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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
第十八章 やっと夏休み!
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予備校に通おう!

「もーすぐー夏休み―♪ うやー」

「受験勉強に忙しい夏休みー♪ うやー」


 自作の歌を歌ってると達樹が水を差してきた。

「いうなよー、今から憂鬱になっちゃうだろー」

「でも未来先輩、合格圏内だったんでしょ? なら大丈夫じゃありませんか」

「そうやって油断してると落ちるんだよなー」


 ごつ、と額を机にぶつける。

「やっぱり予備校行った方がいいのかなぁ」

「今更っすね」

「パンフレットだけは沢山貰って来たんだ」

 ばさ、と机の上に広げる。

「確か強志先輩も予備校通ってるんでしょ? 同じトコにした方がいいんじゃないすか?

「でも強志の行ってるとこってレベル高いんだもん。ついていけるかな……」

「いやいや、ついていくために予備校に通うんでしょ? レベル低いところ行っても意味なくないですか?」


 達樹のド正論になにもいえない。

「一緒の予備校に通うか?」

 後ろの席から強志が確認してくる。

「うん。そうする」


 強志と一緒だと心強いしな!


 早速予備校に連絡して、入会の意思を伝える。

 母さんに相談したら絶対『女に学歴はいらないの。さっさと就職して、強志君を支えなさい』と言われるのが落ちだから、書類の保護者の欄は強志のお母さんにお願いした。


「本当に娘になったのねぇ……お母さん感無量だわ」

 と、なぜかしみじみとされてしまったけど。


 夏休みに入り、予備校への初登校の日、俺は緊張しながら予備校へ向かった。

 予備校なのに自己紹介があるらしく、俺は廊下で待機していた。

「今日からこのクラスの仲間になる人を紹介しよう。入っておいで」

 緊張しているのを悟られないように、なるべく毅然とした態度で入りたかったんだけど、ビビりをそう簡単に克服できるわけもなく、俺はブルブル震えながら、「り、竜神未来と申します。よろしくお願いします」と礼をした。


