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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
一章 体の違いに右往左往する
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自分を変える勇気

 教科書でも読み上げるような淡々とした口調だったので、俺は一瞬返事の言葉もなか


「幸いなことに父さんはお祖母さん似で、辛い記憶をむやみと思い出させることもなかったんだけど、隔世遺伝っていうのかな。僕にだけ特徴が出ちゃったんだ。髪の毛も黒く染めてるだけで、本当は茶髪なんだ」


 俺は目を見開いていた。


「お祖母さんが僕の目と髪の色を酷く嫌がってね。ずっと気持ち悪いっていわれてきたから、人前に曝すのが怖くて。お祖母さんは三年も前に亡くなったっていうのにね」


 まるで人事のように苦く笑い、浅見は眼鏡を撫でた。

 眼鏡と長すぎる前髪は、浅見の自分を守るための鎧だったんだ。


「酷い、な」


 ぎゅ、と浅見の腕を握る。


「お前は一つも悪くないのに、気持ち悪いなんて、酷すぎる。でも…………」


 生前の俺には何一つわからなかっただろう。

 だけど、今なら、腹の底から涌きあがる恐怖を想像することができる。

 だって、酔っ払いに絡まれそうになった時どころか、さっき触られそうになった時でさえ、男のでかさに怖くなって逃げ出したんだから。たったあれだけの事だったのに。


「どんだけ、怖かったろうな」

 もし、公園で竜神が通りかからなかったらどうなっていただろう。


 暴れても暴れても逃げられない恐怖、圧倒的な力の差でねじ伏せられる恐怖、この体なんて、あっさり組み伏せられてしまう。ちょっと力のある男なら、首を捻りあげて殺すのも一瞬に違いない。


「浅見は優しいな。怖がるお祖母さんのために十五年も顔を隠して生きてきたなんて……。俺だったら絶対我慢できなくて顔を出しちゃってたよ。だって、そんだけ綺麗だしな」


「…………優しいなんていわれたの始めてだよ」


「優しすぎるよ」


「ありがとう…………」


 見えないはずの眼鏡の奥の瞳が、泣きそうに揺れたのを見た気がした。




「外してみようかな……。眼鏡」


「うん、それがいいよ。自分の目が気持ち悪いって思い続けるの嫌だろ? 誰もそんな風には思わないって俺が保障してやる。コンプレックスが一個解決するぞ。お前もいいかげん、お祖母さんの呪縛から逃れてもいいはずだしな」


「……今日、いきなり取る勇気はないから、明日外してくるね」

「うん!」


 ぱん、と背中を叩くと同時に、予鈴のチャイムが鳴りだした。


「教室に戻るか」


 ケツの埃を叩きながら立ち上がる。浅見も一緒に立ち上がった。


「明日もここに来るよね、日向くん」

「未来、でいいよ。君もいらない。あんま好きな名前じゃないんだけどさ」

「未来……? なんか、恥ずかしいな」


 浅見はまた顔を染めた。「おい、中身は男なんだからな」と太腿を膝で蹴りつけてやった。

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