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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十一章 みんなで大騒ぎ二回目
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スイーツビュッフェ②

 もたもたと取りに行こうとする俺に、百合が「注文したらどうだ?」って言ってくれた。

 このビュッフェは店員さんに持ってきてもらう事もできるから。

 でも、ビュッフェの醍醐味って自分で取りに行くところにあるからな。いろんな食べ物を前に、何を食べようか迷うのが楽しいし。

 お腹の具合からすると、後食べられてケーキ二個(アイスクリームやパフェは別腹だ)。さて、何にしようかな。


「未来ー見てこれ! 飴掛け壊さず取れたんだよー。アタシ、天才じゃない?」

 浦田が皿を突き出してくる。

 シューケーキに掛けられた糸みたいに繊細な飴が、綺麗なまま皿に乗せられていた。

「す、すげー! 天才だ……!」

「ふふふ見なおしたか。未来は何食べるの?」

「まだ迷い中」

「カフェ・プラリネ・ノワゼット美味しかったよ。とと、未来に付き合ってたら食べる時間無くなっちゃう。お先ー」

 あう。あっさりと浦田に置いて行かれてしまった。


 他の人の邪魔にならないよう気をつけながら、何を食べようかと迷う。


 隣に人影がたったから無意識に避けようとしたんだけど、

「タルト・オ・シトロンも美味しいよ」

 明らかに俺に掛けられた、ハスキーなアルトの声に顔を上げる。


 わ。


 隣に立っていたのは金髪と緑の目をした外人さんだった。

 短く切りそろえられたショートカットと切れ長の目、ボーイッシュな見た目なのに、それでも充分に綺麗な女の人だ。

 身長が百合以上に高い。俺の顔を覗くため首を傾げたので光を弾く金髪がふわりと動く。

 完璧な日本語だったから逆にびっくりしてしまった。

 しかも、この人も高校生だ。チェックを基調とした上品な制服を着てる。この制服……お嬢様校で名高い女子校――ジェファーソン女学院の制服だ。

 親の年収が一千万越えてないと入学さえ許されないって噂のある学校で、幼等部から大学までの一貫校。

 お金持ちのお嬢様だけが通える学校で美人が多く、この地域に住む男子高校生の憧れの的だったりする。

 だけど、体育祭どころか文化祭も毎年開かれると噂のあるダンスパーティーも、部外者一切立ち入り禁止の上全寮制で、一般人にはお知り会いになるきっかけさえ掴めない高嶺の花の女子校なのだ。


 うわーすげー綺麗な人。やっぱり噂通りのお嬢様学校なんだな……。そして……容貌も髪型も中性的なのに胸がデカイ。


「君、可愛いね」

「え、あ、」


 女の人だから俺をナンパしてるわけじゃないってのは判ってるんだけど、口説いてるみたいな口調で言われて答えに困ってしまう。


「ボクの名前はアシュレイ。よかったら、ケーキ一つ分だけでもボク達の席で食べていかない? ボクの学校、全寮制で他校の子と話す機会が無いから友達になりたいな」


「う、そ、その、他の友達と一緒で良ければ……」

 俺は思わず、美穂子達が座る席を見てしまった。


「ボクは君を誘っているんだよ」


 え!!? ひょっとしてナンパかこれ。

 ど、どうしよう。思わず竜神を探しそうになってしまう。

 駄目だ俺。女の人の誘いぐらい自分で断れなくてどうする。


「お、お誘いは嬉しいんですけど、知らない人と話すのが苦手だから……、ごめんなさい……」

 正直に言って逃げ出そうとすると、後ろにも同じ制服を着た金髪の女の人が立っていた。俺に一歩距離を詰めてくる。ヒールの高いローファーがかつ、と鳴った。ヒールを抜きにしてもこの人もまた身長が高く、ただでさえ胸でかいと思ったアシュレイさんより更にでかい。正確にはわからないけどGとかHってレベルだ多分。どっちも視線の高さに胸があるからすげー迫力なんですけど。


「あら、アシュレイ、この子誰?」

「友達になりたくて声を掛けたんだ。名前はまだ教えてもらってない」


 ショートカットのアシュレイさんと違い、背中の真ん中あたりまでウェーブの髪を伸ばしている。

 着ているのは高校の制服なのに化粧ばっちりで口紅までしてて、迫力がハンパ無い。こ、怖いぞ……!

 あうあうと困ってると、ウェーブさんの指が俺の顎を持ち上げた。


「可愛い子」

「うん。素敵だよね」


 ひいいい、ど、どなたか、どなたか助けてください。美穂子ー百合ー。


 よし、振り払って逃げよう。そう決意を固めた瞬間、「あーーーー!!」と絶叫が店内に響いた。

 金髪縦ロールの、でも俺と同じぐらい小柄な子がつかつかと歩み寄ってきた。


「アシュレイお姉様、リリィお姉様、その女が日向未来です!」


 ななな、なんで俺の名前知ってんだよ!?


