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ⅩⅥ
こちらにはこんなに夕のものがあるのに、夕はめったに名前を呼ばれることがなかった。まるで私が夕の代わりに、こちらに据えられているかのようだった。もしかしたら私に聞こえないだけで、本当は呼ばれているのかもしれないけれど、それに反応して現れる様子もなかった。夕はやっぱりいつも部屋に籠って、何か大事なものを失くしたように泣いていた。
あの子を知っているのは私だけ。あの子が居ることに気がついているのは、私だけ。
こちらでも過ごすうちにそんな気が強くなって、上手く立ち回らなければならない、と余計に思った。「こちら」は適当に周りに合わせて話していればいいのだし、夕とはあのノートの中で、色々と伝え合うことはできる。顔を合わせることはできないけれど。それでも一瞬でも泣き止んでほしくて、ノートには良いことを幾つも並べて書いた。あの子が隠れている理由を考えて、いちばん良い言葉を、本も映画も、見えるものすべての中から探して綴った。読んだ貴方が、少しでも励まされてくれるようにと思って。
だって私は、やっぱりその為にここに居るのだったから。




