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まさかの一人暮らし(後編)

竜神の両親が出てきますが、欝展開の両親とは名前が同じだけの別人だと思ってください。普通の父ちゃん(ただしでかい)と普通の母ちゃん(ただしでかい)です

 とにかく全ては来週の日曜日からだ。問題を先送りにして、家に帰ってまったり寛いでると、母ちゃんがスーパーの袋を三つも下げて帰ってきた。


「今日はご馳走を作るから楽しみにしてなさいね!」


 なんだろう? 今日、何かの記念日だっけ?


 母ちゃんが鼻歌を歌いながら手際よく料理を作っていく。

 唐揚げ、オムレツ、ナポリタン、フルーツサラダ、ポテトサラダ、豆腐とわかめの味噌汁、卵焼き、グラタン、たこさんウインナー。

 ご馳走というには庶民的だけど、俺と兄ちゃんが大好きなメニューばかりがテーブルに並んでいく。


「おおー! すげー」


 丁度出来たころに兄ちゃんが帰ってきた。

「ただいま」

「兄ちゃんお帰り! こっちに帰ってくるなんて珍しいな!」

「今日ぐらいはな。仕事の休憩で戻ってきただけだからまた出なきゃならんが」


 今日ぐらい? やっぱ今日って何かあったのかな。やべ、俺、何も思い出せない。なんだっけ?


 記念日を忘れてたなんて知られたら怒られるから、ご飯食べながら様子を伺いつつ、何のお祝いか推測を頑張る。

 でも飛び交う会話は唐揚げ美味いとか、フルーツサラダなんて久しぶりとか、そんなどうでもいい内容ばかりだ。


「あの……母ちゃん、今日ってなんのお祝い?」

 怒られるのを覚悟でおどおど聞くと、母ちゃんは意外にも笑顔で答えてくれた。


「話して無かったかしら? 今日、大和田さんと籍を入れてきたのよ」

「席?」

「籍。入籍したの。再婚するって言ってたでしょ?」


 さ


 再婚!!!????


「いってねええええええ!! 母ちゃんその歳で再婚すんのおおお!!?」

 すぱん! 勢い良く頭を殴られてしまう。


「相手は!? 大和田さんって誰!? 俺、顔も合わせてないんだけど!」

 痛みに頭を抱えながら質問を続ける。


「なかなか時間が会わなかったからねぇ。まぁ、そのうち写真でも送るわ――あ、もうこんな時間。そろそろ出発するわね」


 え? 送る? 出発? どゆこと?


「か、かあちゃん、どっか、行くの?」


「あら? 言わなかったっけ? 九州で暮らすことになったって」

「へ?」

「旦那がそっちに転勤になったからね。先に行って待ってるのよ。それじゃ、元気でね、未来、猛」

「あぁ。母さんも元気で」


 俺は思わず立ち上がって駆け出し、母ちゃんの部屋のドアを全開にした。


 そこにはもう、何の荷物も無かった。がらんどうな空間が広がるのみだ。


「あ、未来、アンタも早く結婚して家を出なさいね。小姑がいると兄ちゃんがいつまでも結婚できないから。落ち着いたら連絡するからねー」

「俺もそろそろ出なくては……。唐揚げとポテトサラダとナポリタンは貰っていくな。未来、後片付けは頼んだぞ」


 呆然としている間に、母ちゃんも兄ちゃんも家を出て行ってしまった。


 あとかたづけ? あ、あぁ。あとかたずけ、しなきゃ。


 もくもくと残った食べ物にラップを掛け、冷蔵庫にしまい、汚れた食器を洗って、拭いて、仕舞って、排水溝と生ゴミを処理してお風呂入ってパジャマ代わりにしてる短パンと馬鹿面の猫の絵の描かれたシャツに着替えて髪乾かして歯磨いて…………からようやく、我に帰った。




「ちょ、ひどくねええ!!? 俺、まだ高校生なのに、一人にするなんて!!」



 兄ちゃんは二世帯住宅の上の家に住んでいるからこの家には帰ってこない。

 ってことは俺、この無駄に広い新築一軒家で一人ぼっち!?

 これからずっと一人暮らしなの俺!!?