「どうして貴方がここに居るの!?」

 敵に尋問するみたいな口調で聞かれて言葉を無くしてしまう。どうしてって言われても、御菓子食べに来ただけなんですけど。

 なんでこんな怒ってんだよ??


「これは忠告よ。冷泉様にべたべたするのはやめなさい! あの方はわたくしのフィアンセなんだから」


 HA!?

 冷泉? 冷泉って俺達をお化け屋敷に拉致した変態の名前だよな!? なんであいつにべたべたしなきゃならないんだよゾンビ思い出すから顔も見たくないのに!


「冷泉にべたべたなんかしてないよ! それどころか二学期になってから顔も見て無い」


「よくもまぁそんな嘘が言えるわね。貴方が冷泉様に懸想してるのは調べがついてるのよ」

「どこの調べ!? 懸想なんかしてるわけないだろ冷泉なんか99割他人だよ! 知人でもない!」

「落ち着け未来。10割超えてるぞ」

「どうしたの? この人達誰?」

「ゆ、百合、美穂子……! 知らない人達だよ……意味不明に因縁を掛けられました」


 ようやく俺の癒しが来てくれて美穂子に駆け寄る。

 縦ロールさんがぽかんと口を開けて、百合を震える指先でさした。


「は、花沢百合ぃいいい!!!?? な、なんであんたまで……! ま、まさか、そこの女、あんたの差し金じゃないでしょうね!?」

 今度は縦ロールさんが百合の名前を呼んだ。え!? こいつ、百合の知り合いなのか?

 指差して怒鳴られていると言うのに、百合は意に介してもなかった。


「どちら様だったかな?」

「な!!? わ、忘れたっていうの!? わたくしのことを……!?」

「すまないな。人の顔をおぼえるのが苦手で、特徴のない相手のことはすぐに忘れてしまうんだ」


 金髪! 縦ロール! 明らかに日本人じゃない容貌! すげー特徴だぞ! なんで忘れられるんだよ。


「ふ、ふざけるんじゃないわよ、この女……!」

 縦ロールが掌を振りかぶった。

 百合が殴られる!


 思わず百合の頭を抱いて胸に庇った。――けど、覚悟していた痛みは襲ってこなかった。


「おやめなさいヘンリエッタ。暴力を振るうなんて下品よ」


 リリィと呼ばれたウェーブのお姉さんが縦ロールの腕を掴んで止めていた。よ、よかった……。

「お、お姉様……、でもこんな女にバカにされたままなんて……!」


「未来も私を庇うんじゃない。殴られたらカウンターで前歯を叩き折ってやるつもりだったのに台無しじゃないか」

「で、でも……」

 小指から順番に曲げるだけで、関節をパキパキと鳴らす百合に縦ロールが青ざめた。

 百合は俺を自分の後ろに隠すようにしながら、一歩前へ踏み出した。


「お久しぶりだなリリィ嬢、アシュレイ嬢。私の友人にちょっかいを出すのはやめて頂きたい」


 どこか攻撃的に百合が言い放つ。

 この人たちのこと知ってるんだ。百合だってお嬢様だもんな。お嬢様学校の人と繋がりあっても不思議はないか。


「それに……冷泉の名が出ていたようだが、未来は彼とは無関係だ。冷泉が一方的に言い寄っているに過ぎない。むしろ未来は迷惑しているんだ。私が冬月を付けてまで未来から冷泉を遠ざけているのに、一体、どんな杜撰な調査会社を使って調べたんだ?」

 冷淡に問い掛ける百合に、縦ロールが大げさな身振りをしながら答える。


「信用できる調査会社よ! 嘘の報告しかしない貴方とは違ってね!」


「あぁなるほど。雇い主の希望どおりの調査報告しかできない太鼓持ちを使ったのか」

「な、なんですって……!」


「百合さん、言いすぎよ」

 涙目になった縦ロールの前にリリィさんが立つ。

「全く、貴方も変わってないわね。黙って立っていれば名前の通り百合の花のように美しいのに」

 リリィさんの手が百合の頬を撫で、長い黒髪をさらりと指先に通した。

 な、なんかやらしいぞ。

 百合はパシ、とリリィさんの手を払いのける。


「ならばその女の誤解を解いて頂こうか。未来は冷泉とは無関係だとな。後はお任せしてもよろしいか?」


「ふ、ふざけるんじゃないわよ、下品な成金の分際でわたくしをここまでバカにするなんて……! 貴方が転校したのも、どうせ、ジェファーソン女学院の学費も払えなくなったからでしょう? それとも下種には本物の名家の令嬢達が醸し出す空気が辛かったのかしら」