「おおおー」

「すっげー可愛い子来たー」

「マジ可愛過ぎねぇ?」

「竜神君と同じ名字なんだな。妹か? ってそういえば……」

「竜神、指輪してたよな。左手薬指に。まさか」

「あぁそうだよ。オレの嫁だよ」

「ええええええ」「噓でしょ!!」「マジかよ、結婚してたのかよ!」

「左手薬指に指輪はめてるのになんでそんな驚くんだ?」

「いや、普通にファッションだと思ってたよ!」

「こんな可愛い子を嫁にできるなんて、どんだけ徳を積んで来たんだ!?」


「席は好きな場所に座っていいからね」

「は、はい」

 机は二人掛けの長机だった。

 俺は迷わず強志の隣の開いた席に座る。

「マジで同じ指輪だ……。つかリストバンドもお揃いじゃねーか……」

 俺の斜め前に座ってた男子が確認する。

 そう、強志はわたしのものなのだ! と一人心の中で自慢してしまう。


 がらりと後ろのドアが開いて、けんのある美人が入ってきた。


「ちょっと、そこワタシの席なんだけど?」

 と、美人に詰め寄られてしまった。


「えと……その」

「席は早い者順だろうが。エマが他の席に座れよ」

「なんで強志が注意してくるわけ」

「こいつがオレの嫁だからだよ」


「は? 嫁? あんた結婚してたの?」

「そうだけど」

 ぎろりと睨まれてしまう。

 俺は視線にたじろいで少し下がってしまった。


「まぁいいわ」

 強志の前に座る。

 俺と同じぐらいの長さの髪をしていた。


「ねぇ強志、こないだ見せてくれたノートありがとうね。返す」

「おう」

「お礼にスタバで奢ってあげる。今日終わったら一緒に行こうよ」

「礼はいらねー」


 強志が女の子のことを名前で呼んで、女の子も強志を名前で呼んでることにじくりと胸が痛んだ。

 俺の知らない場所で、強志の交友関係が広がっている。生きていればそれは当然なんだけど、当たり前のことなんだけど、胸が苦しい。


 案の定授業は難しかった。付いていくのが精いっぱいだ。

 ようやく休憩の時間になった。


「大丈夫か未来」

「頭が爆発しそう……」

 ぐったりと机に倒れ伏した俺に強志がポンポンと頭を撫でてくれる。

 大きい手が気持ちいい。


「腹減ってきたな。コンビニでパンでも買ってくる」

「あ、それなら大丈夫。おにぎり作ってきたから。中身は鮭と明太子」

 バスケットを渡す。

 時間的に絶対強志はお腹へると思っておにぎりを作ってたんだよな。


「ありがとうな。すげー美味そう」

「ふふふ。おにぎりに美味そうもまずそうも無いだろ」


 と、話してる間に強志はおにぎりを食べ終えてしまった。


「やっぱりコメは腹持ちが違うな」

 緑茶の水筒を差し出す。

 氷がまだカラカラ言っていた。

「至れり尽くせりだな。お前も受験生なのに。無理してねえか?」

「してないよー。おにぎりなんてラップでチャチャっと作れちゃうし」


 エマさんが振り返った。

「おにぎり食べたいなら言ってくれればよかったのに。ノートのお礼にその位作ってあげたのにさー」


「ノートぐらいでそこまで要求しねえよ。それに、今回からは未来も一緒だしな」

「ふーん」

 「便所行ってくる」と強志が席を立ってしまった。

「おにぎりなんて作ってきて、出来る妻気どり?」

 エマさんに睨まれてしまう。この人強志の事好きなんだろうなぁ。強志の隣の席を自分の席と言い張るぐらいだし。

 西郷さんといい、この人といい、ほんとにしんどい。


「一緒に暮らしてるから強志のお腹が減るタイミングがわかってるだけだよ」

「一緒に暮らしてる!?」


 嫁って言ってるのにそこに食いつくの?

「マジで一緒に住んでんの!? ひょっとして二人とか……」

 隣の男子から聞かれて正直に答える。

「うん。二人暮らしだけど」

「マジか……」


「言っとくけどまだ手は出してないからな」


 強志が戻ってきた。


「うっそだろ、こんなスタイルも顔もいい子相手に我慢なんかできるわけねえ」

「ほんとだよ。あーもうこの話は二度とするなよ。未来は恥ずかしがり屋なんだからな」

 強志がギロリと睨みつける。

「わ、わかった」


「なーんだ。そんなんじゃ全然夫婦じゃないじゃん」

「なんでそうなるんだよ。つーかこの話題はもうやめろつってんだろ」


「全然夫婦じゃない……?」


 エマさんの言葉が矢みたいに心に刺さった。


「未来!」

 涙がボロボロ流れていた。あれ? ここ泣くところじゃないよね?


「あれ、なんで泣いてるんだろ」

 自分でもなぜかわからないぐらい涙が零れる。

 あはは、と笑顔を作ってみたけど涙が止まってくれない。


「来い」


 強志に腕を引かれ、教室の外に出る。

「う~~~~」

 包み込むようにきつく抱きしめられ、本気で泣き出してしまった。

「オレ達は間違いなく夫婦だよ。誰になんと言われようともな」

「うん……ぅええ……ごめ、つよし……!」

 厚い肩に腕を回して強く抱き着く。

「何を謝ってるのかわかんねえ」

「出来、な、くて、ごめ、ん……!」

「いいって。そんなことより未来が笑っているのが優先だから。こっちの方がよっぽど夫婦だろ?」

「ごめ……!」

「いいから、オレを信じてくれよ」

「う、ん……!」

 背中をさすられ、やっと涙が止まった。

 教室に入ると「目元真っ赤で超可愛い……」「そんなんより泣かしちゃ駄目でしょ……さすがに竜神さんが可哀そう」などとヒソヒソ声が飛び交う。


 机に座ると、強志はばたりと倒れこんでしまった。

「ど、どうしたの?」

「お前の泣き顔見ると罪悪感で死ぬ」

「指輪くれたときに泣いた時は?」

「あれはうれし涙だったろ。オレも嬉しかったよ」

「あはは」

 ガタンと音がしてエマさんが立ち上がった。

「ワタシ帰る!」

 とだけ言い捨てて。


 なんかここんとこ、ずっと女運が悪い気がするよ。ヘンリエッタとか西郷さんとか今のエマさんとか。

 どうかここで打ち止めになりますように!

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