 もうね、ガチで泣いた。



 前のボロ家は隣近所と距離が近くて、しかもどの家も築40年だの80年だのの年代物だったので、ナイターの中継の音とか喧嘩の声とか犬の吼え声とか筒抜けだった。

 うるさかったけど、でも、生活音がしてると安心できた。


 だけどこの家は、完全防音、庭は広々、隣近所まで距離が遠くて何の音も聞こえない。


 俺は家中の電気をつけて、テレビを付けて、タオルケットに包まって耐えようとしたけどどうしても駄目で、「竜神、た、助けて……!!」竜神に助けを求めた。


「未来、どうしたんだ、何があった!?」


 走ってきてくれたのだろう。二分も掛からず駆けつけてくれた竜神が、中ドアの前で丸まってた俺の横に膝を付く。


「りゅうううう……! ごめん、来てくれてありがとう……! こわくて……!」

「どうした、何が怖いんだ? 何があった?」



「か、かあちゃんが再婚したんだ……!!!」




「………………」


 竜神はしばし考え込んでいた。


「そりゃ……めでたいな。で、何が怖いんだ?」


「母ちゃんが再婚して家を出て行ったんだよぉ! 九州で暮らすんだって! 俺、こんなでけー家に一人とか無理だから! ひでーよ再婚するなら元の家のままで良かったよ……! こんな家、自宅なんて思えないもん、知らない家だよこんなん! ホラーに出てくる絶海の孤島の屋敷だよサスペンスに出てくる崖崩れで警察がこれなくなった怪しい洋館だよスキーで遭難しそうになった時見つけたペンションだよ殺人事件が起こるんだよジェイソンだよ金田一だよゾンビだよ!」


「交じりすぎてて意味わかんねーよ。おばさんが出て行っても、猛さんいるから一人じゃねーだろ」


「兄ちゃん、医者だから前からあんま家に帰ってこねーんだ! 帰ってきても二階帰るだけでこっちには顔見せないし! 俺、この家に一人なんて無理、無理! 超無理!」


 竜神にしがみ付いて俺は泣いた。本気で泣いた。


「えと……、一人じゃ怖いんだな?」

「怖いんだよ!」

「猛さんは?」

「仕事行った! 唐揚げ全部持って行きやがったあのクソ兄貴!」

「唐揚げ? もう完全に意味わかんねえな……とりあえず、今日は俺の家に来い。泊めてやっから」


「いいの!? ありがとう、ほんっとにありがとう!」


 竜神は、俺が付けて回った電気やテレビを一つずつ消して回った。俺、風呂場からトイレの電気まで付けてたんだな。パニクリすぎだよな。ちょっと恥ずかしい。


「あら強志君じゃない。あらー、どうしたのその子。ひょっとして彼女?」


 竜神に手を引かれ歩いていると、前から見知らぬおばさんが声を掛けてきた。

 このへん、竜神の家の近所でもあるから、こいつの知り合いばっかなんだよな。

 泣いて赤くなった顔を見られたくなくて顔を俯かせる。竜神が俺を苛めたなんて思われたら大変だし。

 おばさんは竜神の返事も聞かずに捲くし立てた。


「そうよねー、強志君も彼女ができる歳になったのよねえ。もう高校生だものね! ほんと時間がたつのはあっという間だわ。でもどうしたの? 泣いてるの?」

「こいつ、自分の家で留守番してたんですけど、気が小さいから一人で留守番するのが怖かったみたいなんです。だから、今日はオレの家に泊めようと思って。両親も妹もいるから心強いだろうし」

「まぁ……留守番が怖かったの(笑)。そうね。強志君のお父さんは警察官だし、お母さんも花ちゃんも格闘技やってるから強いしね。よかったわねあなた。強志君みたいな優しい彼氏がいて」


 話しかけられた以上、顔を隠すわけにもいかなくて、俺は恐る恐る顔を上げた。


「あらぁ、可愛い子ねー! あぁ、この子、夜逃げ屋敷に越してきた子ね! 噂通りの美少女ねー。やるじゃない強志君、こんな可愛い子を彼女にするなんて!」


「よよよよ夜逃げ屋敷!? やっぱりあそこ、幽霊が出てくるんですか!? 竜神、やっぱり事故物件で殺人現場で心霊スポットだったんだよ! 兄ちゃんが騙されたんだ前の家に帰るうう!」


