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ⅩⅩⅥ
そうして過ごしていた、ある日のこと。
とある大きなファッション・ビルで並んで歩いていたときだった。見覚えのあるロゴが目に付いて、ひとつのお店の前で立ち止まる。奈緒も後ろから覗き込むように眺めて「可愛いお店」とつぶやく。
「ええ。デザインはシンプルだけど、そのぶんリボンとレースが映えて、可愛いのに上品なのよね」
「初めて入るわ。有名なお店なの?知らなかった……」
「私も!」
気になっていたブランド店に偶然入れることになって興奮気味に返すと、奈緒はきょとんとして尋ねる。
「好きなんでしょう?」
「これはね、夕が……」
ノートに書いていて、と言いかける。
「え?」
あっ、と思って、すぐに言い換えた。
夕に似ているからか、何だか奈緒には安心してしまって、ふいに言葉が口をついてしまうことが多々あった。
「なんでも、ないの」
嘘はつきたくなかったけれど、まだ早い気がした。私たちのことは、もっと大事なときに話したかった。お買い物中の雑談のひとつにはしたくない。そんなに粗末にしたくなかった。
「あとで、ちゃんと話すわ」




