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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十二章 ようやく三学期
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退院後の初登校

 久しぶりに竜神と一緒に登校だー!!!


 すっげー嬉しい! 超嬉しい!

 一緒に登校できるって、こんなに幸せなことだったんだなー!!

 いつの間にか二人で登校することが当たり前になってて幸せだってことさえ判らなくなってたよ。

 慣れって怖いなぁ。


 竜神の腕と俺の肩がぶつかる0距離で並んで歩きながら、ニヤニヤ気持ち悪い笑いがやめられなくてマフラーで口元を隠す。


「おはよー!」


 教室のドアを開けて昨日までより1.5倍の大声で挨拶する。

「おは……あー! 竜神! 久しぶりー!」

「おー」

「え? 竜神? うぉ竜神だ! 退院、おめっとー!!」

「うっわ、まじ登校してきた!」

「登校してきちゃ悪いのかよ」

「ずっと来なかったから学校辞めるかもって心配してたんだよー! 怪我治ったのか? お前のでけー体見るのも久しぶりだな。……身長伸びた?」

「伸びてねーよ」

 竜神が笑って島内に答える。

「すげー久しぶりだなー!」

 山原が席から立ってばしっと竜神の背中を叩いた。

「や、やめろー! まだ完治してないんだから叩くなー!」

 全身の毛が逆立つぐらいに驚いて、山原を鞄で押し返してしまう。


「あ、わり! 銀行に強盗に入って警察官に銃撃されて入院してたんだったな。登校できたってことは無罪になったのか?」 

「え? おれ、とうとうヤクザの事務所にカチコミ掛けて日本刀で切られたって聞いたけど」

 山原と高比良が顔を見合わせた。


「誰がんなデマ流してんだよ」


「花沢」「達樹」


「あいつらか……。変な話を信じてんじゃねーよ。階段から落ちて肩甲骨骨折しただけだから」


「退院おめでとう強志ー!! これ、クラス全員からのお祝い!」


 クラスの副委員である因幡さんが可愛い花束と大きな袋を竜神に差し出した。

 透明な袋の中には、いろんな種類のお菓子がたっぷり入っている。


「わざわざありがとうな」

「お返し楽しみにしてるよー」

 ふふ。って笑って因幡さんが竜神にずいと詰め寄った。


 …………。

 なんか、ちょっと。


「オレ、貧乏だからあんま期待すんなよ。お返しの内容は未来に決めて貰うかな……」

 竜神は一歩下がって机に鞄を下げた。


 お返し? おおお! 任せろ!

 びし、と足を広げてポーズを取って集まったクラスメイト達に言い放つ。


「チコルチョコ鹿せんべい味、んまい棒福神漬け味、メロンパン出汁昆布味! 未来ちゃんお勧めセレクション!」


「「「ないわー」」」

「そ、即答!? お勧めなのに!」

 その場にいた全員に一気に拒絶されてしまった。ちょっとショックだ。


 トン。


 竜神の隣の机に鞄が乗った。美穂子だ。

 美穂子は人差し指を立ててふわっと髪を揺らして言った。


「じゃあ、耳の形のクッキー、指の形のグミ、目玉のキャンディーの入った美穂子ちゃんお勧めセレクション!」

 鞄からピンクのリボンでラッピングされた袋を取り出す。

 透明な袋の中に入っているのは血糊がべっとりと付いた耳、指、そしてつやつやと光る目玉!!


「グロ画像!!!」

 高比良が叫ぶ。

「グロ画像じゃないよ。お菓子だよ。この耳は私が作ったんだ。美味しいって評判良いんだから」

「熊谷も日向も可愛いのに好みがひっでえな」


「未来がすげー勢いで竜神の後ろに逃げて行ったぞ」


「逃げるに決まってるだろ!! なんでそんな怖いの持ち歩いてるんだよー!」

「竜神君に私から個人的に退院お祝い」


 ぴゃぎゃー。グロ詰め合わせパックが竜神に差し出されて、怪鳥のような悲鳴を上げてしまう。


「で、どっちのお勧めがいいんだ?」

 竜神がグロ詰め合わせパックを片手に、美穂子と俺を交互に指差した。

「二択!?」

「そっから二択!? 他のにしてくれよ!」

 東堂と山原が抗議する。


「あー。そういや、夢屋に一個100円でバカ面動物のストラップ売ってたな。あれにすっかな」


「お前真面目にお返しする気ねーだろ」

「お祝い返せ!」


 お祝いのお菓子を奪おうとする高比良を、竜神が足で押さえた。


「あ! ほんとにりゅうが登校してきてるー! ひさしぶりー」

「おう」


 岩元がいきなり突っ込んできて竜神に飛びついた。抱きついたわけじゃないけど、腕をギュって握ってる。


「未来! 竜神が登校できるようになってよかったねー!!」

 続いて俺に抱き付いてきた!

