43/50
ⅩLⅢ
夕は一角の部屋に逃げ込んでしまっていたから、月にはどうしようもなかった。なにを感じるのか、自分の感情がない不安も、忘れたまま。ただ必死に努力して生きること。それだけで「高原夕月」の表に出て、存在していたの。ただ、小さな、ブリキの扉だけ、守って。それだけしか拠り所がなくて。守りたいものは、特別なものは、自分といつかは同じだったあの子だけ。
自分にはない感情に、恋い焦がれるように憧れて。
それでも向き合えなかった。扉はあっても、閉ざされたままで、ノックをするのも憚られた。ましてや鍵の掛かった、泣いている誰かの部屋の扉なんて。それでも外に通じていたのは月の方で、閉め出された、見捨てられる恐怖感から生まれた「私」にしか扉は開きようがなかった。知らない開け方を探しながら、いつまでも見つけられずにいた。
夕には隔てる一面の壁しか見えなかったの。
背中合わせのようにお互い、ひとりと一人で居て。
ずっと、そうしていて、長い時間が経って。
だけど、あなたに……奈緒に、出逢ったの。
出逢えたの。




