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一緒にご飯食べたり、プレゼント貰ったり、【挿絵有り】

呉作様よりマンガを頂きました!いつもありがとうございます!

 俺と竜神の同居生活は意外なほど順調だった。

 学校帰りに二人でスーパーに寄って、晩御飯の買い物して帰るのが日課だ。


「きょーの、ばんごはん、は♪ 何に、し、よ♪、かなー♪」


 掲示板に張られたチラシを確認する。


「お! ひき肉安いな。竜神、ミートソースパスタ、ロールキャベツ、ハンバーグ、メンチカツ、ひき肉とカボチャの煮物、オムレツ、餃子。どれが食べたい?」

「メンチカツ」

「よし、けってー。揚げたてさっくさく♪ ソ、ー、スを、掛けて♪ お腹減ったからたっぷり作ろうっと。お前はいくつ食べる?」

「五個」

「相変わらず食べるよなー」

「揚げたてとか歌うからオレまで腹減った」


 戸建てが多い地区のスーパーだけあって、桜咲のスーパーはとても品揃えが良い。

 前に住んでた、「街」のスーパーより野菜も肉も安いのが謎だ。ありがたいけど。


「山田さんが作ったたまねぎ発見! いつも安くて助かります山田さん」

 「私が作りました 山田泰助」と書かれた五個入りたまねぎを竜神が持ってくれてる籠に入れる。

「知人みたいに言うのやめろ」

「知人だよ! 山田さんはたまねぎもにんじんも安く売ってくれる良い人なんだぞ。顔も知らないけど――――あ、そだ、弁当も買わなきゃ。ちょっとこっち」

「弁当?」

「お弁当箱」


 食料品売り場の端にある、食器と雑貨の売ってる売り場に入って、二段になった弁当箱を吟味する。

「これぐらいかな?」

 オレンジと青の二段になったBOXを手に取る、丁度良い大きさで、がっちりとした長方形で見た目も結構格好良い。

「お前が食べるにはでかすぎねえ?」

「俺のじゃないの。お前の弁当箱」

「オレの?」


「ん。明日から、お前の弁当も作るから」

「いらねーよ! これ以上お前の手間負やしたくねーし」

「手間って……。俺、毎日、自分の弁当作ってるから、一人分も二人分も変わらないよ」

「二人分じゃねーだろ。一気に四人分ぐらい手間増えるだろうが」


 確かに。竜神すげー食うもんな。この弁当箱だって俺の弁当の三つ分ぐらいあるし。


「気にすんな。昼飯にパンって腹持ち悪いだろ? 体でかいんだからがっつり米食べたがいいって」

「…………」


 竜神が困ったように無言になってしまった。


 なんで困って――――あ、ひょっとして!


「お前、お弁当駄目なタイプ!?」


 不衛生な感じがして、お弁当食べられない人がいるって聞いた事ある。こいつもそうだったのかな。

 しまった、繊細さとは無縁な顔してるから油断してた!


「弁当駄目なタイプ?」


 竜神が不思議そうに鸚鵡返しにしてきた。


「人の握ったおにぎり食べられなかったり、不衛生な感じして無理ってなったり」

「そんな繊細だったらオレとっくに餓死してるぞ。自分で飯作れねーんだから。そうじゃなくて、ただでさえ家事できなくてお前に負担掛けてんのに、これ以上手間を増やしたくないんだよ」


 違った、良かった!


「家事してくれてるだろ。自分の部屋の掃除も、風呂掃除も。俺、お前のご両親に不自由な思いはさせませんって誓ってお前を貰い受けたのに、家事させてるなんて知られたらがっかりさせそう」

