卒業アルバムや合格発表とか
各自、行きたい学校への受験を乗り越え、後は結果を待つのみとなってしまった。
その間にも『達樹君の焼きそばが意外と美味しかった』とか『絶対六人で遊べる時間を作ろうね!』とか、
『未来不足だ。いじらせろ』とか『今度は白和えに挑んでみます』とか、LINNの連絡はひっきりなしに入ってきたんだけど。
「つ、強志、合格したみたいだから見て!」
「おう」
208番。わたしの札と同じ番号が看護学校のホームページに記載されていた。
「ばっちりあってるぞ」
「あってるよね!? すっごい嬉しい!!!!」
「良かったな。おめでとう」
「うん! ありがと!」
「お祝いに、今日の晩飯はデリバリーにするか」
ピンポンとチャイムが鳴った。
「速達です」
「ありがとうございます」
強志が封筒を受け取って中に入ってきた。
「合格通知!?」
みてーだな、と答えながら封筒を乱暴に開けていく。
「強志、どうだった? 大丈夫だった?」
ぴょんぴょんと跳ねて強志が見てる紙を覗き込もうとしてしまう。
こんなに見せてくれないなんて、まさか、不合格――!?
「ほら」
強志が見せた紙は合格通知だった!
「やったー! 後は百合と虎太郎だけだね! もー、一瞬不合格だったってかもって焦っちゃっただろ!」
「わりぃわりぃ」
目が反省してないぞ!
「これで残りは虎太郎と百合だけだね」
スマホが鳴った。
百合からだ。
『合格した。未来はどうだったんだ? そろそろだろう?』
電話に出るなり合格発表されてしまった。
「わたしと強志も合格しました!」
『そうだったか。良かったな。強志にはまぐれ当たりおめでとうと伝えておいてくれ』
「まぐれ当たりじゃないよ……って、誰?」
今度は強志の携帯が鳴った。
虎太郎だ。
『強志君と未来、合格通知は届いた?』
「ああ。オレも未来も合格だったよ』
『よかった、おめでとう!』
「で、お前はどうだったんだ?」
『なんとか合格できてたよ』
「そうか。お前もおめでとうだな」
全員志望校に受かってよかった!
――――☆
自由登校が終わり、とうとう卒業式の日になった。
教室に入るなり、
「ミキミキー! 書いてー!」
ペンと卒業アルバムを持って琴音がわたしに突っ込んできた。
「さ、どーんと未来からの愛のメッセージをどうぞ」
「わかったよー」
『琴音、友達になってくれてありがとう!』
「これだけー? 琴音好きって書いてよー」
「わかったわかった。でもわたしのにも書いてよ」
「オッケー! ミキミキへの愛のメッセージを原稿用紙30枚分ぐらい埋めてあげる!」
「一言でいいんだよ! えっと、琴音大好き!」
はい、次は琴音の番、とペンを返す。
『ミキミキ、ほんっと大好きー! 一生友達だからね』
「うん!」
書かれたメッセージに返事をしてしまった。
「次はアタシの番! ペン貸して!」
メイちゃんが飛びついてくる。そしてサインと大好きな未来へ、と書いてくれた。
「メイちゃ……、これ家宝にする!」
「ふっふっふ、アタシの愛のメッセージなんて貴重なんだからね!」
「未来ー、私のにも書いてー!」
「うん!」
今度は美穂子だ。虎太郎の周りが女子だらけで大変なことになってる。大丈夫かな? 強志は男の割合が多かった。
『ご飯めちゃくちゃ美味しかった! 三年間一緒にいてくれてありがとう! 病気から立ち治れたのはたのは美穂子のおかげだよ! 美穂子大好き』
脳移植を病気と言い張ってしまう。
「嬉しいなぁ。大好きだよ、未来」
「うん! 一年の頃からずっと助けてくれて本当にありがとう!」
女の子になって一番お世話になったのが美穂子だから。
美穂子も『親友の未来へ。色々あったけどよく頑張ったね!後は怖がりを直すだけ!』と書いてくれた。
怖がりは直せないけどな!
パラゼ部、と区切って遊びに来ていた達樹に書かせる。
『行かないでください先輩ー』
と、泣き顔の顔文字。
「行きたくないけど行くしかないんだもん」
「超さみしっすよー今からでもいいから留年してください!」
「無茶苦茶言うな!」
「未来、僕のにも書いてくれるかな」
どうやら溢れんばかりに居た女の子達をクリアしたようで、虎太郎が自分のアルバムを差し出してきた。
「うん!」
『大学が違っても親友だからな! 未来ちゃんのことを忘れないように!』
と書いて手渡す。
「忘れるわけ無いよ……。未来は僕の初めての友達だしね」
次は虎太郎がわたしのアルバムに書いてくれる。
『親友になってくれてありがとう。毎日のご飯美味しかったです』
「ふふふ、ちゃんと焼きそばの作り方を達樹に伝授しておいたからな!」
「え、そうなんだ」
「ノート貰ったんですけどいろんな料理の作り方がスゲー詳しく書いててビビりましたよ」
あ、強志のところも人がはけてる!
