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未来の誕生日(女はケダモノ)

 色仕掛けするって決めたのはいいけど、色仕掛けって何すればいいんだ?

 裸で竜神の前に出るのは簡単だけど、それって色仕掛けっていうか? 単なる変質者か露出狂だよな。

 色仕掛けするにも頭を使わないといけないなんて、生まれて初めて知った。女の人って考えなくても普通に出来ちゃうんだろうな。すっげーな。


 ぐるぐる考えながらも朝ご飯食べて、竜神と一緒に登校する。


「あ、丁度よかった! おっはよー、未来、竜神」

「おはよう」

「お、おはよ う」


 下駄箱の前で浦田と因幡さんが手を振って挨拶してきた。

 ちょっと、たじっとして挨拶を返す。

 因幡さんはいいんだけど、浦田は俺の髪で遊びまくる奴だから警戒してしまう。首に息も吹き掛けられたし。


「あんたの靴、こっちに移動させたから。間違わないようにね」

「え?」


 竜神と一緒に男子側に回ろうとしたら、腕を引っ張られて、女子の棚へと連れて行かれた。

 うちの学校の下駄箱はボックス型ではなく、本棚みたいな普通の棚だ。

 靴箱の下から二段目、名前順で一番最後の山崎さんの後ろに、「日向」のネームプレートが差し込まれていた。見慣れた上履きもちゃんとそこにある。


 何で今更? ずっと生前の場所使ってたのに。


「元の場所のままでいいよ。絶対間違っちゃう」

「駄目だよ。ほら、さっさと履き変える」

「う……」


 履き変えた途端、浦田が腕を絡ませてきた。何なんだよ一体……!

 女の子相手でもくっつかれたら怖いんだぞ俺は!


「あ、未来おはよー」

「お、おは、よ」


 廊下で他のクラスの子と話をしていた斉藤が俺の逆隣に立った。

 うわあ、もう、あんまり寄るなって!


「今日も可愛いぞー。腰のラインが溜まりませんなぁ。って! 腰細すぎ! 折れそう!」

「お尻も可愛いんだよね。あ、やらかーい」


「ぅやあああ!」


 思いっきりケツ撫でられた腰撫でられたあああ!! 信じられねえ! 我がクラスに二人も痴漢が!!