 駅に向かって走り出そうとしたんだけど、竜神に引っ張られてしまった。


「落ち着け! そうじゃねえ。ほんとにあそこには誰も住んでないし、死んだ人間もいねーから。人が入らないまま売られたのが珍しくて、家にあだ名が付いてるだけだから。第一、前の家はとっくに更地になってるだろうが、どこに帰るつもりなんだよ!」

「あああそうだったああ! もう更地になっちゃったんだったああ! あの家、本当に幽霊は居ないんですか!!?」


 ついついおばさんに力一杯質問してしまう。


「え、えぇ、そうよ。幽霊が出るなんて話は聞いた事もないわね」

「よかったぁあああ……! 幽霊まで出るんだったら、もう、もう……!」


 安心して涙が出てきて、竜神に再びしがみ付く。

「ほんっとに怖がりなのねえ」

「ほんっとに怖がりなんです」


 怖がりでわるかったなああ!



 竜神の家に入った途端、泣き腫らした顔の俺を見て、花ちゃんが切れた。

「未来さんになにしたのよ馬鹿兄貴――!」

「何もしてねえよ」

「ち、違うんだ花ちゃん! 俺がお化けが怖くて……!」

 回し蹴りしようとした花ちゃんを必死に押さえつける。


「未来ちゃん、いらっしゃい!」

「こんばんは、未来ちゃん」


 竜神の家もまた、玄関の先はリビングになっている。家に入ると同時に竜神のお父さんとお母さんに迎えられて、慌てて頭を下げた。

「こんばんは、夜分にお邪魔してすいません!」

 お父さんとお母さんとは初対面じゃない。二人揃って、スーツでびしっと決めた姿で俺の家まで挨拶に来た事がある。親戚が俺を轢いたお詫びにって。今の新築の家じゃなくて、昔の築四十年の家にだけど。


 そのときも二人してでかくて怖くてびくびくしちゃった。竜神のお父さんは竜神よりも身長高くて竜神よりもヤクザ顔で、横にも広くて厚みのある体してるし、お母さんは花ちゃんのお母さんなだけあってやっぱ美人ですらっとしてスタイルも良くて、圧倒された。

 居間で二人して両手を付いて土下座した時なんか、ほんっきで怖かった。土下座が威圧感のある行為なんて始めて知った。



 リビングに通されて、おばさんとおじさんとソファに向かい合わせに座る。


「いきなり飛び出して行ったから何事かと思ったわよ。どうかしたの?」

「う……」


 おばさんに質問されて、情け無さに小さくなりながらも、事情を説明するしかなかった。

 母ちゃんが再婚して、家に一人になったから怖くて思わず竜神を呼び付けてしまったと。


 改めて酷いなこれ! もう俺最悪だよ!


 俺の話を聞いたおじさんは、困ったように眉根を下げた。


「そうか……。おめでたいことではあるが、一人になるなんて困ったね。女の子が一人暮らしなんて物騒だし」

 普通はそう思いますよね! やっぱひでえよ母ちゃん!


「いっそのことここに住んでもらっても構わないんだけど、新築の家を無人にするなんてそれもそれで物騒だし……。あ、そうだ、強志、あんた一緒に住んであげなさい」

 名案、とでも言いたげに、おばさんがポンと手を打つ。


「え」

「え」


 俺と竜神の声がはもった。


 竜神に飛びついて、肩を両手で掴んで、「いいんですか!?」と目を煌かせてしまう。

 やった! こいつが住んでくれるなら超心強いぞ!!


「えぇ、どうぞ」

「うん、それが一番いいんじゃないかな」

「お兄ちゃんがいたら防犯にも良さそうだし、私もそれが一番だと思うな」


 おじさんとおばさんと、ついでにお茶を持ってきた花ちゃんにまで笑顔で答えられて、勢い良く立ち上がって、テーブルの横で土下座した。この体じゃ威圧感なんて与えられないだろうけど、誠意ぐらい伝わってくれればいいな。


「大切な息子さんですのに、お……いえ、わたしなんかのためにありがとうございます! わたし、家事は一通りこなせますので息子さんに不自由な思いは絶対にさせませんのでご安心ください!! 絶対、絶対竜神――じゃない、強志君を幸せにしてみせます!」


