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状況把握

『あえて誤解なくお答えするのならば、貴官らは馬鹿だ』

臆面もなく彼らはそう言い放った

『ボートはそういう風に使うものではない。残念ながら、貴艦隊への助力は致しかねる』



1944年3月、ペナン



中部太平洋での突発的な決戦が行われた中、インド洋もまた風雲急を告げつつあった。

『お国の艦隊は勝利したのでしょう?』

トラック島空襲から始まった決戦は、トラック脱出艦艇を救援に来た第3艦隊の前進部隊との海戦に始まり、さらにその救援に空襲部隊を差し向けた敵空母部隊との航空決戦におよぶにいたり、敵新型戦艦2隻らを航空支援下において第2戦隊(長門・陸奥・伊勢・日向)が撃沈、航空攻撃によって陸奥・加賀・飛鷹らが大破するも間隙をぬった第3艦隊主力の航空攻撃によりエセックス級3隻(フランクリン・バンカーヒル・ワスプⅡ)プリンストン級3隻 (ベローウッド・プリンストン・カウペンス)の撃沈。この結果を受けて米海軍は撤退を開始。

トラック島の航空隊からの攻撃で行き足を遅くしていたイントレピッドを偵察機の報告により追跡した第2艦隊は夜戦に突入。曳航を放棄して自沈処分中のサウスダコタ旗下4隻の新型戦艦と護衛からなる米艦隊に対し、優速の第3戦隊および第5戦隊を囮に第十戦隊(大井・北上)らが統制魚雷戦を実施、サウスダコタ・インディアナ他に命中弾を受けた米艦隊は、夜戦継続を放棄、退避時に殿軍を務めたアラバマを喪失した。日本側も第3戦隊の霧島と比叡が大破、第5戦隊の足柄が戦没他、損害多数で追撃を断念した。

結果として米海軍はトラック島強襲の為に空母4・軽空母3・戦艦5他多数の艦艇を失うこととなった。そして帝國海軍もまた半身不随となった。本来なら万歳三唱提灯行列といったところなのであろうが、搭乗員の損失は少なくなく、砲戦を実施した艦では被弾しなかった艦はなく、戦没艦こそ少なかったものの、そのいずれもが程度の差こそあれ修復が必要となった事と、その2週間もたたぬうちに、米海軍は残余の空母(サラトガ・ホーネットⅡ・レキシントンⅡ・タイコンデロガ・ランドルフ)5隻に戦艦はニューメキシコ級3隻からなる機動部隊でマリアナを空襲、戦略予備として期待していた基地航空隊を奇襲によりほぼ全機喪失したとあっては、米国の回復力に震えざるをえなかった。

このままでは何をしてもジリ貧になる。となれば別戦域で敵戦力を誘引するべく行動すべきである。という意見が出るのはまっとうな事であろう。そしてそこに、動ける戦力として遣印艦隊があった

『だからこそ、ここで積極行動を実施しない限り事態を打開する算段がつかないのです。しかし、相手は条約明けの新戦艦、こちらは古参の戦艦が2杯、なまじっかな手では望む勝利はおぼつきません。故に、共同歩調を取りえる貴海軍の戦力に期待したいのです』

『何度も申し上げている通り、我々のボートは海上決戦の支援といった行動に使えるようには出来ておりません。ましてや、参加していると露見したならばたやすく狩られるのも目に見えている。馬鹿げているとしか思えない。そのような作戦にボートのクルーを付き合わせるつもりはない』

『どうしても、ですか』

『我々がドイツ海軍司令部から受けている命令には貴下海軍に対する協力も盛り込まれていますが、その本分はまさにインド洋に於ける通商破壊にある。このような馬鹿げた協力要請に応えるいわれはない』

両海軍の代表がにらみ合った後、会合は物別れに終わった。ドイツ海軍からの支援は受けれそうにない

『わかっていないのはどちらだ!』

司令部に戻って遣印艦隊の参謀連中が憤慨する。

『先般の北岬沖海戦でのシャルンホルスト喪失が痛すぎましたな』

先年の12月に発生したそれで、ドイツ海軍の戦艦はティルピッツのみになってしまっていた

『英海軍はこれで本国艦隊から戦艦1隻、おそらくはKGⅤ級の2艦ではなくレナウンになるでしょうが、戦力の引き抜きが可能となった。回航の時間を考慮しても、打って出る機会は・・・・敵戦艦に対し2対1で挑める機会は旦夕の間へと迫っています』

