まさかの結婚式!(の裏側)
お久しぶりです寺戸です。
今日は竜神君と未来さんの結婚式。
僕にまで招待状をいただけるとは思わなかった。
受付をしているのは百合さんと美穂子さん。
招待状を確認し、招待客を中に通している。
「あ、寺戸君。こんにちはー」
美穂子さんが笑顔で手を振ってくれる。
こんなモブ以下のボクにまで友達のように接してくれるなんて、美穂子さんは天使か何かなのかな? 服も可愛いし。
「こ、こにちわ」
緊張で呂律が回らなかった。
今回の結婚式は冷泉家からお金が出ているのでご祝儀は無しで良かったはずなのに、ケースの中にはいくつかのご祝儀袋が入っていた。
式には竜神君方の親族が大勢集まると聞いていた。
やっぱり大人にとってご祝儀無しは抵抗があったのかもしれない。
名前を書こうとしたその時。
「西郷愛華。なんだその服装は」
百合さんが迫力のある声で西郷さんを呼ぶ。
振り向いてびっくりした。
だって、真っ白でレースがふんだんに使われたドレスを着ていたから。
胸元も背中も大きく開いて、下はレースで膨らんだミニスカート。ティアラまで付けてる!
西郷さんが花嫁と間違われても過言じゃないぐらいの服装だ。
「可愛いでしょ? このドレス。今日の為に新調したのぉ」
「結婚式に白のドレスを着てくるバカが居るか。さっさと着替えてから出直せ」
「えー、いいじゃん。はいこれ招待状」
西郷さんは招待状を置いてさっさと中に入って行ってしまった。
「全く……これで何人目だ。結婚式のルールも知らんとはなげかわしい」
「知ってて着てる人もいると思うよ。強志君もてるから」
「あの男のどこがいいのかさっぱりわからん」
「ふふ、百合ちゃんは変わらないなぁ」
何人目? どういう意味だろうと思ったんだけど、会場に入ると納得した。
なんと、白いドレスを着た人がちらほら居たのだ。
「ほらー、白いドレス愛華だけじゃないしー。でも一番可愛いのは愛華だけどー。絶対花嫁の未来ちゃんより可愛いから強志君が目移りしたらどうしよう」
言っては悪いかもしれませんが、確かに愛華さんは美人だけど、他の白ドレスの人たちと比べても特に飛びぬけた点はありません。有象無象です。
白いドレスの人は一つのテーブルに集めてもいいんじゃないかな? という感じです。蟲毒ですが。
300人も集まってるからにぎやかな雰囲気。
ボクがドキドキしながら式の開始を待っていると、舞台袖から竜神君が出てきました。
長身が良く映える黒のタキシード姿で。いいなぁ。ボクにもあれだけ身長があればこの臆病な性格もましだったかもしれないのに。
入口の両開きのドアがスタッフさんの手で開かれました。
お父さんと腕を組んで、未来さんがバージンロードへ足を踏み入れます。
「すごい……」
「未来ちゃん、こんなに幸せになって良かった……!」
同じテーブルを囲んだ男性が、まだ始まっても居ないのにボロボロ涙を流してます。
それはさておき、思わずため息が出ました。未来さんが可愛すぎて。
あちこちのテーブルからも、おお、と歓声が漏れています。
豪華なティアラと肩にかかった宝石。
そして一目で他のウェディングドレスとは違う上品なドレスを纏ってました。
未来さんはいろんな髪形をしているけど、基本はストレートの髪の毛です。
その髪を軽く巻き、頭の後ろで編み込みにしていました。
一房両脇に垂らし、ふわふわと揺れています。
天使がここにもいた。
白いドレスを纏った人たちが自分の姿を見て恥ずかしそうにしたり、それでも竜神君に色目を向けたりと各々の反応しています。
そして、誓いのキス。
未来さんの閉じた瞳から一粒だけ流れた涙がまるで宝石のようでした。
これだけは言えます。
本日の白ドレスの皆さん、未来さんに大敗です。
未来さんと竜神君が挨拶に各テーブルを回ってきました。
「ねーねー見て、愛華のドレス。可愛いでしょー!? 未来ちゃんより目立ってない? いっそ花嫁の交換しちゃう?」
白のドレスを堂々と見せつける西郷さん。新郎側の親戚の皆さんから冷たい視線を送られてますよ!
