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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十二章 ようやく三学期
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小話(竜神の隠し子疑惑)

 お好み焼き屋からカラオケ店に移動している最中の、歩道橋の上での出来事です。

「ぱぱー」

 小さな女の子がお父さんを呼んでいる。


 美味しいお好み焼きやヤキソバをお腹一杯食べて、ゲームセンターでプリクラ撮った後は、カラオケ屋に行こうってことになった。

 片側三車線の道路に掛けられた歩道橋を歩く。

 花火大会の日には見物場所にもなるこの歩道橋は、一般的な歩道橋の四倍以上も広く、ベンチや花壇もある。

 家族連れがベンチに座って休憩してたので、女の子の声は気に止めてなかった。


「ぱぱー、まってー!」

「ん?」


 女の子の声が切羽詰ったものになってからようやく振り返る。

 小さな気配が足元を駆け抜けて、俺の前を歩いていた竜神の足に飛びついた。


「やっと捕まえたーぱぱー!」


 ぱ、パパ!!??


「リ、りゅうに隠し子……!!?」

「わぁ、可愛い隠し子ちゃんだねー」

「とうとう未来と破局か。来るべき時が来たな」

「ま、ままさか、竜神君に子どもが居たなんて、」

「おおー、修羅場」


 俺、美穂子、百合、浅見、達樹が口々に言う。

 美穂子や百合、達樹はふざけているだけだけど、俺は不安六割、浅見に至っては完全に竜神の隠し子だと信じているリアクションだ。


「隠し子なわけねーだろ。お前等ふざけんな」

 竜神はただでさえ人相の悪い顔を更に悪くして、隠し子疑惑に揺れた一同を睨む。

 それから膝を折って煉瓦道の上にしゃがみ、女の子と視線の高さを合わせた。


「どうした? 迷子か?」

「迷子じゃないよー。パパいるもん!」

 女の子はニコニコと満面の笑顔だ。


 竜神は立ち上がって周りを見回した。

「オレと間違うってことは、オレみたいな大男がパパってことだよな? すぐ見つかりそうなもんだけど……」

「それっぽい人居ないね」

 広いとはいえどもたかだか歩道橋だ。一目で見渡せる。

 規格外に長身なのは竜神しかいなかった。


 竜神はすぐに、周りを歩く人達に呼びかけた。


「迷子を保護しました! この子の保護者の方、いらっしゃいませんか!?」

 広く長い陸橋なのに隅々まで届く、良く通る声だ。

 こちらに視線をやる人はいれども、声を掛けてくる人はいなかった。


「交番に連れて行くしかねーかな……。未来、手を繋いでやってくれ」

「うん。おねーちゃんと行こう」

 この子と竜神が手を繋ごうものなら、竜神は中腰で歩く羽目になってしまう。

 背中を怪我してるのにそんな体勢させられないよ。

 たまには竜神の役に立とうと、女の子に手を差し出したんだけど。


「やだ。パパがいい」


 女の子はツンとそっぽ向いてしまった。

 いいい嫌がられた!!?


「パパ……! 娘がママをいじめるよ……」

 ショックのあまり声を震わせて竜神に飛びついてしまう。


「変な小芝居すんなって」

「凄いショックだったんだもん! もし将来娘にパパがいいなんて言われたらどうしよう……! 娘に嫉妬しちゃうよ母親失格だよ!」

「心配しなくても娘は父親なんかすぐ嫌いになるよ。一緒に服洗わないでとか言ったりな」

 暢気に言う竜神にずずいっと背伸びして接近して、至近距離から睨んでしまう。

「娘がお前にそんなこと言い出したら殴ってしまうかもしれん」


「思春期の娘が父親嫌うなんてありがちな事じゃねーか。オレはお前にさえ好かれてればそれでいいから気にすんな」



 竜神……!!



「パパなんかきらーい。浅見おじちゃんが本当のパパだったらよかったのにーって感じスかね」

 喜ぶ俺の後ろから達樹が水をさしてきた。両手で拳を作って顎に当て、芝居がかった女の子の口調で言う。


「それはやめろ。本気で凹むだろ」

 すげえ有り得そうだ……。と竜神が落ち込んでしまう。

 心配するな竜神。娘がそんなこと言い出したらがっつりお説教するから!


「それはないよ。僕なんかより竜神君の方がずっといい父親になるから。僕は人の親になるなんて絶対に無理だよ。僕が家庭なんか持ったら、きっと、家族全員を物凄い不幸な目に合わせちゃうし」

「も、物凄い不幸って何するつもりですか? 家庭内暴力でも振るうつもりですか? 意外っスね」

「暴力を振るったりはしないよ! でも、自分が結婚して子供持ってって生活が全然想像できないんだ。想像しようとしたらどす黒い闇みたいな暮らししか考え付かなくて……」

 眉間に皺を寄せて考え込む浅見に、達樹も言葉をなくして「そっすか」としか返せてない。


「パパがいいー! パパとお手手つなぐのー!」

 女の子がちょろちょろと竜神の周りを走る。


「パパね、背中を怪我してて、痛い痛いだからお手手繋げないの。お姉ちゃんで我慢してくれないかな?」


 しゃがみ込んだ美穂子が優しく微笑んで手を差し出す。


「……パパ、痛いの?」

「病院に行って、おーっきな注射されたばかりなの」

「…………。じゃあ、おねーちゃんと繋ぐ……」


 おおおお。女の子が素直に手を出したぞ。さすが美穂子……。


「アリス!」

 今度は後ろから女性の声がした。


「あ、ままー! ぱぱ、見つけたよ!」

 こちらに走ってくるコート姿の女の人に女の子が笑顔で手を振った。ママの登場にほっと安堵する。


 でも、パパを見つけたってどういう意味なんだろう。まさか、この子のパパは竜神とそっくりな人だったのかな。

 それで、今は亡くなってるとか――?


「こら、アリス! パパはここにいるだろう!」


 ん?


 女の人の後ろから、俺と同じぐらいに小柄な男性が続いていた。

 あの人がパパ? 竜神と全然タイプ違うぞ??


 ママがアリスちゃんの横に立って、頭を下げてきた。

「ごめんなさいね、家の子がご迷惑お掛けして。ちょっと目を離した隙に居なくなっちゃって」

「お気になさらないでください」

「よかったねアリスちゃん。お母さんとお父さん見つかって」

 竜神と美穂子が応対する。


「いやー! アリス、このパパがいいー! パパと一緒にお買い物するー!」

「え?」

 アリスちゃんは竜神の足にしがみ付いてじたばた暴れた。


「こら! やめなさいアリス! すみません、この子、背の高い男の人が好きみたいで、すぐにくっついて行っちゃうんです。本当にごめんなさい」

「それはまた……まだ幼いのに随分と風変わりな趣味をお持ちで」

 酷い返事をしたのは百合だ。こら、と美穂子が肱で突いてたしなめる。


 アリスちゃんは一騒ぎ起こしながらも、結構素直に、本物のパパに抱かれて去って行ったのだった。


「子どもって面倒っスねー」

 だな。

 声には出さないまでも、ぼやくように言って歩き出した達樹に返事する。


 でも。


 アリスちゃんが竜神をパパって呼んで、俺が自分のことママって言ったあの瞬間は、本当の夫婦になれたみたいでちょっぴり嬉しかったのだった。




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