皆で花火!
『花火が安かったんで爆買いしちゃいました! 今日みんなで花火やりません?』
と、達樹からのグループ通話で誘われた。
「達樹、CDの売り上げで贅沢すんなよ。ちゃんと将来の為に貯金しとかなきゃ」
『わかってますけど、ついつい使っちゃうんですよね』
『達樹君、塵も積もれば山となる、だよ。ちゃんとお小遣いは把握してね』
美穂子が言う。
『達樹のようなアホに金銭管理ができるとはとても思えないな。巴さんに預かってもらうか』
巴さんとは虎太郎が所属しているサクラエンターテイメントの社長さんだ。
女性だけど迫力があって怖い。
『それだけは勘弁してください!』
『と言うことは、無駄遣いしてる自覚があるんだな』
『うっ』
巴さんに預けることが決定した瞬間だった。
『と、とにかく、花火買っちゃったんでやりましょうよ』
「うん! 場所はどこにする? 最近、公園でやるのは禁止されてるし」
『ここのベランダでいいでしょ。ね、虎太郎さん』
『ああ、うん、構わないよ。花火なんて初めてだけど』
達樹は虎太郎の家に居候してる。なのに事後承諾で場所を決めていた。
ともかく場所が決定し、日が沈む8時に現地集合となった。というか、虎太郎、花火もやったことなかったのか……。
――――☆
「どれやります?」
達樹がテーブルの上に広げる。爆買いしたと宣言しただけあって、テーブルに山盛りになってしまってる。
強志がバケツに水を張ってくれた。
「最初は手持ち花火からやろうよ」
蝋燭を立てて火をつける。
俺はスパークする手持ち花火を両手に二つずつ持って一気に火をつけた。
ぐるぐる回して遊ぶ。
「未来、一気に付けるの危ないよ」
「このぐらい平気だよー、美穂子にハート!」
花火をハート型に動かす。
「もぅ、それでごまかされないんだからね」
「食らえ!」
達樹がねずみ花火を俺と美穂子の足元に投げて来た!
「きゃああ」
「うやー!」
二人ともスカートとサンダルで足元ががら空きだ。暴れまわるねずみ花火から必死に逃げる。
どうにか怪我をすることなく生還できた。
「達樹君! 人に向けちゃ駄目!」
「未来、美穂子、ベンチに乗ってろ」
「?」
強志がなにをしたいのか分からないまま、俺はベンチの上に抱き上げられた。美穂子も素直にベンチに上る。
手に取ったのはドラゴンだ。地面に置いて着火する花火。
火をつけて、導火線が消える寸前で強志が自分の方向に倒した。
てっきり自分に向けられると思っていたのだろう達樹が油断していると。
「う、うわあああ」
ドラゴンが火の勢いで動いて達樹に向かって滑っていった。
ホーミングしているかのようについて行く花火に達樹が逃げ惑う。
走りまわり、どうにか俺たちの乗ってるベンチに乗ってドラゴンから逃れた。
「ド、ドラゴンは卑怯ですよ! あんなん兵器みたいなもんじゃねーっすか!」
「お前が美穂子と未来にねずみ花火を投げるからだろ」
「? これはなに?」
虎太郎が黒い円形の小さな花火を持って不思議そうにしている。
蛇花火だ。
「それに火をつけてみろ」
「うん」
強志に言われるがままに一粒取り出して、蝋燭の火を近づける。
「伸びて来た」
「……」と虎太郎に間が開いた。
「これだけ?」
「それだけだ」
そっか、といいつつまた火をつける。
ただただ伸びる花火を見ていた。
「虎太郎さん、気に入ったんですかそれ」
「伸び方が面白いから」
いいつつ三つ目の蛇花火に火をつけた。
「虎太郎さんって未来先輩と同じでほんと中身が残念ですよね」
「何ついでにディスってきてるんだよ」
「みーき、はいこれ」
おなじみの手持ち花火を持たされた。火をつけると色が黄色から青色に代わっていく。
派手な花火もいいけど、やっぱり庭で花火と言えばこれだよな。
虎太郎は次はパラシュート花火に興味を持ったようだ。
俺たちから離れて、導火線に火をつける。
パンっとパラシュートが打ち上げられ、ふわふわと落ちてくる。
「あぁ、中にパラシュートが入ってたんだ」
受け止め、自分で開いて投げて遊んでいる。
「ええい、イライラする。お前はこれでもやってろ!」
何もかも新鮮でたまらないといった感じの虎太郎に百合が手持ち花火を投げ捨てた。
手持ちのスパーク花火だ。
「それ、十色あるから全部やっちゃっていいっすよ」
「うん」
強志が手にしたのはナイアガラだ。
細長い長方形の台紙に七本の花火が付いていて、火をつけるとほんとに滝みたいに火花が落ちていく。
「すごい迫力!」
「そうだね。でも綺麗!」美穂子と一緒に見とれてしまう。
「花火よりも未来と美穂子の方が綺麗だがな」
ベンチに寝そべってる百合がきざな男みたいなセリフを言った。
「ふふふ、ありがとう。百合ちゃんも花火やろうよ」
「見てる方が面白い。虎太郎、次はこれをやってみろ」
太く、見るからに怪しい花火を虎太郎に投げた。
「うん?」
素直に火をつけると、爆発したみたいに火花が弾けた!
「わ」
そして普通の花火より数倍はある炎を吐き続けた。
「びっくりした……迫力のある花火だね」
強志が今度こそちゃんとした使い方で吹き出し花火に火をつけた。
小さな筒から放たれる火花の色が黄色から青へ変わり、花火大会の超小型版みたいな花をいくつも咲かせる。
「へーそんなのも混じってたんですね」
達樹が呑気に言う。ほんと何も考えずに買ってきたんだなこいつは。
絶対に大金を持たせちゃ駄目な奴じゃないか。
一杯あったはずの花火があっという間に無くなってしまった。
閉めの線香花火を残して。
俺と美穂子で一本ずつ火をつける。
小さな光がいくつも弾けては消えて行っている。
光を見つめる美穂子の目がとても色っぽくて見とれてしまった。
ほとんど同時に火がぽとんと地面に落ちた。
「線香花火30本バージョン!」
と達樹が言い、三十本いっぺんに火をつけた。
「こら、達樹君、線香花火の楽しみ方はそうじゃないでしょ!」
あっという間に燃え尽きて、ぼとっと線香花火の火が落ちた。
「あ」
こうして、俺たちのちっちゃな花火大会は終了したのであった。
達樹の全財産没収(お小遣い制)という傷跡を残して。