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夕月  作者: 白州藍樹
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ⅩⅠ

 ふと、思いついて立ち上がる。部屋の中で、ピアノとちょうど対角線のところにある小さな木製の棚に向かって、歩きながら、確かここに入れたはず、思い浮かべる。辿りついて、いちばん上の引き出しを引く。一冊のノートと黒インクのペンを取り出して、棚の上の平らなところに置く。勿体無くて今まで使えなかった、白地にまっ赤なチェリー模様のリングノート。可愛くて、ずうっと前にひとめぼれして買ったまま、仕舞いっぱなしだったの。自分で使うのには思い切れなくて、誰かに捧げるのも惜しいような可愛さ。どうしようかと思っていたのだけれど、さっき思いついて、使い方を決めた。きっと、これを思いつくために今まで悩んでいたの。

 ペンを取って、ゆっくりと文字を書く。丁寧に、丁寧に。大切なノートに、特別な子への想いだから、できる限りに優しく綴る。

「月ちゃんへ

 ピアノ、綺麗にしておいてくれてありがとう。嬉しかった。」

 どきどきして、ペン先が少し震えた。だけど、きっと正しく伝わるはず。気持ちは伝わるはず。そう思って、最期に名前を付け足す。

 インクが乾いてからそっと閉じて、帰り際にピアノの上の、楽譜の列に一緒に立てかけておいた。

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