でもこうやってみるとドレスの差がわかります。未来さんのドレスが光沢のある素材に比べ、愛華さんのドレスは紙のように品質が悪い。ティアラも百均かな? と思わせてしまいます。
「交換なんてするわけねーだろ。未来の方が数万倍可愛い」
「なっ……!!」
驚きの余り西郷さんの二の句が継げてません。
本気で、ほんっきで花嫁の交換をするつもりだったようです。
それだけ言うと竜神君は未来さんを連れてさっさと次のテーブルへ移っていきました。
「馬鹿め。お前なんか未来の足元にも及ばん」
西郷さんをけん制するためか、同じテーブルだった百合さんに気持ちいいぐらいバッサリと切り捨てられています。
「ド、ドレスが良くなかっただけだもん!」
「その自信、どっからくるんだよ」
同じテーブルについていた達樹が言い捨てる。
「あんたも白ドレス着てる女たちも完全に未来先輩の引き立て役になってるっての、気付かないもんすかね」
「同感だ」
「次はエマか……」竜神君がうんざりとしています。
隣のテーブルにも白ドレスの人がいらっしゃいました。
エマさんというそうです。
「そもそもお前は誘ってなかったはずだろ。どうやって入ったんだ?」
「男子から一枚奪ったのよ。それにしても何? いきなり結婚してるとか、結婚式するとかって! 強志が好きって言ってたから髪の長さまで揃えたのに!」
「それは未来の髪の長さだよ」
「この~~~~!!!」
エマさんが中身の入ったグラスを持ち上げた。狙うのは未来さんだ!
「はい、ストップ」
虎太郎君が腕を掴んで止めさせた。
「やっぱり席を交代しててよかった。未来と強志君はもう二年以上も付き合ってるんだ。入り込む隙なんてないんですよ」
「だから何!? 早い者順だっていいたいの!?」
「それだけ絆があるという話です」
とうとうエマさんが泣きだしてしまいました。
「強志の好みに合うようにメイクも変えてたのに」
「オレなんかよりいい男は山ほどいるだろ。別の男を探せよ」
「強志じゃないと駄目だもん!!」
その大声で注目を集めてしまいました。未来さんが驚いてましたけど、強志君が細い腰を抱いて次のテーブルに移っていきました。
今度の白ドレスの人は大人しかったです。以前ミス桜丘だった如月あやめさんだ。
この人は未来さんに負けていると自覚があるらしく、ギリギリと歯を鳴らしそうな勢いで未来さんを睨みつけていた。
「如月先輩も招待したつもりは無かったんですが…」
「私も招待状を譲ってもらったのよ。水臭いじゃない。私を招待してくれないなんて」
「はぁ……」
竜神君が気の抜けた返事をする。そして続けた。
「先輩が結婚式に白いドレスで現れるとは想像もしていませんでした。そこまで常識が無かったとは」
「私もがっかりしちゃいました。先輩のこと尊敬してたのに」
このテーブルについているのは美穂子さんだった。
常識が無い、の言葉に怒りに顔を赤くさせたが、ふ、と顔をそらした。
これ以上の言い合いをするつもりはないらしい。
羞恥心は残っていたようです。
「未来、悪かったな」
「? 気にしてないよ。自由な服装で来てもらって構わなかったしね」
み、未来さん……結構大物だったんですね。
「それに、花嫁の手紙に集中しちゃって、今からドキドキしてるもん」
「大丈夫だって。練習もしただろ」
「う、うん」
二人が壇上へと戻っていきます。
式はとどこおりなく進行し、最後の強志君の謝辞の言葉で締めとなりました。
花嫁の感謝の手紙で僕まで泣いてしまったのは秘密です。
泣いているのは井上です。