「貰い受けたってなんだ。風呂掃除しかしてないってお袋と花に知られたら、間違いなくぶん殴られるよ」

「そんなわけないだろ。実家でも家事はお母さんとおばあさんがしてくれてたんだろ? さ、この話は終わり。早く帰ってご飯作らないと」


 竜神を黙らせて食料品売り場に戻る。

 ひき肉、たまねぎ、大根、卵、ヒジキと大豆が安かったから買って、家に帰ってから早速、晩御飯の下ごしらえを始める。

 竜神には軽食に、おにぎりとボイルしたウインナーと卵焼きを出した。今日は、おじいさんの道場に通う日だから。


 竜神は、週の半分以上を、剣道、柔道、ジム、それから、おじいさんの格闘術道場で費やしてる忙しい男だった。

 六月からずっと一緒に居たのに全然知らなかった。


 なんか申し訳ないよ。助けてもらうときだけ助けてもらって、頑張ってることに気が付きもしなかったなんて。

 家事の負担を増やしたくないって言ってくれたけど、俺のために喧嘩までしてくれてる御礼みたいなもんだから、弁当や掃除ぐらいやらせてほしいぞ。


 家の掃除して洗濯物取り込んで、ジャンプ読んで、竜神が帰ってくる八時に合わせて晩御飯の準備を始める。


 今日のメニューはメンチカツの他に、ひじきと大豆の煮物とお味噌汁を用意してる。箸休めにはお漬物と酢の物。カツのつけ合わせはキャベツとミニトマトとゆで卵。ゆで卵は大目に茹でておいて、明日のお弁当用に二つ冷蔵庫行きっと。


 竜神はばっちりのタイミングで帰ってきて、シャワーを浴びにお風呂に行った。

 さくさくに揚がったメンチカツを食べやすいように二つに切ってソースを掛ける。熱々のせいかソースの匂いが香ばしく立ち上ってきた。


「腹減ったー。すげーいい匂いしてんな」

「髪乾かしてこいよ。風邪ひいちゃうぞ」

「いい。腹へって死ぬから先に食う」


 この家のダイニングテーブルは六人掛けだ。二人しかいないっていうのに俺も竜神も毎回同じ場所に座ってしまう。

 竜神は座ると同時に、いただきますって挨拶して食べ始めた。


「今更だけど、食器の差すげーよな……」

 竜神が感心したみたいに言った。

 大皿を除いても、竜神の前には食器がいくつも並んでる。一方、俺の前にはワンプレート+ご飯とお味噌汁だけだ。仕切りのある食器に、いろんなおかずをお子様ランチみたいに盛り付けてる。

 茶碗だって俺の茶碗の大きさは竜神の茶碗の半分しかなかった。


「そんなオモチャみたいな茶碗、どこで売ってんだ?」

「百均です。可愛いだろ、このバカ面の犬」

「お前の持ち物ってバカ面のキャラクター物ばっかだよな」

「ばっかじゃねーよ! でも、愛嬌あって好きなんだもん」

「味噌汁の椀もバカ面の鳥だし」

 竜神が笑う。

「あ、そだ、近いうちに皆誘って、ここでお泊まり会しようよ! 布団も干したからさ」

「あぁ、いいんじゃねーの。お前がいいならオレはいつでもいいぞ」


 よし! じゃあ明日にでも誘ってみよっと!





 ご飯の後はそれぞれ好き勝手に過ごす。


 俺は、お風呂に入って、リビングのソファの上で髪を乾かしていた。

 ドライヤーの冷風に細くて柔らかい髪が揺れる。

 肩下十センチ程度しかなかった髪は、この夏の間に二の腕の真ん中辺りまで伸びていた。


「そろそろ、切らなきゃな……」

 床屋に行くの面倒くさくて、前髪は自分で切って横着してたけどもう限界だ。

 この辺、床屋あるかな――って床屋は駄目だった。千五百円ぐらいで切ってくれるパーマ屋さん探さないと。母ちゃんと一緒に通ったパーマ屋さんはここからだと遠すぎる。


「切るのか?」

 向かいに座ってジャンプ読んでた竜神が驚いたみたいに言った。


「切るよ。早苗ちゃんが、肩より十センチぐらい下までの長さだったから」


「…………」


 もっと沢山生きていたかっただろうに、死んでしまった早苗ちゃん。

 ちゃんと、早苗ちゃんの姿のままでいてあげなきゃ、可哀相だもん。


「伸ばした方が似合うけど」



「え」



「綺麗な髪してるから、切るよりも長い方が可愛い」


 うっ!