『地中海でイタリアが粘っているからこそこれで済んでいるともいえるが、これも危うい。彼らの油もまた切れかかっている』

トーチ作戦以降の北アフリカおよびイタリア各地への上陸作戦が太平洋での米海軍艦艇の大量損失により実施されていないため、北アフリカを比較的緩やかに喪失したイタリアはまだなんとか粘っていた。ネルソン級や残存のR・QE級を引き付けていてくれなかったら、こちらのほうが打開策として攻められていた可能性すらあった、そうなるともうお手上げである。そうなる未来も遠くない状態ではあるが。

『まるで将棋倒しだ』

中部太平洋・インド洋・地中海・北海、そのどれもが危ういバランスで均衡を保っており、そのどれか一つでも破れれば堰を切ったように状況が悪化する。しかも世界規模で、となっては一国海軍の一艦隊司令部でどうこうという出来る範疇ではなかった

『ゆるせんのは第六艦隊の連中です。ドイツと連携しおってからに・・・・!』

舶来物信仰というものは根深いもので、潜水艦運用についての先達であるドイツ海軍がこうであるといえばそれがなんであれ右ならえをしてしまう。GFにも遣印艦隊には協力できないと、先に手を打たれてしまってはどうしようもない。新規設立の遣印艦隊と違い、序列としてもナンバリング艦隊へは権限が及ばない。現在でいう統合任務部隊ではないということがこれでもか、と弊害を与えていた。

『龍驤が取りあげられなかっただけでもマシかもしれませんな。1隻でも増援が欲しいところですが』

決戦に参加していなかった低速な商船改造空母群の派遣要請は、先日の基地航空隊壊滅に伴う航空機の輸送任務に回されて立ち消えとなっている。

『艤装の面でも、青葉の復帰が待ち遠しい所でしたが・・・』

先日の戦傷の修理を終えて活動状態にあるが、GFが半身不随であるため、これが回されるかどうかははっきり言って絶望的である(実際、第5戦隊に臨時編入された)かの艦にはこちらへ21号・13号・22号電探やE27(逆探)を運ぶ役割もあったのだが、それも無くなった。

『駆逐艦への装備は無理、か・・・』

21号と22号の両方装備は扶桑と山城、13号だけなのは加古と衣笠、E27は試験型を山城が装備するのみであり、随伴する吹雪級の駆逐艦群にはそういったたぐいのものは本土に戻ってない事もありついていなかった。せめてE27だけでも!という要望は出していたのであるが・・・

『ないものねだりをしても仕方なかろう。GFとて万能ではない』

ぴしゃりと言って、遣印艦隊の長である高須中将が議論を止める

『で、あるならば1日も早く敵を攻撃することこそが肝要である。英国は戦力を惜しむ相手ではない。これはジュトランドを見ても明らかである』

駐英武官であったがゆえに彼は英国のやり口を誰よりも把握していた。投入できる戦力はいざとなれば全部投入してくる、と。時間がたてば本国艦隊からどれだけ送られてくるかわかったものではない、相手に戦艦1隻しか存在しないという現状を利用するしかない。幸いにも英空母は搭載機数にその装甲からこちらの龍驤とほぼ同等で、攻撃力は考えなくていいし、これまでの通商破壊でセイロンの基地航空部隊もそれほど活発な活動が出来ているわけでは無い。動くのは今しかないのだ

『出師出撃準備を為せ、これより我が遣印艦隊は死地に入る』

幕僚たちも頷く。たとえ一隻でも新鋭戦艦との戦闘は分が悪い。扶桑と山城、どちらかがおそらくは沈むであろう戦いに赴くのだ


遣印艦隊

戦艦扶桑 山城(第2戦隊第二分隊)

軽空母龍驤 長月 三日月(第7航空戦隊 駆逐艦2はトンボ釣り)

重巡加古 衣笠(第6戦隊、青葉欠)

駆逐艦吹雪 白雪 初雪(第11駆逐隊)

   叢雲 白雲 磯波 浦波(第12駆逐隊)



同日・セイロン




『茶葉に関しては最高だな』

先任のソマーヴィルに代わり、ロイヤルネイヴィーはインド洋に北岬沖海戦での英雄を呼び込んでいた。とはいえ、先代もビスマルク追撃戦の英雄ではあったのだが・・・

『さて・・・』

頭の痛い問題へと思考を移す。艦隊旗艦であるハウと同じ戦隊を組むべきアンソンと、それを支援すべきグラスゴーだが、乗員同士でいがみ合い反発しているのだ。きっかけは先年の第3次セイロン沖海戦でセンチュリオンを失う代わりに輸送作戦を成功させて、重巡1と軽巡1を撃沈した海戦であるが、グラスゴーは沈没した日本艦の乗員を救助し、南アフリカのダーバンへと帰投したが、そこにアンソンが居た。捕虜をMPへと引き渡すために整列させたが、そこにアンソンの乗員が現れ、罵声を浴びせる。までならよかったのだろうが、無抵抗の捕虜士官が被っていた制帽を奪い、唾を吐きかけたあげく、その帽子を踏みにじった。制帽は古鷹の生存者の中で最先任であった砲術長のものであったが、捕虜本人達が憤慨するより先に、グラスゴーの士官連中が発火した。

