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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十一章 みんなで大騒ぎ二回目
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スイーツビュッフェ①

「ふぁああああ」


 登校前の朝の駅の中、俺は、巨大なポスターの前で足を止めていた。

 十数枚もずらりと貼られたポスターはメンズのファッション広告で、起用されているモデルはなんと浅見だった。

 朝の忙しい時間帯だというのに、制服姿の女子からスーツ姿のお姉さんまで年齢を問わずきゃあきゃあ言いながら写メってる。


「すげー。浅見、あっという間に大人気だな……」

 俺が知ってる浅見は控えめで大人しくって、俺と同じぐらい会話が下手な人見知りな奴だからギャップに驚いてしまう。

「そうだな」

 竜神も感心したみたいに呟いた。


 俺も一枚写メ撮ろっと。んで浅見に見せてからかってやろ!


 と意気込んでたものの、教室に入った俺は浅見に挨拶も出来ないでいた。

 浅見、机の上に数十冊も本を積んで黙々と読書していたんだ。

 な、何冊あるんだよコレ……。


「それ、全部マナーの本なのか?」

 思わず数え初めてしまった俺の後ろから竜神が浅見に尋ねる。


「あ、お早う、竜神君、未来。うん、百合さんが貸してくれたんだ。マナーと作法の本」

「いくらなんでも多すぎるだろ……。読み終わる前にクリスマスになるぞ」

「大丈夫だよ。これぐらいなら何とか読破できると思う」


 浅見と竜神の会話に百合が割って入る。

「浅見は今、破竹の勢いで人気を得てるモデルだ。確実に女に囲まれるだろうから、ボロを出さないためにも徹底的に仕込んでおかないとな」

 確かに百合の言う通りだ。浅見は急激に人気が出たものの、素性が明かされて無いどころかインタビューにさえ答えてないそうだし。


「これだけ読まされるぐらいなら、実技指導の方が早ぇんじゃねーのか?」

「そちらも手配済みだ」

「徹底してるな」


 邪魔しちゃ悪いな。俺は自分の席に腰を下ろしてカバンから教科書を取り出した。

 急に、どん、と誰かが机にぶつかって来てびっくりして顔を上げる。

 浦田だった。


「ねね、未来、一緒にスイーツビュッフェいかない!? 無料券貰ったんだー」

「お断りいたします」

 間髪入れずに断りの返事をした。それはもうきっぱりと。

 浦田はテンション高く「ええええ!?」と叫ぶ。


「なんでー!? タダで食べ放題だよ! 一緒行こうよーみきー」

「やだよ! 食べながら俺のケツ触ったり胸揉んだりするつもりなんだろ! 絶対いかない!」

「お、おおう……、あんたの中でアタシはどんな変態女になってんのよ……」

「実際のお前がそんなだろ!」


 ショックを受けた顔をした浦田に構わず、俺は、ぎー! と眉を吊り上げた。

 いきなり抱きつかれて体撫でられたり、後ろから忍び寄られてケツ触られたりと散々泣かされたからな。食べ放題なんかに釣られないぞ。俺は自衛ができる女になるのだ。

「一緒行こうよー行ーこーうーよー」

 浦田が机の上に上半身を倒して、右へ左へとごろごろ転がり出す。うううウザイ……。

「そだ! 美穂子と百合も一緒行こう! それならいいでしょ? タダ券五枚あるしさ、アタシと未来、美穂子、百合、それと浅見、一緒に行こうよ!」

 がばっと飛び起きて百合と美穂子と浅見を誘い出す。

「私は……嬉しいけど、でも、いいの?」

 美穂子がきょとんと聞き返す。

「いいっていいって! 未来を怖がらせちゃったお詫びのつもりだったから」

 え! お詫びのつもりだったのか。話も聞かずに断って悪いことしちゃったかも……。


 百合と美穂子は行くって答えたんだけど、浅見は手を振って断った。


「ぼ、僕はちょっと……。女の子ばっかりの中に一人だけ男っていうのは……」

「えー、一緒行こうよぉ。今大人気モデルと、モデルより超可愛い女の子はべらせて歩くなんて気持ち良さそうだし」

 ぜ、前言撤回! やっぱり浦田ってどうしょうもないな!