「お、おい、何やってんだ」


 竜神が俺の首根っこ掴んで、猫の子でも抱え上げるみたいに引っ張り起こしてくる。


「お前と一緒なら心強いよ! よろしく頼むな、竜神!」

「一緒に住めるはずなんかねーだろ! 男と一緒に住むなんて、おばさんが聞いたら卒倒するぞ!」


「もしもしかーちゃん、竜神にかわるなー」

 竜神に釣り下げられたまま、携帯を開いて母ちゃんに通話を繋ぐ。すぐに竜神へと手渡した。母ちゃんのでかい声がはっきりと聞こえてくる。


『あらー強志君ひさしぶりねー元気にしてた!? ウチのバカ娘のわがままに振り回されて無い? 変な事言ったらお尻叩いていいからね。ほんとにもういまだ男時代の喋り方も抜けないし困った娘よねえ。一緒に住んでくれるんでしょ? たすかるわー。やっぱり娘一人だと心配だったから。ほら、未来って怖がりでしょ? 一人でほっといたらパニック起こしてなにするかわからないから。おばちゃん、旦那と一緒に九州に住む事になったの。車が無いとちょっと不便なんだけどいいところなのよ! 今度未来を連れて遊びにきなさいね。美味しいもの一杯用意して待ってるから。年末なんてどうかしら! 丁度よかったわあ家族の顔合わせもまだだったから、ついでにやっちゃいましょう。猛に車を出させるから。あ、信号変わったから切るわね。未来をよろしくね!』


 ぷつん。


 竜神が一言も発することがないまま、電話は切れた。

 竜神は携帯を握ったまま呆然としていたが、は、とした顔で言った。


「いや、おばさんが良くても猛さんが反対するに決まってるだろ」

 そもそもなんで一緒に暮らすって前提で話しているんだ? なんも聞いて無いぞ!? と混乱している竜神を他所にもう一度電話を掛ける。

 そうだよな。なんも聞いてないのにいきなり話進められても困るよな。俺も、母ちゃんの再婚なんて一言も聞いてなくてパニックだったもん。


「もしもし兄ちゃん。竜神にかわるなー」

 今度は兄ちゃんだ。スピーカーボタンを押して、混乱真っ最中の竜神に携帯を向ける。


『やぁ強志君か。こちらから挨拶をしなくてすまないね。馬鹿な妹と一緒に住んでくれるというのにお礼の一言も無しで』


「いえ、その、一緒に住むなんて話、聞いてないんですけど……」

『ん……? あぁ! そうだったな。話さねばと思っていたのだが忙しくてつい失念していた。改めて頼むが、妹をよろしく強志君。生活費は俺が出すから何も心配しなくていい。ただ、一緒に暮らしてくれればそれだけで充分だから』


「……まだ高校生のお嬢さんがオレみたいな男と暮らすのは、世間体にも問題があると思うのですが」


『世間体? 未来のか? そんなものどうでもいいだろう? 未来の世間体が悪くなってなにか問題があるのか? っ……まさか、君は未来と一緒に暮らすつもりがないのか!? ひょっとして、未来の飯が美味くなかったか? アレがまた何か馬鹿な真似をしてとうとう愛想つかしてしまったのか!? 頼む、一緒に住んでやってくれ! 未来は異常な怖がりで、夜一人きりにするとなにをしでかすか判らないんだ。小学校のころ、テレビを付けた途端心霊特集のお化けの顔が大写しになったからといって、家を飛び出して三日間行方不明になったし、中学生時代には、皿洗いしてるときキッチン前に猫が横切ったのに驚いて、皿を割ってその上に倒れてそのまま失神して、床を血まみれにしたこともあるんだ! 君がいないとどうなるか判らない。未来を見捨てないでやってくれ!! なんてことだ、君がいるから大丈夫だと安心していたのに……! あぁもう仕事が……、頼む、考え直してやってくれ! また話そう!』


 ぷつん。


「…………………………」

 