「強志、未来ちゃんに何か一言」
「おー」
『一人で泣くな。何かあったら報告しろ』
「業務連絡!?」
「ほら、次はお前の番」
「うむぅ……」
『お嫁さんにしてくれてありがとう! 大大大好き!』
「人には見せないで!!!」
「あぁ、わかった。それと、これ」わたしの掌にボタンが落ちてくる。
「第二ボタンな」
「え、貰っちゃっていいの!?」
「あぁ」
「やった、宝物にするよ!」
「あの! よかったら僕の第二ボタンも受け取って欲しいな」
「いいの?」
教室の外の廊下に女の子が集まりまくってる。明らかに虎太郎ファンなのに、わたしが受け取っていいのかな?
「うん!」
ハサミで糸を切って第二ボタンを受け取った。
「ありがとうな虎太郎」
「こ、こちらこそ、受け取ってくれてありがとう…」
「まーた強志先輩の神経を逆なでしてる。卒業式まで治らなかったすねー」
「逆なで!?」
虎太郎と一緒に見てしまう。
「いいよ。お前たちが親友だってのを信じてるから」
よかった。怒ってない!
「あ、百合も書いて書いて!」
「いいぞ」
『隙があればいつでも襲ってやる』
「なぜ犯行予告を……」
上がっていたテンションが一気に下がってしまった。
「だから周りの人間や友達面してくる奴には気をつけろということだ」
いきなりお尻を撫でられ悲鳴をあげてしまう。
「一番気をつけなくちゃいけないセクハラ女王がここにいるんだった!」
チャイムが鳴った。達樹がダッシュで教室から逃げ、柊先生が中に入ってくる。
「みんな、グラウンドに並べー。名前順が早い者からな。荷物も持ってなー。あ、さぼりたい人は先生は止めませーん」
なぜさぼりを認める。でも開始時間が十時で終了時間が一時って確かに長いなぁ。
教室を出ると、廊下で待っていた後輩たちが「第二ボタン下さい! って無いいい」虎太郎のボタンが無いことを後輩たちがガチでへこんでいる。
「じゃあ、カッターシャツの第二ボタンください!」
「え、えええ?」
まさかシャツのボタンを欲しがる人が居たなんて、虎太郎が戸惑っている。
かと思えば、
「せ、百合先輩のボタンが欲しいんです!」と百合に詰め寄ってる女の子がいたり
「竜神先輩のボタンをください! お願いします!」強志のボタンを欲しがる子がいたり。
クラス全員で教室を出ると下級生たちが群がってきた。
結果、虎太郎のボタンは全て持ち去られてしまった。シャツのボタンまで。
そしてなぜか百合までボタンを奪われていた。
ちなみにわたしまで。
カッターシャツの第二ボタンを取られたせいで、胸の谷間がガッツリと出てしまってる。なにこれ卒業式が羞恥プレイになっちゃうじゃないか。
「ズボンのボタンを取られなくてよかった……」
虎太郎、そういうレベルの話?
強志も傍にわたしが居るって言うのに堂々とボタンを奪いに来る下級生が何人も居た。
さすがに全部取られたわけじゃないけど、シャツの第二ボタンを取られたことにちょっとムッとしてしまった。
「彼女の前で彼氏のボタンを奪いに来るなんて反則だよ反則」
「彼女じゃないだろ妻だろ」
う。
思わず赤くなってしまったので下を向いてごまかす。
「耳まで赤いぞ」
強志には見逃すという慈悲の心はないのか!
体育館では校長先生の話から始まり、卒業証書の授与である。が、とっくに卒業証書は貰っていた。三年生の合計が400人を超えるので一人一人に渡していたら日が落ちるから。
生徒会会長が先に受け取り、わたしたちは名前を呼ばれ、立ち上がるだけでいい。
卒業式は体育館で行われるんだけど、パラゼ部は全員屋上へ集まってしまった。
わたしが、何もかもの始まりだと思った場所。
かつて、強志の秘密の場所だった屋上。
体育館からの放送がここまで聞こえる。四組が終わって、五組の番だった。
『浅見虎太郎』「はい!」
反射だったのだろう、輪になって座っていた虎太郎が名前を呼ばれて立ち上がる。
「おい、どこまで真面目なんだ虎太郎は……」
百合の突っ込みに、うう、と真っ赤になってうなだれる。
虎太郎は赤くなって座ろうとしたんだけど、熊谷美穂子も呼ばれたと同時に「はーい」と笑って起立した。
それで悟ったのか「花沢百合」と呼ばれた百合が「はぁーい♪」と腰をくねらせてぶりっ子ポーズで決める。
『竜神強志』はい、と、抑揚なく答えて立ち、
『竜神未来』わたしも、笑顔で片手を上げ「はい!」と立ちあがった。
そして校長の読み上げが1年6組へと移ったんだけど、
みんな、ほぼ同時にお腹がねじれるほど笑った。
「お腹痛いお腹痛い!」
屋上でじたばたしてしまう。
達樹や美穂子だけじゃない。
めったに笑わない強志や虎太郎、百合も大爆笑して笑ってる。
いろんなこと、あったなぁ。
皆で遊んだり。ガールズPOPが愛読書になったり、ミス桜丘さんと強志が付き合ってると思い込んじゃったり。
隣に座る強志の手を握る。
これから先、どんなみらいが待っているのか、不安がある。
でも。終わる。今日ですべてが。
辛い事だってあったはずなのに、楽しかったことだけが次々に浮かんできて、自然に涙がこぼれた。