 だから、びっくりするんだから急に可愛いって言うな! 褒め言葉にもTPOってもんがあるだろ!


「で、でも、早苗ちゃんの髪の長さでいないと、早苗ちゃんが悲しむかもしれないし、可哀相だし」


「早苗ちゃんだって女なんだから、生前の形に拘るより似合う髪型でいたほうが喜ぶんじゃねーの? 体は成長するんだから、似合う髪型だって変わってくるだろ」


 …………!!!


 も、盲点だったああ!

 生前の姿でいることが早苗ちゃんへの恩返しのつもりでいたけど、確かに似合う似合わないってある。


「考えた事なかった……!」


 完全に思考停止してた。

 スタンドミラーを引き寄せて、顔を鏡に写す。


 確かにちょっと長いぐらいが似合うかも……。髪がさらって流れるのが綺麗なんだよな。細いし柔らかいのにコシがあるっていうのかな? 風に吹かれても綺麗に纏まってくれるありがたい髪質だから多少長くても暑苦しく見えないし。


 それに、竜神が言うなら。

 早苗ちゃんが好きなこいつが言うなら、伸ばしてあげるべきだ。


 よし、後ろはもうちょっと伸ばすか。前髪がまた伸びてるからどっちにせよパーマ屋さんにはいかないとな。これ以上自分で切ったら、バランスおかしくなっちゃう。


 竜神がソファから立ち上がって、部屋に引っ込んで行った。う、もう部屋に篭るのかな。リビングが広く感じて急に心細くなる。俺もさっさと髪乾かして部屋に入ろう。そう焦ってたら、また、竜神が部屋から出てきた。

 リボンの掛けられた、小さな袋を持って。


「これ、やるよ」


「え!? 何!?」


 竜神からなんか貰うって初めて――じゃないな。結構いろいろ貰ってきたな。食べ物とか飲み物とか。

 でも、こんなちゃんとしたプレゼント貰うの初めてだ。

 誕生日でもないってのになんだろう。

 そういやこいつ、美穂子にもプレゼントしてたよな。メダ君だっけ? あれ? バボ君だったかな? 目のお化けのマスコット。

 さっきバカ面の動物の話してたし、雑貨かな!?


「開けていい!?」

「ああ」


 袋を破らないようシールをそっと剥がして、袋の中に手を入れる。冷たく硬い感触が指に触れた。プラスチックケースだ。


 え、え、ま、まさかアクセサリーとか!?





 ドキドキしながら中身をゆっくりと引き出していく―――――――――と、目に飛び込んできたのは「防犯ブザー」と書かれたロゴ。


挿絵(By みてみん)


「ブザー、一個しか持ってないから持ち忘れることあったろ? 学校専用と私服専用に分けて使っとけ」

「お前にはがっかりだよ!!」

「え?」


 超! 実用品! だった! なんだこのガッカリ感!


「これは違うだろ! プレゼントってのはもっとこう、こう!」

 思わずバンバンとテーブルを叩きながら抗議してしまった。

 駄目だ俺! プレゼント貰ったってのにこんな態度は良くないだろ!


「――――……使わせていただきます。ありがとうございます」

 少々ふてくされながらも文句を引っ込め、頭を下げて礼を言う。


「使うのか? デザインが気に食わないのかと思った」

「デザイン?」

 あ、まだデザインも見てなかった。思わず閉じてしまった袋から中身を取り出す。

「――――」

 サッカーボール型だ! 球体じゃなくて平べったく少々デフォルメされたデザインで、一見すると普通のストラップにしか見えない。


「ブザーってこんな形のもあったんだ。かっこいいな!」


「いいのか? じゃあなんで怒ったんだ?」

「そこは察しろよ! こんなちゃんと包装された袋貰ったら期待しちゃうだろ」

「あぁ、そうか、安物でわる「違います! 値段じゃないよ! っつーかこれも安物じゃないだろ!?」


 食い気味に否定すると、竜神は首を傾げた。


「安物だけど……。値段でもデザインでもないなら何で怒ってんだ?」


 あれ?

 なんだっけ?


