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ⅩⅩⅩⅤ
「月?」
はっとして顔を上げる。
「どうしたの」
「いいえ」
答える声は震えていないだろうか。自分でもよく分からない。
心配そうに表情が曇る。
「無理して話さなくてもいいのよ」
「大丈夫。それに、ちゃんと聞いてもらいたいから」
笑ってみせて、まっすぐに見つめる。その、眼差しに、応えたいと思った。信じたいと、思った。
向かい合って座る、小さな喫茶店のいちテーブル。BGMは何処かで聴いたことのある有名なクラシックだった。日を改めて、とあの日決めた時間だった。きちんと話すと、決めた日。
奈緒はまだ少し怪訝な表情で、運ばれてきたばかりの紅茶に視線を落としていた。わたしも、そんな彼女を見つつ、煎じる秒針ばかりを見つめてしまう。時計がやけにゆっくり進んで、なかなかお茶は入らない。
「あのね」
やっと、三分経ってカップに注いで、話す準備の整った頃。
口を開いて、途切れないようにゆっくりと話し出す。
「ずっと、前のことなんだけれど……」
小さく頷いてくれるあの子を、上手く見つめられない。でも言葉だけは、聞いてほしいことだけは、きちんと伝えられるように。