 竜神は切れた携帯をガン見して、また、呆然としていた。


「な! お前超信用されてんだよ! 俺、バカだから強志君の傍にいろって前から言われてるんだ。お願いだから一緒に住んでください!」


「それより……血まみれになったり、行方不明になったって、本当か?」


「そこ? ビビリだって知ってるのに今更だな。他にも脱水症状起こして病院に運ばれたりとか、暗いの怖くて階段から落ちて意識不明になって救急車呼ばれたりとかいろいろあるよ」


 竜神の顔色が悪くなった。おじさんとおばさんと花ちゃんまでも。


「強志、父として、ではなく、竜神家の家長としてお前に命じるよ。未来さんと一緒に住みなさい。一人暮らしなんかさせたら、怪我をしているのに誰にも気が付かれないまま、なんてことになるかもしれない。誰か傍に居ないと、心配で私達の方が倒れてしまうよ」

「その通りだわ。私達の為にもしっかり護衛してあげなさいね」


「……はい」


 やった! とうとう竜神が折れた!

 これであの家でも生活できるぞ、よかったー!!



 竜神と花ちゃんと俺の三人で階段を上がり、当然みたいに竜神の部屋に入ろうとした俺の背中を竜神が押してきた。


「今日は花の部屋に未来を泊めてやってくれ」

「え?」

「お兄ちゃんの部屋じゃなくていいの?」


「オレの部屋に泊めるわけにはいかねえだろ」

「いや、待ってくれよ! 泊めてもらう分際で口出ししてごめんだけど、花ちゃんと一緒に寝るわけにはいかねーよ!」

「私はぜんっぜん構いませんけど」

「俺が駄目! 花ちゃんと一緒なんて、は、恥ずかしいし」

「恥ずかしい……??」


 竜神兄妹に不思議そうな目で見られてしまったけど恥ずかしいものは恥ずかしいの!

 しばらくどの部屋で寝るか言い合いしたんだけど、最終的に、俺と花ちゃんが竜神のベッドで寝て、竜神が下に布団を敷いて寝ることで解決した。


「ううう……花ちゃんと同じベッドなんて……!」

 竜神の体に合わせているから普通のベッドより縦も横も大きい。それでも、女の子と一緒なんて、女の子と一緒なんて……!

「諦めてください」

 ベッドに並んで座った花ちゃんにふふ、と笑われ、俺は、あれ、と首を傾げた。


「花ちゃん……ひょっとして、身長伸びた?」

 初めて会った日から、まだ数ヶ月程度しか立ってないんだけど、なんか違和感があった。

「あ、わかりましたー!? そうなの! いきなり伸びてきたの! 三年になってから、三センチも伸びたんです!」

 三センチも!? 嘘だろ女の子なのにそんな一気に伸びる事なんてあんの!?


「お、俺を越えないで!!」

「ふふふふー。どうしよっかなー」

「お願いします花ちゃんに超えられたら立ち直れない!」


「からかって遊ぶんじゃねえよ花。未来も身長は諦めろ。ウチ、親父が196でお袋が177で爺ちゃんが189で婆ちゃんが173だから。俺、190越えたし」

「いやだいやだ花ちゃんに抜かれるなんて絶対嫌だー! 縮めー!」

 花ちゃんの頭を押さえて縮めようと奮闘する。花ちゃんがきゃーって悲鳴上げて笑う。


 呆れた竜神に電気を消されてしまったが、布団に入ってからもいやだいやだと呟き続けてしまった。

 自分よりちっちゃくて可愛い子に抜かれるなんてショックがでかすぎる。どうか、花ちゃんの身長が伸びませんように!


 早苗ちゃんのクソオヤジに襲われてからというもの、ずっと不眠気味だし、花ちゃんと一緒のベッドで緊張してるし、身長抜かれそうなのがショックだし、今日は眠れないかもしれない……。


 あ、


 竜神の匂いする。

 そりゃそっか! このベッド竜神のベッドだもんな。


 やっぱすげー安心するな。


 う……。


 一気に体から力が抜けて、睡魔が襲ってきて、瞼が落ちた。




 翌日、おばさんが引越し業者を呼んで、慌しく竜神の部屋の家具が俺の家に運び込まれた。

 竜神の体に合わせたでかいベッド、机、それから本棚や洋服まで。


 俺の部屋の隣が竜神の部屋だ。これで四部屋中二部屋が埋まって、ちょっとは寂しくなくなったぞ!


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