 頭の中にイメージがあったはずなのに、聞かれた途端霧散してしまった。

 プレゼントってのは、もっと、

 こう?


 こう、何だっけ?


「あれ? 何で怒ったんだっけ?」

「おい、怒っておいて理由無しかよ」

「あったんだけど忘れちゃった。その、ごめん」

「お前がどのタイミングで怒るのかまじでわかんねえ……。子猫か子犬相手にしてる気分になる」


 あぁ……子犬とか子猫って、一緒に遊んでたら最初は余裕持ってじゃれてくるのに、いつの間にか本気になって爪立てて猫キック食らわしてきたり、甘噛みが本気の噛み力になって振り回そうとしてきたりするもんな……。いや、あいつらも本気じゃないんだよ。ただちょっとムキになっちゃうだけなんだよ。


 竜神はぼやくように続けた。

「夏休みに頭撫でたときも意味不明に襲いかかってきたし」


 え? そんなことあったっけ?


 パッケージを破らないように、用心深くホチキスを外して、取り出した防犯ブザーに電池を入れる。

 試しに鳴らしてみると、中々の爆音だった。


「うわ、結構すげー。ありがとうな、これなら心強いよ。学校のカバンにつけるの勿体無いなあ。でもでも毎日持ち歩くのはカバンだし……」


 一番気に入ってるバッグにつけたい所だけど、やっぱり一番持ち歩くカバンにつけたがいいかなあ。むー、迷うなあ……。




―――――――――――




 翌朝、サッカーボールをつけたカバンを持って、竜神と一緒に学校に登校した。




 竜神は屋上に行くとのことなので、階段で別れて一人で教室に入る。


 学期が変わり、席替えがあって、俺達は窓際の後ろの席という一番理想の席を確保していた。


 ウチの担任は結構いい加減で、席がえも「好きな席を選んでいいから。ブッキングしたらじゃんけんで勝敗決めろ」って適当さだ。

 じゃんけんに異様に強い百合のお陰で、俺、竜神、浅見、百合、美穂子、そして、良太の六人が窓際後ろ二列で固まり、同じ班となった。

 窓際一番後ろが竜神で、前が俺、俺の前が良太。良太の横が百合で、後ろが浅見、そして一番後ろ、竜神の隣が美穂子だ。


「お早う美穂子」

「お早う!」


 俺が登校すると、美穂子がブラシ片手に楽しそうな顔で俺の後ろの席――竜神の席に座った。

 母ちゃんが家を出て行ってからというもの、美穂子が俺の髪を結んでくれてるんだ。

「今日はどんな髪型にしようかなー」

 美穂子がそう呟きつつ俺の髪に指を通した。

「あひゃひゃひゃ、うみゃひゃひゃ、○×■□※★」

 うわあ何度されてもくすぐったい! 頭がぞわぞわしちゃう! 笑い声を立てながら足をばたばたさせてしまう。


「変な笑い方しないー」

「くすぐったいんだもん! 母ちゃんから結んでもらうの全然へきだったのにゃははは、美穂子の指ってくすぐったい」

「何回も結んでるのに全然慣れないんだから……昨日はサイドアップだったから今日はおだんごにしちゃおうかなー」

 美穂子が笑顔で悩みながらも俺の髪を指でいじりつづける。やめて、ほんと擽ったいんだって!

「気になってたんだけど、そろそろ美容室に行った方がいいんじゃない?」

 美穂子が後ろから抱き締めるみたいに腕を回してきて、俺の前髪を額に押し付けた。


「ほら、前髪だいぶ伸びちゃってるよ」

「うん。丁度、新しいパーマ屋さん探さないとって思ってたんだ」

「パーマ屋さん? 美容室じゃなくて?」

「美容室なんて緊張するから入れないもん」

 おばちゃんが一人できりもりしてるタイプの、町のパーマ屋さんがいい。

 椅子に戻った美穂子が、さわりと細い指で髪を取って、くすぐったくてまた笑ってしまう。


 くすぐったいけど細い指が気持ちいいなー、なんて油断してる最中に。


 ふっ。


 美穂子が髪を触ってたからむき出しになってた耳に、息が吹きかけられた。


「あぅッ……」


 痺れみたいな衝撃が一気に背中まで走った。体が跳ねて、首を竦めて体を丸めてしまう。


「百合ちゃん……!」


 ぐぅ……! 変な声出た……!


