見るような、侵しがたい強さのあるそれが。
温かさってこういうものかしら。
自分が恋い焦がれていたのはこの温かさなのかもしれない、と何となく、思った。