 行こう行こうと浅見の制服を引っ張るが、浅見はがんとして断り続けた。


「嫌がってる奴を無理やり誘おうとするなよ。竜神、一緒に行こう」

 竜神の袖を掴んだ俺の手を浦田がぴしゃりと叩く。

「駄目」

「何で?」


 浦田はハァ、と大きく息を吸ってから言った。


「もうすぐクリスマスなのに、アタシ、カレシ居ないもん! あんた達のラブラブしてんの見るのきっつい! ウザイ! ムカツク! だから嫌!」

「へへへ変なこと言うな! ラブラブなんてしてないぞ!」

「とにかくダメー。却下」


 結局、一緒に行くのは俺と百合と美穂子と浦田。そして柳瀬さんの五人になったのだった。


 竜神には先に帰ってもらって、俺達五人は放課後、街へと繰り出した。


 街、とは、この地域で一番大きな商業施設のある商店街のことだ。

 観覧車のある百貨店「夢屋」を中心として放射線状に道路が伸び、色々な店舗が広がってる。

 ブランド店ばかりの「金持ち通り」食べ物屋ばかりの「グルメ通り」居酒屋やバーなんかがある「おっさん通り」。

 もちろん街がつけた正式名称じゃなくて、道についたあだ名なんだけど、この地域に住む人間だと大抵この名前で通じる。


 浦田が無料券を貰ったお店は、グルメ通りではなく金持ち通りに店舗を構えていた。

 金持ち通りは街灯もガードレールも豪華に装飾されていて、外国みたいなイメージが漂う通りだ。

 ここに、バイキングするような飲食店が出来るなんて珍しいな。


 景観ぶち壊しじゃないのかな? そんな俺の予想は綺麗に外れた。

 目的のお店はスイーツビュッフェがやってるとは思えない、高級感漂うフランス料理店のようなお店だった。フランス料理店になんか行った事ないから想像なんだけど。

「うっひゃー。なんか入り難いお店だね。制服のまま入っても大丈夫なのかな」

 券を持っていたのは浦田だというのに、浦田がドアの前で物怖じする。

 窓が無くて中の様子が全く判らないが、浦田の言う通り正装しか入れないような迫力があった。


「入ってみれば判るだろう」

 赤煉瓦の階段を登り、百合が躊躇無くドアを開いた。


 中は結構広くて席は八割も埋まっていた。店内に入ると同時にタワーみたいな皿に並べられた色とりどりのケーキが目に入って、俺は思わず「おおおお」と目を輝かせてしまった。

 焼肉食べ放題のお店のデザートみたいに、ショートケーキだのチーズケーキだのが並んでいるのを想像してたんだけど、全然違うな。

 飴細工で飾られていたり、ふんだんにフルーツが乗っていたりと、繊細で豪華なケーキが所狭しと並べられている。


 当然ではあるのだろうが、心配してたドレスコードは無くて俺達は笑顔の爽やかな黒服のお兄さんに席に案内された。


 このお店は、メニューを見て店員さんに頼んでも構わないし、ディスプレイされてるケーキを取ってきてもOKだというシステムになっていた。

 百合が早速紅茶を店員さんに注文して、「私は一息つくから、先に選んできていいぞ」と言ってくれた。


「ありがとう百合ちゃん。未来、いこう」

「うん」


 やたらと綺麗なお皿を手に、四人でケーキを吟味していく。


 フランボワジェ、オペラ、ゼフィール、シャルロットフリュイ……。

「わぁ……」

 俺はなんて言っていいのか判らず、ちょっと言葉を無くしてしまった。


 ケーキの名前がぜんっぜんわからない。


 でも、どれもこれも美味しそうで目移りしてしまう。

 ガトーフレーズ……? 見た目、苺のショートケーキっぽいけど、そうだよな?

 これにしよっと!


「未来、ムースとアイスもあるよ。パフェも自分で作っていいみたい」

「うわ、そんなのもあんの?」

 美穂子の所に行こうとしたら、横に居た柳瀬さんが隣のテーブルを指差した。

「向こうにはサンドイッチとパンもあったよ。チーズも十種類ぐらいあって面白かったよ」

「えー、サンドイッチもたべたいなー」

 うー、迷う。こう言う時、小食って不利だよな。

 竜神ぐらい食べられたら迷うことなく片っ端から食べてやるのに……!


「先に席に戻るねー」

「未来、さっさと選ばないと時間なくなっちゃうよ。一時間しかないんだから」

「み、短いんだな」

 浦田の言葉に驚いてしまう。バイキングの一時間なんかあっという間だもん。

 えーと、えーと、どれにしよっかな……。

 ウィークエンドオランジュ……? なんかわからないけど美味しそうだ。これにしよっと。


 席に座ると、小さくいただきますの挨拶をして苺のショートケーキを食べる。


「!!!」


 口に入れた途端、体がびく、と動いてしまった。ものすごく美味しくて!


「……今、未来の頭の上でヒヨコがぴよ、って鳴いたのが見えたよ」

「わたしは未来の頭にネコ耳が生えてピコ、って尖ったのが見えたかな」

 浦田と柳瀬さんがなにやら失礼な事を言ってるが、それどころじゃない。


「め、めちゃくちゃ美味しい……!」


「喜んで貰えてアタシも嬉しいよ」

「誘ってくれてありがとう! なんか幸せな味だな……あ、そっか! この味、誕生日に竜神が買ってくれたホールケーキと同じ味なんだ! 浦田、ひょっとしてこのお店、支店なのかな?」

「支店だけど……なにそのラブラブエピソード。それを聞かされたアタシはどうすればいいの? 爆発しろって呪えばいいの?」

「ウイークエンドなんとかもめちゃくちゃ美味しい……!」

「爆発しろー爆発しろー爆発しろー」


 ここに来ればいつでも食べられるぞ。


 次々に食べて楽しそうに取りに行く浦田や柳瀬さん、美穂子とは違い、俺は一人もたもた食べてもたもたケーキを取りに行く。


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