『紳士に非ず、ね』

そういって殴りかかり、乱闘に発展してしまった。勿論、敵である相手に敵愾心を持つことは正しい。我々は彼らを打倒し、殺さねばならない。が、あまりにも見苦しい行動が正しいかと言えば確かに正しくはない。問題は、これで中小艦艇の乗員達とアンソンの乗員達がいびつなまでに対立反目してしまった事だ。私がハウに乗ってくるまで、ただ一隻の戦艦として戦線を支える重要艦としてあり続けるために、アンソンの出撃はほとんどなく抑えられていた。そんな彼らにとって、捕虜への殴打、嘲笑はストレスのはけ口だったろうことは容易に想像がつく、しかし、船団の護衛として常に携わってきた中小艦艇の乗員達はそうはいかない。彼らは潜水艦だけでなく敵の優勢な水上艦艇による襲撃にも怯え、撃沈と隣り合わせの彼らにとって、敵をそうするということは、翻って自分たちに帰ってくることなのだ。そして、グラスゴーの乗員が話す捕虜の乗っていた艦の話(センチュリオンゴースト参照)は敵の立ち位置としてのイメージを非常に軟化させていった。

結果としてアンソンの連中は前にも出ないで威張り散らかすチキン野郎という評判が立ち、イメージはさらに悪化、港から出入港する中小艦艇はアンソンに砲を向けていくまでになってしまっている

『となれば、荒療治しかないか・・・戦術の幅が狭くなるが、いたしかたない』

荒療治、実戦でアンソンを隊列の1番艦として矢面に立てるのだ。危険は大きいが、こもったままの豚などの悪評は払拭出来ようし、意気もあがろう。出来うることならば、敵の位置が捕捉出来次第夜戦を駆逐隊などで敢行しつつ袋小路に誘いこむ・・・北岬沖での手順を踏みたいところではあるのだが

『まあ、RDFの性能では我々の優位は揺るがまい。そして、敵は情報処理に於いて最大の誤りを犯している。慎重が過ぎるか』

そう、アンソンは戦没しているものと認識している。戦艦の1隻を相手にするものと2隻を相手にするのでは、その意識は大きく違おう、なにせ、あちらの手持ちはネイヴァルホリデーからの古馴染みばかりだ。

『状況が悪化した場合は煙幕の展開をどうするか、だな』

視界の良し悪しの影響が敵に対して少ない。切り札はそこだろう視覚にだけ頼るという状況にならないのも大きなアドバンテージである。そしてこの時期は乾季であり、雨の方は期待できないが大きな問題にはなるまい

『なに、今度も上手くゆくさ』

連合国海軍は枢軸海軍に対して負け越し続けている。その中での北岬沖海戦は待ちに待ったものであった故に、栄光よ再び、とフレーザーの双肩にかかるものは大きい。最近はストレートティーを飲み続けるのが胃に対して厳しい

『やれやれ・・・』

英雄になんぞなるもんじゃないな、と嘆息しつつ、司令部の窓から眼下に広がる港に在泊する艦艇を見やる。援蒋ルートを維持するための物資を積んだ輸送船団が、朝焼けの中に佇む艦隊と共にひしめいている。ウィンゲート旅団を基幹とした妨害作戦をはじめ、レド公道構築のための物資や人員はいうに及ばず、インド東部や中国内陸での反攻作戦に必要とされる物資量は増加しており、輸送機による空輸や鉄道網での輸送では追いつかない。これの安全性確保の為にも、敵艦隊へのダメージは必須であった・・・・必要に迫られているのは敵だけじゃなくこちらもか

『ただ、苦難の時を耐え忍べ、か・・・』

すでに出撃準備を整えるようには下命してある。あとは征くのみ

『夜はやがて明ける。暁の水平線に勝利を刻みたいものだな』

英太平洋艦隊はこれより日本海軍に対して決戦に挑むのだ


英太平洋艦隊

戦艦アンソン ハウ

空母ヴィクトリアス(D級×1DE×3)

軽巡セイロン グラスゴー

駆逐艦ユリシーズ ヴェルラム ヴィーナス ヴィラーゴ

   ティーザー テネイジャス ターマガント タスカン


吹雪『セリフ・・・訴訟も辞さない』



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