未来達が卒業後の屋上
「あー、つまんねーの」
達樹は屋上で胡坐を組んで、青い空に向かってぼやいた。
未来達が卒業し、パラゼ部は解散したものの、部室の備品はそのままで、壊れたオウムの目の窓もそのままだった。
達樹は昼休みになるとここに来るのが日課になっていたが、以前は六人で弁当を囲んでいたのに、今は一人。弁当も美穂子や未来の手作りではない、菓子パンだ。
味気ないし楽しくもない。
「バカたつきー」
「んぁ?」
オウムの目の窓を見慣れた人影が登ってきた。竜神花だ。
「何しにきたんだよ。邪魔だから教室戻れ」
「あ、そんなこと言っていいのかなぁ? 今日はお姉ちゃんのお弁当持ってきてあげたのに」
「未来先輩の飯!?」
「そ! わざわざ届けてくれたんだよー」
「マジか! 早く寄越せ」
「言い方ってもんがあるでしょー?」
「た、食べさせてください」
「よろしい」
じゃーん、と重箱の包みを達樹の前に見せびらかす。
床に置き、包みを開いて中の重箱と、二つの弁当箱を取り出す。
「これがお米ね」
花と達樹の分。達樹の弁当箱はやや大きかった。
蓋を開くと、デフォルメされた未来の似顔絵と、花の弁当箱には「たつきをよろしく」達樹の弁当箱には「花ちゃんと仲良くしろよ!」の文字が海苔で書かれてあった。
「先輩器用だなぁ。つか、未来先輩の顔、くいづれえ」
「可愛いから崩したくないもんねー。でもお腹すいちゃった。えい!」
掛け声とともに重箱の蓋を開くと肉を中心とした料理が重箱にぎっしりと詰め込まれていた。
「うわぁああ久しぶりの未来先輩のメシ…! 輝いて見える」
「お姉ちゃん、料理上手だからねー。ほんと、うちの兄貴には勿体ないぐらいのお嫁さん……」
「まじ強志先輩が羨ましいわ。可愛いしスタイルいいし飯美味い嫁なんてさー」
「最初は虎太郎先輩に取られると思ってたんだけど、兄貴と添い遂げてくれて本当に感謝感謝。美人のお姉ちゃんちょー自慢だし」
「……強志先輩、先物買いの才能があると思うわ。昔の虎太郎さんならともかく、今の虎太郎さんじゃ強志先輩とタメ張れるぐらいの甲斐性あるし」
「昔から甲斐性あったでしょ、というかあんなイケメンに靡かないでヤクザ顔に目を向けたのはお姉ちゃんの未来永劫の謎」
「お前の家族、未来先輩を嫁いびりとかしてねーだろうな」
「するわけないでしょ! というか未来先輩、家事完璧すぎて口出しする所ないし! それどころか美味しい料理差し入れてくれるんだから! お父さんもお母さんもお爺ちゃんもお婆ちゃんも楽しみにしてるくらいなの!」
「ならいいけどよー」
「あ、ミニトマトもらいー」
「なんだよ、肉じゃなくてミニトマトからか?」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが庭で育ててるトマトなんだよ。甘くて美味しいの」
「あ、ほんとだ、うめえ! あめえ!」
「あ、いうんじゃなかった…独り占めしたかったのに」
「先輩んちに押しかけに行こうかなー」
「新婚夫婦の家に押しかけないの! 私たちだって我慢してるんだから」
「新婚夫婦かぁ…いいよなぁ、学生結婚…」
「あこがれちゃうよねえ。しかもあんな可愛い子と…」
「いや、お前が強志先輩に憧れるなよ」
「憧れるでしょ! 将来の介護の為にって大学を看護学校を志望したぐらいなんだよ! 出来過ぎてるお嫁さんすぎる!」
「あ、この唐揚げ死ぬほどうめえ」
「私も食べる!」
「未来先輩の弁当食ってると幸せな気分になれるなー」
「わかる」
二人は笑顔で未来の弁当を完食したのだった。
山も落ちも無い話ですが、バッドエンド編で百合と花が屋上で話す展開があったのでそれの対比として書きたかった話です! しかし本当に山も落ちもないな!