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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
三章 みんなで大騒ぎ
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お化け屋敷とか肝試しとか(序章)

 目を覚ますと、そこは、お化け屋敷の入り口でした。


 両手を垂れ下げた白い着物を来た幽霊。

 重たく葉を茂らせている柳。

 青白い照明――――。


「ひ――――ひぁああ! え、なんで!? ここどこ!? 竜神!! 美穂子!! 浅見!!」


 あいつら、どこ行った!? 一緒に居たよな!? どういうこと!? なんでいきなりお化け屋敷!? 夢なのかこれ!? 夢だよな!? 夢であってくれ、起きてくれ俺――――って夢じゃねーよ!

 ノリ突っ込みしてる場合か!


「達樹! 百合! 美穂子! 浅見! 竜神!!」


 声を張り上げてもやっぱり返事は無い。

 いったい何がどうなってこんなことになってんだよ!


 俺は鉄格子のついた檻の中で目を覚ましていた。

 檻の外はお化け屋敷。

 何がなんだかわけわからなくて、でもお化けが怖くて、檻の隅で縮こまる。


『日向未来君、ボクを覚えてるかな? 君の事は調べさせてもらったよ』

 いきなり、檻の中に放送が鳴り響いた。


『運動神経無し、成績は中の中、母親はパート、父は死別、兄は脳外科医で築四十年の傾いた一軒家に住んでいる。親しい友人は竜神君、浅見君、王鳥(おおとり)君、花沢君、熊谷(くまがい)君、佐野君』


 え? だ、誰だ!?


 放送なんだから見回しても無駄なのはわかってるのに、ついついあちこちに視線をやりながら、必死に記憶を掘り返していく。

 声に聞き覚えがない。声の感じからすると同世代っぽいけど思い出せない。

 熊谷は美穂子で、佐野は良太、王鳥は達樹のことだ。確かにそいつらとは友人だけど、


『極度に怖がりだってことも調査済みだ。怯える顔も可愛いね。もっともっと苛めたくなるよ』

 ええええ???

 本当に誰だよ?

 苛めたくなるってなんで!?

 誰かに恨まれるような覚えないぞ!

 だって俺モブだもん。忘れられることはあっても、恨まれる覚えなんて――――――。


「――――ご、ごめん! 俺のせいでほんとごめん! 許してください、何でもしますから!!!」

 ――――――恨まれる覚えなんてなかったけど、何がなんだかわけわからなかったけど、とにかく必死に謝った。


 一刻も早く檻から出て、お化け屋敷から逃げたかった。


 土下座して必死に謝ったというのに、白の着物のお化けがこっちを見た。

 「おおおおおおおお」

 お化けは叫び声を上げながら、全力ダッシュでこっちに来たかと思うと、鉄格子を掴んで檻を揺すってくる。


「やあああ! うわあああ! ひゃあああ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいいい!!」


 もう泣く寸前で謝り倒し続けた。

 俺の必死の謝罪が届いたのか、お化けは離れて行った。

 よかったああ! 本当に怖かった!

 でも恐怖は抜けなくて、俺、ガクガク震えながら壊れたみたいにごめんなさいごめんなさいって繰り返していた。


 突然光が射して、俺はまた「うゃああ」と叫んで縮こまった。

 お化けは――――走ってこないみたいだな、良かった!

 恐る恐る顔を上げると、タタミ二畳分ぐらいありそうな大きなモニターがあって、そこに、体を丸めて涙目になっている俺の顔が大写しにされていた。


 なんだこれ!?

 驚愕に目を見開いた俺の顔がだんだんアップになっていく。どこから撮影してるんだよ! カメラなんて見当たらないのに!


『ボクに親切にしてくれた未来を、奴隷のように土下座させる――――こんな至福があったなんて!!』

 親切??

 どういうことだ?

 恨まれてたんじゃないの?


『もう一度聞くけど、僕を覚えているかな? 夢屋前の広場でバカな不良から助けてもらった者だよ』


 え?


 あ、ああ、あの時のアイス男?

 なな、なんで、なんであいつから、俺、恨まれてんだ!?

 そうか、やっぱり勘違いさせたんだ!

「お、俺、お前からカツアゲしようとしたんじゃないんだ! か、カツアゲされて悔しかったこと、あるから、あいつらの邪魔したくて!!」

「おおおおおおおお」

「ひぎゃあああ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいい!」

 お化けがまた突っ込んできて檻を揺すり出した。もういやだ怖い! いっそのこと失神したい!!


『君がボクからカツアゲしようとしたなんて思ってないよ。助けてくれて嬉しかった。いつ暴力を振るってくるかわからないクズ達相手に、人助けをしようと思う子がいるだなんて、感動さえした』

 え、えええ? そうなの?? じゃあなんで俺恨まれてるんだよ!?


『ボクは……』


 俺はこくりと喉を鳴らした。

 なんでここにいるのかさっぱり判らない。

 多分、眠らされて、檻の中に入れられて、このお化け屋敷まで運ばれたんだ。

 言ってしまえば拉致監禁だ。れっきとした犯罪、しかも結構重罪だ。

 こんな罪を犯してもいいと思えるぐらいのことを、俺、アイス男にしちゃってたんだ。


 ひょっとして、兄ちゃんが医療ミスしてたのかな。それを病院ぐるみで隠蔽してて、アイス男はずっと恨んでいて、偶然会った俺を見て恨みが爆発して、拉致してきたとか。

 ひょっとして、俺がガキの頃、水を流して遊んだ蟻の巣が、こいつの飼い蟻の巣で偶然見つけた俺に復讐しようとしているとか。

 ああ、嫌な想像がぐるぐる回る!


『…………見ず知らずのボクを助けてくれるぐらい、親切な子の、優しい心を踏みにじりたいだけなんだ……。助けてくれた君が、今、土下座をしているのを見ているだけで、こう……沸きあがってくる幸福が』


 は?


『泣かせて、怯えさせて、踏みにじりたい……。君の優しさもプライドも蹂躙したい……!』


 へへへんたいだあああああああ!!!!

 なんの因縁もなかったよ! 純粋に変質者に拉致されてるだけじゃねーか俺!

 ふふふざけんじゃねえええ! 恩を仇で返しやがって、放送じゃなく顔を見せろアイス男!


「おおおおおおおお」

 うやああ! お、お化けが、お化けが増えたああ!!

 どこに隠れていたのか、四方八方から大量のお化けが駆け寄ってきて、俺はとうとうガチで泣いて土下座した。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいい……!」

 顔を見せろなんて言いません、だから家に帰らせてください!



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