3年生の文化祭(今度は見る側です)
この学校の文化祭、三年生は参加できないことになっている。
出店や催しを見るのは自由なんだけど参加は禁止なんだ。
受験勉強に専念するためでもある。ちなみに虎太郎君は風邪を引いたらしくて今日は欠席だ。
こんな日に風邪ひくなんてついてないなぁ虎太郎は。
「こうやって見てまわるの、初めてかも」
隣を歩く竜神に言う。
「そうだな。いつもバタバタしてたしな」
「ん」
「達樹たちのクラスを見に行くか」
たち、と付くのは花ちゃんも達樹と同じクラスだからだ。
「出し物はなに? また性転換メイド執事カフェ?」
といいつつ2年5組に到着したのだが。
「いらっしゃい~~~」
と、受付の幽霊が俺に挨拶をしてきた。
「う、う、お化け屋敷なの!?」
「みてーだな。やめとくか?」
「いや、入る! どうせ文化祭のお化け屋敷だし、大丈夫!」
「おひとり様300円~~~」
幽霊にお金を渡して入っていくが――
「うらめしいいい」
「や、やぁあああ!」
入った途端幽霊に追いかけられて絶叫して逃げてしまう。
「待て、未来、パーテーションに突っ込むな!」
「助けて強志!」
「助けるから落ち着け。ほら、怪我するだろうが」
お姫様だっこで抱き上げられた途端、ぺち、と何かが頬に当たって「きゃああ!」と悲鳴をあげてしまった。
「大丈夫か?」
「う、う、怖かったよおお……!!」
強志はわたしを抱き上げたままお化け屋敷から抜け出してくれた。
わたしは大号泣だ。
クラス一つ分なので大して長くはない距離のはずなのに、まるで永遠に続くかってほど長かった。
「おね~ちゃ~ん」
能面をかぶったお化けが俺に話しかけてくる。
「やぁああ!!」
「落ち着け。花だよ」
「ふふふ、そこまで驚いてくれるなんて、お化け屋敷をやったかいがあったよ!」
能面を外して花ちゃんが笑う。
「花ちゃんだったのか……! よかった、本物かと思った……!」
「先輩良い叫びっぷりでしたねー、笑いこらえるの大変でしたよ」
「達樹!」
入った途端に追いかけて来たお化けだ。まさか達樹だったなんて!
「死ぬかと思うほど怖かったぞ! 怖がりなの知ってる癖意地悪するな」
「いや、お化け屋敷は人を驚かせるアトラクションですし」
と、またお化けの面をかぶってしまう。
「強志、次に行こう次に! 百合と美穂子に合流しよう!」
速攻で美穂子に電話をかける。
『はーい美穂子でーす』
「美穂子!? 今どこにいるの? 合流しようよ!」
『なぜ合流したいんだ?』
声が聞こえていたのか、百合がそう返してくる。
『そだよ。最後の文化祭、強志君と回らなきゃデートにならないでしょ?』
「う……」
『おおかた達樹のお化け屋敷に入ってビビり散らかしているんだろうがな』
その通りですが何か!?
『デートの邪魔するつもりは無いから、頑張ってね未来!』
ああ無常……。
「断られちまったか」
「うん。下の出店を見に行こうよ! 強志はそろそろお腹すいてきてない?」
「確かに腹減ってきたな」
「うわ、いい匂いするー! 強志は何食べる?」
「たこ焼きから行くか」
「うん!」
六個入り300円のタコ焼きを二つ買う。
昔、虎太郎と一緒にご飯を食べていた隠れたベンチに座る。
「ん、美味しい!」
高校生が作るものなので余り期待はしてなかったんだけど、外はカリカリで中はしっとりだー。
さすがに6個も食べたら他の料理が入らなくなるんで、2個、強志に渡す。
「もう食えなくなったのか?」
「んーん、これ以上食べたら他のが入らなくなるから。
つまようじを刺して、「はい、あーん」と強志の口元に持って行った。
「!」
そのまま食べられてしまった……。
「ちょっとは躊躇しろよ!」
「なんで怒るんだ?」
「はい、あーんとか、は、恥ずかしいだろ」
「そうなのか? 相変わらずお前の怒りどころがわかんねーなー」
演奏が始まったみたいで体育館から歌が漏れて来た。
ん? これ。
「メイちゃんが作ってくれた歌だ!」
バンド部が演奏しているのかな?
食べ終わったたこ焼きをベンチに乗せて強志の前に立つ。
本番では半分しか踊れなかったけど、ここでリベンジだ!
歌が始まると同時にダンスと歌を披露する
笑顔を絶やさず、曲に合わせて。
強志の為だけのダンスだ。メイちゃんが作ってくれた曲は大好きがいっぱい籠った曲で、それに沿ってダンスも可愛くしてある。
曲が終わり、スカートのすそを上げて一礼する。
ぱちぱちぱち、っと竜神が拍手をくれる。
「完璧に踊れるじゃねーか。可愛かったぞ」
う。
あっさり可愛いとか言うな!
「でも強志もドラム続けてるでしょ?」
「あぁ。地下を占領して悪いな」
「地下室は魑魅魍魎が出てきそうで入れないから好きに使ってください」
「出てきたことねーけど……」
「とにかく、いいの! 機会があったらまた皆でやりたいなぁ」
「……そうだな」
「未来ちゃん先輩!」
え?
いつか見た後輩たちが俺を見ていた。
「ど、どこからミテマシタカ?」
「最初からです!」「先輩すっごく可愛かった!」
「未来、右、右」
右側からは校舎に隠れることもせずに俺を見ている大群の見学者が!!
「うわーもう恥ずかしい……!」
俺は真っ赤になってベンチに伏せてしまった。
「ほら、地面で膝立ちするな」
力強い腕に抱え上げあれ、顔を見られないように強志のズボンに顔を埋めた。
「未来が恥ずかしがってるんでこれで終了とさせていただきます」
「えー残念……」
「もう一度見たかったぜ……」
「若い子はいいわねえ」
どうやら保護者さんたちも見ていたようで、ぞろぞろと消えて行った。
「どうして止めてくれなかったんだよ強志!」
「だからお前が可愛かったからだよ」
可愛いといえばなんでも許されると思うなよ! まぁ今日は許してやるけど!