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ⅩⅢ
それからも白いノートは楽譜の端に置かれ続けて、ときどき捲ると、また読んでいない文章が小さな文字で綴られているようになった。私はむこうの、最初に目が覚めた空間であのブリキの扉を叩くことは出来なかったけれど、新しいページに真新しく並べられたあの子の字を見つけるのが好きだった。その都度、悩みながら返事を書いた。夕はただ「こちら」にはひょっこりと現れては演奏して綴っていくだけだったようだけれど、私はこちらで知らないことも新しく知ることも分かることもたくさんあったから、何かを知ってはあの場所に運べるかどうかを吟味していた。同じように、このノートに返事をするのにも、なるべく素敵であるように、と考えながらにした。いちばん良い私で、いちばん良い文字で。でも、良いって何かしら。何が良ければ良いのかしら?
よく分からないことは真似てみることに決めていた。いちばん良い私は、やっぱり分からなかったから、最近目にしたきれいな誰かの文体に似せた。丁寧な女性口調だった。良いか悪いかなら、良いような気がして、選んだ。そして、読みやすくて整った字で。なるべく上手な字で。
綺麗なものは正義だから。
こんなふうに、私もあの子からの返事を待ちながら、ノートを濃い黒色のインクで何行も埋めていった。




