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ⅩⅩⅩⅡ
普段から、月ちゃんの、ゆう、と呼ぶ声は時おり聞こえていた。でも、たやすく返事はできなかった。壁の向こうに寄り掛かって、近くにいてくれることも知っていた。そんなときは、あたしも静かに側に向かって、二人で背中合わせになるようにしていた。まるで裏と表のように。
彼女からの呼びかけは確かにあたたかくて優しかったけれど、あたしはどうしても、何も返すことができない。文字に綴る言葉だけ、知ってくれていたらいい。本当のあたしなんて、あなたの知ってのとおり、こんなに弱くて何も出来ない。呼ばれるたび振り返っても、それだけだった。
新しくできた友達というあの子には会ってみたい気もしたけれど、結局あたしは出ていけなかった。出ていけないままだった。さぞ素敵な子なんだろうと想像したけれど、いざ外に出ようとするときには足が竦んだ。「向こう」への出口は暗くて、やっぱり怖いままだった。




