持つべき者は探偵の友人
夏休みも終り、日常生活に戻っていたとある日。
まだ夏の熱が残る放課後、俺達はいつも通りにパラゼ部に集まっていた。
「しっかり前科をつけてやったぞ。感謝しろ」
百合が虎太郎の頭にバインダーを乗せた。
「前科?」
俺が聞くと、虎太郎がバインダーの書類に目を通しながら百合の言葉の説明をした。
「ヘンリエッタさんのことだよ。水をかけるだけでも暴行罪になるんだ。おまけに鉄のバケツを未来に投げたしね」
虎太郎がちょっと顔を険しくして言う。
し、知らなかった……。
「写真も撮れてなかったのに良く前科をつけられましたね」
「私の部下に未来のことを見張らせていたんだ。写真どころか動画がある」
「これに懲りて未来に手出しをしなくなればいいんだけど」
「しなくなるさ。なにせ上級国民の一人娘に、執行猶予つきとはいえ前科がついたんだ。今は病気と偽って入院になっているが、今後、表舞台に出てくることはまず無いだろう。冷泉家も交友を切ったようだしな」
冷泉家というのは三郎のことだ。
「ちょっと待て、なぜ未来を撮影しているんだ」
俺がさらっと聞き流していたことに強志が突っ込みを入れた。
「私の部下を使って私の趣味で撮影しているだけだ。強志に文句を言われる筋合いは無い」
「いや、あるだろ。俺の嫁だぞ」
「でも、今回はそれで助かったから……」
虎太郎がおずおずと話に入る。
「動画撮影されてるぐらいじゃ気にならないから大丈夫だよ強志。さすがにシャワーシーンとかトイレとかはやだけど」
別に日常生活で見られて困るようなことはしてないしね。
「お前はもう少し危機感を持ってくれ……」
強志が深くため息をついた。
「まぁいい、前科を付けたことには礼を言う。あの手のタイプはやることがエスカレートしていきそうだしな」
「そうだよね……海外に本家があるそうだからそっちに移ってくれればいいんだけど」
虎太郎が机に肘をついて目元を押さえた。
「で、今日はなにをするんですか?」
ヘンリエッタの事など興味も無いのだろう。達樹が机に身を乗り出してきた。
「そうだな……時間的に遠出は難しいから図書室で勉強会でもするか」
「ええええ――! じゃあおれ帰ります! お疲れさまっした!」
速攻で帰ろうとする達樹の首根っこを百合が掴む。
「お前も中間テストがあるだろう。大人しく付いてこい」
「……はい」
観念した達樹がしょぼしょぼと後を付いてくる。
図書室にはクーラーが設置してあり、学校が閉まる19時まで快適に過ごせる。
それぞれ教科書やノートを出し勉強を始めた。
「虎太郎さん、ここ、どうしてこうなってるんですか?」
「あぁ、それは――」
「虎太郎ごめん、こっちも教えて!」
俺の教科書を開いて虎太郎に渡す。
「うん。ここまではあってて――」
虎太郎を先生みたいに使いながら勉強会をやっていると――。
「あなた達、もう19時過ぎるわよ。早く帰りなさい」
図書室の先生がクーラーを切った。
「え、もうそんな時間なんだ」
時計を確認すると、確かに19時を超えていた。ちょっぴり有意義な時間を過ごし、俺たちは家へと帰ったのだった。