 ぬひゃぁあと悲鳴を上げてばたついてしまう。

 竜神がすぐに岩元の首根っこを掴んで引き剥がしてくれたけど。バクバク鳴る心臓を押さえて竜神の後ろで体を小さくしてしまった。


 竜神が居ない間は、皆、俺に気を使ってくれて絶対くっついてこなかったのに、竜神が退院した途端これか!

 まだ不意打ちだと駄目だな……。セクハラしてきたら反撃できるけど、喜んでくれてるだけの女の子を殴るのはさすがに悪いしな。


「未来、オレ、ちょっと上に行くから」

「え? どうして? もうすぐ授業始まっちゃうぞ」

「惨殺死体の処分に」

 竜神が俺に見えない位置で片手を上げた。

 そっちの手に握られているのは美穂子からのお祝いだ。

 もう血みどろのお菓子を見たくなくて、行ってらっしゃい!と、大きく手を振って送り出してしまった。お菓子だってわかってても目の前で食べられたら怖いからな!


 花がしおれないように花瓶に入れてから席に座る。

 そして、ぼんやりと考える。


 因幡さんが竜神のことを強志って呼ぶのとか、岩元が竜神にくっついて行くの、前は全然気にしてなかった。

 竜神と因幡さんは同じ中学校出身で、俺じゃ足元にも及ばないぐらいに長い付き合いだから、気安く接するのは当たり前だ。

 剣道の試合の時竜神に抱き付いてた岩元にだって、本物の女の子は可愛くて羨ましいって気持ちはあったけど、


(こんな、もやっとした気持ちにはならなかったのに)


「うひゃあ」


 いきなり髪を触られて変な声が出てしまった。

 美穂子がブラシ片手に後ろに立っていた。

「今日はポニーテールにしちゃおうかなー。ちょっと寒い?」

「にゃひゃひゃひゃ、寒いのは、へ、平気、だけどこしょばゆい」

「こ『そ』ばゆい。ね。いつになったら慣れるのかなー?」


 美穂子が俺の首の後ろ――しかも襟の中を指先でくすぐって、一気に全身に鳥肌が立った。

「ん……うひゃひゃひゃややめて美穂子! 死ぬ死ぬ」

 足までばたばた暴れて反動で机を蹴ってしまう。


 美穂子はすぐに悪戯をやめて、笑う俺に呆れながらもポニーテールにしてくれた。


「よし、完成ー。どう?」

 後ろから手渡された手鏡を受け取る。毎回こうやって鏡を見せてくれるけど、美穂子の腕前は確かなもので否の打ち所なんてない。今日も綺麗なポニーテールだ。


「浮かない顔してるね。気に食わなかった?」

 鏡に写った美穂子が首を傾げる。


「違うよ! 髪型はすげー綺麗だよ。ありがとう。そうじゃなくて、その…………」


 ちょっと躊躇ってから、美穂子の耳に両手を添えてさっきの気持ちを相談してみた。

 因幡さんが竜神を名前で呼ぶ事。岩元がくっついていくこと。

 見ていると、心のどこかがもやっとすると。


 美穂子は大きく息を呑んでから俺の肩を掴んだ。なぜだか満面の笑顔で。


「未来……!!!」


「美穂子、未来、お早う。今日はポニーテールにしたのか。可愛らしいな。よく似合っているぞ」


 と、同時に登校してきた百合が挨拶してきた。


「聞いて百合ちゃん! 未来がまた進歩したの!」

「ひゃめてー! なんか恥ずかしいから他に話すのは駄目だー!」


 いきなり大声で百合に暴露しようとした美穂子に後ろから抱き付いて慌てて口を押さえる。


「なんだ……? 私だけ仲間外れにするなんて寂しいじゃないか……」

 百合が切れ長の目に涙を浮かべた。


「嘘泣きはやめろ! もうその手には騙されないぞ!」

 なにせ何回も何回も何回も何回も騙され続けてきたからな!

 案の定、百合はチッと舌打ちした。


「それはそうと……竜神はとうとう死んだのか? ということは明日は葬式だな。弔辞は任せろ。あいつの悪事を無いこと無いこと暴露してやる」

「し、死んだなんて縁起でも無いこというなよ! 大体、無いこと無いこと暴露って変だろ。竜神は悪事なんか働かないぞ。捏造すんな!」


「あ」


 美穂子が口元を押さえて竜神の机を見た。

 机の上には花瓶が乗ってて、とても……縁起が悪い感じになってしまってた。

 これ、相手が竜神じゃなかったらイジメだと勘違いされてもおかしくない。


 こっそりとここに居ない竜神に謝罪して、花瓶をロッカーの上に移動させたのだった。


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