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ⅩⅩⅧ
店先で突然泣き出してしまって、道行く人たちと気がついた販売員が数人ぎょっとしているのが分かる。ごめんなさい、と、聞こえたか分からない小さな声でささやいて、駆け出す。パウダールームか人気のない階段の踊り場を目指して、結局その階の隅の、非常口前に辿りつく。
何かが、堰を切ったように溢れて流れ出す。レースのハンカチでは拭いきれなかった。こんなに温かいなんて知らなかった。
「大丈夫?」
後から追いかけてきた奈緒が、いつの間にかそこに居た。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。自分でも、よくわからなくて……」
非常口の扉に向かったまま立ちつくしている私に、綺麗に畳まれた。私のものとよく似ているレース刺繍のハンカチが差し出される。
「泣きたいときは、泣いてもいいと思うの」
素直に受け取って、使わせてもらう。くぐもった声しか出ないけれど、今度はきちんと、目を合わせて、話す。
「ありがとう、奈緒」
「いいえ」
そのとき、瞬いた拍子に、視界の扉が押されるように大きく揺らいだ気がした。