 一瞬で耳まで熱くなった。机にゴンッっておでこをぶつける勢いで伏せる。

 くそ……最悪だ……!! 

 美穂子の読んだ名前でもわかるよう、こんなタチ悪い悪戯する人間なんて一人しか居ない。百合のバカだ。

 うわああんもう恥ずかしい恥ずかしい! 机に伏せて頭を抱えて体を身悶えさせる。


「お早う……凄い注目されてるけど、どうかした?」

 丁度良く登校してきた浅見が不思議そうに挨拶してきた。

 注目されてんの!? ひょっとして周りに聞こえたの!? うわあああああああ死にたい死にたい!!


「浅見君、百合ちゃんを拘束!」

「うん?」

 疑問系の返事だったけど、浅見は百合を拘束したようだ。百合の怒声と、抵抗して床を踏み鳴らす音がした。

「離せ浅見! セクハラで訴えるぞ!」

「浅見君訴える前に百合ちゃんが未来から訴えられればいいんだよ! 百合ちゃん、未来にごめんなさいって謝って!」

「う……」

「百~合~ちゃ~ん」


「……………………………………わ、侘びに私がパーマ屋へ連れて行ってやろう。奢ってやる」

「え!? 奢ってくれるの!?」


 ついつい奢りって言葉に反応してしまう。顔を上げられなくて机に伏せたままだけど。


「百合さん……お金で懐柔しようとするのはどうかと思う」

「喜んでいるからいいじゃないか。いい加減離せ」

「うん」

「未来もすぐお金に騙されちゃうんだから……」

「び、貧乏なんだもん! つい……」

 美穂子の苦笑に言い訳がましく返事する。


「こっち向いて未来。今日は髪結ぶのやめて前髪だけ上げとこう。目にかかりそうだったしちくちくするでしょ?」

 クラスの中を見ないように、窓際周りで椅子を回す。まだ顔が熱い。


 前髪触られるのもやっぱりくすぐったくて、くふくふ笑ってしまう。美穂子は手際よく髪をゴムで上げ、×印になったピンで止めてくれた。

「うん、可愛い! 見て、百合ちゃん、浅見君。未来のおでこ出しー」

「あぁ、本当に可愛いな……しかしいつまで赤面しているつもりだ。耳まで赤くして俯くな。襲いたくなるから」


 おおおおお前のせいだろ! 襲うとか言うなセクハラ反対!



「お邪魔しマース!」達樹が挨拶をして教室に入ってきた。


「お早う、達樹」

「お早うございます! あ、先輩、デコ出し超可愛いっスね!」

 はしゃいだ達樹が、俺の頬に掌を掛けてデコにキスしようとしてきた。

 ひぃいこのクソガキ!って俺が掌底で押し返すより早く、


「うぁあ!?」


 達樹が叫んで顔を横にずらした。


 百合がフェイシングでもするみたいにシャープペンを突き出していた。

 達樹の目を狙って。

 間一髪で避けはしたけど、ペン先の金具に切られた達樹の髪が数本、はらはらと落ちてくる。


 ひぃいいい……。


「ゆ、百合センパイ!! 目! 目ェ狙いましたよね今!」

「それがどうした。どこかの偉人が言っただろう? 右目を潰されたら左目も潰されなさいとかなんとか」

「聞いた事もねー! うぉ! 洒落にならねえ!」


 再び目を狙われて達樹が凄い速さで逃げて行く。おぉ、さすが中等部サッカー部切っての俊足。

「全く。私の前で未来に手を出そうなど厚かましい男だ」

 百合がシャープペンを指先でくるくると回した。

 お前……俺に散々手出してるくせ、人がやるのは許せないって、ほんと、お前……。




竜神からアクセサリーを貰えてれば「俺は女の子」だって自覚が一歩進んだだろうに残念!アクセサリーを期待したことも驚きと同時に霧散しました。

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