未来の誕生日(二人の誕生日会①)
誕生日プレゼントは、今週末の日曜日に買いに行くことになった。
放課後、いつもと同じように、竜神と一緒に電車に乗って、桜咲町の駅で降りる。
俺の足は自然とスーパーへと向かっていた。
今日は俺の誕生日だから、晩ご飯は豪華にしようって、こっそりとたくらんでいた。
俺の家、母ちゃんがパートで兄ちゃんが医者志望で大変だったから、誕生日会をやっていたのは小学校二年生までだった。
誕生日ケーキのホールケーキ買って貰ったのだって、小学校四年生が最後だ。
母ちゃん仕事大変だし、貧乏だったから贅沢もいえなかったけど、五年生のころ、誕生日ケーキ無かったからすげーがっかりした。
良太は毎年みたいに誕生日会開いて俺を招いてくれたのに、俺は何もしてもらえないのが寂しかった。
それでも良太と俺はプレゼント交換してた。
良太がくれるプレゼントが、誕生日の証みたいなものだった。
良太のプレゼントなんて、ガムとかアメだったけど。
去年は砂糖一キロだった。ネタに走りすぎててむかついた。
俺はちゃんと良太が欲しがってた、金を入れたら貯金額が出る貯金箱やったってのに。
そういや、あいつのプレゼントに比べたら竜神の金券なんてすげーありがたいよな。
砂糖一キロなんて百円だぞ。
金券だって判った時点で気が抜けて、即、竜神に突き返してしまったけど、あれ、結構一杯入ってたよな。
しまった。また感謝してなかった。それどころか文句言ってしまった。
日曜日にプレゼント買って貰ったら、今度こそちゃんとお礼言わなきゃな。
お詫びに今日は竜神が好きなおかず作ろうっと。
それから、190円の二つ入りのショートケーキ買って帰ろ。
久しぶりに、俺の誕生日に人が居るのが嬉しい!
足取り軽く、スーパーへの曲がり角へ進もうとしてた俺の腕を、竜神が掴んだ。
「何?」
「今日は飯いらねー」
「え? 何で!?」
何でご飯いらないんだよ!?
ひょっとして、今日、竜神、実家に帰るつもりか!?
俺の誕生日なのに!
竜神は一緒にいてくれるって思ったのに、やっぱりお前もどっか行っちゃうのかよ!?
……でも、しょうがないか。
こいつ、俺が無理やり頼んで一緒に居てもらってるし。
兄ちゃんも……、母ちゃんでさえ、誕生日祝ってくれないぐらいだもん。
家族でさえそうなんだから、他人のこいつに、一緒に居てもらえるなんて考えが甘かったな。
……寂しいけどしょうがない。
引っ張られるまま自宅へ戻る。
なんかもう、何もやる気が起きなかった。
今日はお茶漬けにしよう。
ふ、と体から力を抜いて、引っ張ってくれる竜神の体にもたれかかった。
家に帰って部屋着に着替えてから、ぼんやりとリビングに出る。
今日は剣道の日なのに、竜神は部屋着でリビングに居た。
「りゅう、剣道の日だろ? 行かなくていいの?」
「今日は休み取った。晩飯はケータリング頼んでるから」
……え?
意味が判らなかった。
「けーたりんぐ?」
「あぁ」
「けーたりんぐって、出前ってことだよな?」
「……出前っつーか……、まぁ、そんなもんか?」
「な、なんで?」
「お前の誕生日だからに決まってるだろ」
「だってお前、プレゼントくれたのに! ご飯まで用意してくれたの!?」
「それとこれとは別」
別じゃねーよ!
なんだよ、どっか行くわけじゃなかったのか!
一緒に晩御飯食べてくれるんだ!
すげー! 超嬉しい! 一人でお茶漬け食べようって思ってたのに!
何頼んでくれたのかな!?
速攻で部屋に戻って、一番お気に入りの服に着替えてしまう。
着替えが終わると部屋を飛び出て、玄関に走る。
まだかなー。
ドアの前に立って、体をゆらゆらさせながらチャイムが鳴るのを待つ。
「来るのは六時から七時の時間指定にしてるから、落ち着いて待ってろよ」
「落ち付けないよ! 楽しみすぎるもん!」
「これでケータリングの中身外したら、また大騒ぎしそうだな」
「ケータリングを外す!? お前ならありうるか……ザル蕎麦か! ザル蕎麦を頼んだんだな。この季節にザル蕎麦は寒いぞ。俺があったかいお蕎麦に作りなおしてやろう」
「さすがにザル蕎麦じゃねーよ」
竜神は笑ってから否定した。
「じゃあラーメンだ! 当たった!?」
「ハズレ」
絶対ラーメンと思ったのに……。
「ならお好み焼きかなー。ピザはご馳走だから有り得ないとして……」
「なんでご馳走が有り得ないんだよ」
「お前がプレゼントを外す男だと学習したからな。ご馳走は除外に決まってるだろ! でも、何がきても嬉しいなあ。用意してくれるだけで充分」
顔が緩んで笑ってしまう。
三人掛けのソファに座ってる竜神の膝の上に寝そべって、ばたばた足をばたつかせる。
太くて硬い太腿に頬ずりして、変な笑い声を上げそうになる衝動を抑える。
何となく、ぎゅむ、と太腿を掴むと、やめろと止められた。
「なんで?」
「……わかんねーのか?」
「わかんねーて、何が」
竜神が身長に見合った長い腕を伸ばして、ホットパンツから伸びた俺の内股を掴んだ。
「うっひゃひゃひゃむひゃひゃうやひゃひゃ! ちょ、ちょ、くすぐったいやめて!! きゃあああ!」
太腿掴まれただけだってのに、超くすぐったいいいいい!!!
笑いながら竜神の手を振り払おうと暴れる。
うひゃうひゃ笑っても離してくれないから、俺も仕返しに竜神の腿を摘むんだけど反応が無い。
「ピンポイントな場所があるんだよ」
そういってますます力を入れてくる。
「あははははは、もうやめてしないから、ごめんなさいごめんなさい! ひゃひゃひゃひゃ」
竜神の腕をバンバン叩いて謝りまくる。
腹が痛くなるぐらい笑わせられてようやく、竜神の手が離れて行った。
笑いすぎて浮かんだ涙を拭ってから、
「くそ……!!」
往生際悪く、俺は竜神に飛びかかった。
狙うはわき腹だ。笑わされた分だけ笑わかしてやろうと突っ込んだ。
「う」
がし、と両手で止められて、ぐいと体を離され、逆に思いっきり胸の横辺りをくすぐられた。
「きゃひゃひゃうひゃひゃやめて、しぬしぬ!」
駄目だ体のスペックの差が!
腕の長さが違いすぎて勝負にならない!
ピロンピロン
チャイムの音が響く。
ご飯が来た!!
笑いすぎてぐったりして、竜神に体を抱えられたままのけぞってた。
竜神の手を振り払って、ぽす、とソファに落ちてから立ち上がり、カメラを確認するのも忘れて、玄関のドアに飛びついて行く。
「はーい、出ますー!」
笑いすぎて息を切らしながら、玄関のドアを開いた。
料理は、蕎麦でもラーメンでもお好み焼きでも無く、ご馳走だからと除外していたピザでもなかった。