「なんとでも」


 百合は相手にもして無かったのだが、俺が、駄目だった。

 縦ロールの言葉に、一気に目の前が真っ赤になった。


「どっちが下種だよ」

「え?」

 縦ロールも二人の金髪も驚いて俺を見た。


「ありもしない事実で人に変な誤解かけた上、百合に一方的に暴力振るおうとしたあんたの方が下種だ」


「出しゃばるのはお止めなさい。日向未来。わたくしの一言だけでも、貴方の生活なんか簡単に壊せるんだから」

「好きにすればいい。とにかく百合に謝れ」

 睨み付ける俺に、縦ロールは、は、と鼻を鳴らした。

「貧乏人って言葉遣いまで下賎で聞き苦しいわ。貴方の本性を知れば冷泉様もさぞ幻滅なさるでしょうね」

「冷泉なんかどうでもいい。あいつの事嫌いだから。フィアンセならわたしに迷惑掛けるなって言っといてよ」

「――――――!」


 縦ロールが顔を真っ赤にして俺を睨みつけてくる。

 俺、ビビリだけどこんな時まで引きたくない。

 真正面から睨み付けて受けて立つ。


「日向未来、貴方、リリィお姉様が主催なさる皇国ホテルのクリスマスパーティーに出席予定なのでしょう?」

 いきなり変わった話題に返事する義理もないので聞き流す。


「上流階級のパーティーに貧乏人がしゃしゃり出てくるなんて滑稽だわ。貴方がどんなボロを出すのか本当に楽しみ。わたくしはこれで失礼致します。アシュレイお姉様、リリィお姉様。お騒がせして申し訳ございません」


 表情を見せないまま、縦ロールはカバンを掴んで店を出て行った。


 アシュレイさんとリリィさんがふぅと溜息を付く。

 百合が小首を傾げて、長い黒髪が揺れた。

 

「冷泉にフィアンセが居たとは初耳だな。いつ婚約したんだ?」

 百合の質問に答えたのはリリィさんだった。


「あの子が一目惚れして勝手にフィアンセを名乗ってるだけよ。冷泉様も相手にはしてなくて……。それなのに、冷泉様に愛されていると思いこんでいるから私たちもどう説得しようかと悩んでいたの」

「……一時期は大変だったんだよ。冷泉様の屋敷にまで押しかけて警察沙汰になりかけたんだ。パーティー前に何とかしたかったんだけど、これじゃ無理だね。困ったな」

 リリィさんとアシュレイさんが困った顔をするけど、そんなの、俺にはどうでもよかった。


 百合を引っ張って席に戻る。それから、百合の肩を掴んで言った。


「百合、浅見にマナーの実技指導するんだよな? それ、一緒に受けさせて。あんな奴にバカにされないように完璧な立ち振る舞いしたい……!」

 負けて堪るもんか!!

 そう力む俺に、「お前は時々勇ましいな」と百合が苦笑した。


「未来ちゃん」

 甘く余韻の残るハスキーな声に呼ばれて振り返る。アシュレイさんだ。

 この人は悪くないって判ってはいるんだけど、ついつい視線を尖らせてしまう。


「嫌な思いさせてごめんね」


 アシュレイさんの手が頬に添えられる。

 え?

 冷たい指先にドキっとしてる間にアシュレイさんが腰を屈め、お、お、お、俺のほっぺたにキス、した!!


「●×〇#!!?」


 ちゅ、と吸いつかれた音が耳元で鳴って、アシュレイさんを突き飛ばして椅子の上で後ずさってしまった。

「な、な、な」


 言葉をなくして真っ赤になった俺に、アシュレイさんが笑う。


 今日の俺の髪型は、顔の両サイドだけを三つ編みにして、後ろはそのままストレートに流した髪型だ。

 アシュレイさんが細い三つ編みを掌に乗せる。


「パーティーで会えるのを楽しみにしてるよ」

「触るな」


 ぱしん、と百合がアシュレイさんの手を叩いてくれた。

 アシュレイさんはしばし百合を見ていたものの、ふわりと笑って、「失礼」とだけ答えて踵を返していった。


「うっわー、カッコいい女の人ー。あれ、誰? 未来、竜神から乗り換えるの?」


 突然アホなこと言い出した浦田の頭に、俺は涙目でチョップを落とした。




百合は小学校、中学校を全寮制の女学院で過ごしています。

お嬢様達との生活が肌に会わずに高校は桜丘へ。

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