 腕を振り払って、後ろを歩いていた竜神の後ろに回りこんで隠れる。


「け、ケツ触るなちかんー!!」

「えー。超形のいいケツなのに、触らせてくれないなんて心狭い」

「いいじゃんケツぐらい減るもんじゃないんだし。女の子同士でしょー」

「女の子がケツケツ言うな!」

「未来だって言ってるくせに」


 腕を伸ばそうとしてきた浦田を避けて、慌てて竜神の逆方向へと回りこむ。竜神は浦田をカバンで止めてくれた。


「未来は体に触られるの駄目なんだよ。あんま寄んな」

「竜神にはくっついてるのに?」

「人見知りするからな」

「えーなにそれかわいー。ほーらほら、お姉さんは怖くないよー。ちっちっちっち」


「俺は猫じゃねー! つか充分怖いよ! ケツ触る女の傍に行けるか!」


「未来、おっはよー」


 背後から挨拶してきた岩元さんにケツをがしりと掴まれて、俺は本気で悲鳴を上げた。







 女なんてみんなケダモノだ。

 ケモノだ。

 オオカミなんだ。


 窓際の一番後ろの席に座る竜神の横、教室の角に座りこんでボロボロ泣いてしまう。俺の頭上には人間不信という巨大な筆文字がのしかかっているだろう。

 女の子が触ってくるなんて思ってもなかった。

 困ったみたいに竜神が撫でてくれるけどそれだけじゃ立ち直れない。まじで死ぬ。超怖かった。


「お早う……未来、どうしたの?」

 竜神の隣の席に美穂子が立った。百合も一緒だ。


「お早う美穂子、百合! 百合の事、変質者だと思っててごめんな。女ってみんな女の体に触りたがる習性があったんだな。俺、全然知らなかったよ」


「何もしてないのに好感度が上がっているな。なにか隠しイベントでも起こしたかな?」

 百合が教科書を机に入れながら苦笑する。


 俺の席に座ってた達樹が竜神の机に肱を付いた。

「先輩、そろそろ立ち直ったら? ケツ触られるぐらいどってことないでしょ。女の子同士なんだから」

「すぐ立ち直れるぐらいだったら怖がってねーんだよビビリなめんな!」

「いや、そこ威張られても」


「未来ー」

 岩元が声を掛けてきた。


「ふやぁああ、よ、寄るな! 俺に触るな! 泣くぞ! ほんっきで泣き喚くからな!」


 竜神を盾にしたまま叫ぶ。

 岩元は距離を保ったまま、俺にお菓子を差し出してきた。


「もう泣いてるじゃない。未来って変なお菓子好きだったよね。これ、あげる。トンコツラーメンチョコレート。泣かせたお詫び」

「え!?」


 トンコツラーメンチョコレート!?

 なんだそれ食べたい!

 チョコレートと銘打たれておきながらもスティック菓子らしく、円筒状の筒のお菓子だった。


 竜神の後ろからそっと手を伸ばす。


 二十センチ、十センチ、五センチ――――。

 もうちょっとで手が届くというところで、がしっと岩元に腕を捕まれ引っ張られた!


「うやぁああ! た、助けて竜神!」

「お前がバカすぎて助ける気力なくした」

「お菓子に釣られてごめんなさい! うぁああ! 手離してくださいいいい」


 一悶着あったものの、俺は無事チョコレートを手に入れ、席に座ったのだった。

 美穂子が「えい」って岩元の手にチョップ入れて助けてくれたんだ。美穂子はやっぱり俺の女神だ。


「わ、麺をチョコレートでコーティングしてる! はい、どーぞ、オスソワケ」

「いらねえ」

「え!? こんな面白いのにいらないの!?」

 竜神だけじゃなくて、美穂子にも百合にも浅見にも断られた。唯一達樹だけが食ったけど、口を押さえてじたばた暴れた。


「なんだこれ! チョコレートなのにラーメンの味がする! しかも乾麺じゃなくて生麺じゃねーか超マズ!! よく普通に食えますね先輩!」

「この変さが面白いんじゃねーかよ」

「変ってレベルじゃねーよ! 味覚おかしいんじゃねーの!?」

 おかしくねえよ普通だよ! ぎゃあぎゃあ騒いでる俺と達樹の間を、ふらふらと男子生徒が横切っていった。

 良太だった。


「みきー」


 席に座って、俺の机に伏せてくる。


「なんだよ。お前から話かけてくるなんて珍しいな」


「聞いてくれよー、美羽がさー、中学校時代の男友達と二人きりで遊んでやがったんだよ……。俺、美羽が嫌がるからお前と話すのもやめてたのにひどくね?」

 なんだそんなことか。

「美羽ちゃん昔からそういうとこあっただろ。それでも好きなんだろ? 今更何いってんだよ」 


 美羽ちゃん絡みの愚痴は、最終的に「でもそんなところが可愛いんだよなー」で終わるから正直まともに聞くつもりもない。

 さっくり流す。


「やっぱり俺、お前にしよっかなー。おっぱいもデケーし」

 

 良太の腕が伸びてきて、むにっと思いっきり胸を揉まれ――――「竜神!!」


 咄嗟に良太の頭を両手で庇った。

 竜神が椅子が傾くぐらいの勢いで俺を引き寄せて、良太の頭に拳を落とそうとしたから。

 拳は俺の掌の寸前で止まったものの、手の甲に流れた風の強さが尋常じゃない。これ、まともに入ってたら気ぐらい簡単に失ってそうだ。


「うぉあ!?」

 良太が飛び起きて後ずさった。


「洒落になってないって! 頭割る気かよ! やめてくれよ目の前でスプラッタとか!」

 叫ぶ俺を竜神が覗きこんでくる。


「大丈夫なのか未来」

「え? あ、うん、良太なら平気だよ」


 十年も付き合いのある男だからな。いくらなんでも怖くない。美羽ちゃんに触られた時だって傍に竜神がいなくても平気だったし。

 安心したのか表情が緩んだけど、竜神はまた視線を尖らせて良太を睨んだ。


「佐野」


「佐野」「佐野君」「佐野君」「良太先輩」


「う!? ……べべ便所いってきまーす」


 竜神だけじゃなく、百合に、浅見に、美穂子に、達樹に睨まれ、良太が立ち上がって逃げ出した。


「あ、良太……。」


 久しぶりに話せたのにこれで終わりかあ。もうちょっと話たかったな……。

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