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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十七章 とうとう三年生です!
221/239

未来は女子に可愛いと言われると照れます。男子に言われるとスルーします

「この荷物を図書室まで運んでおいて」

 月曜日の中休憩。一年生である本田恵美と川崎加奈子はその量を見て「えー!」と声を上げてしまった。


 それほどに量が多い。しかも本。結構な重さであることが見て取れた。


「じゃあお願いね」

 とその一言でふたりは荷物を抱えて図書室まで行くしかなくなった。

 本田が大量の紙袋を、川崎がよろけるほどに重い本を持って外に出る。


「う、やっぱ重いよー、」

「腕が千切れるー!」


 愚痴のような敗北宣言のような言葉を発しながらふたりで階段を上がっていたのだが。


「貸せ」

 え。


 後ろから重たく力強い男子の声がかかった。

「あ、り、竜神先輩」

「こ、こんにちは……」

「挨拶はいいから、ほら」


 ふたりがかりで限界だった荷物をひとりで持ち階段を上がっていく。

「行き先は図書室か?」

「は、はい」

「ありがとうございます!」


(すっごい力持ちー)

(しかも優しいよ! どうしよう、好きになっちゃうかも)

(竜神先輩は結婚してるでしょ)

 竜神の後ろで女子がひそひそしている。

 

「そうだよー。誰にも渡さないからなー」

「きゃ!」「わ!」

 後ろからの声に二人で驚いてしまう。

 そして息を呑んだ。


 何度見ても慣れない美貌の少女が意地悪く、でも笑顔で答えた。


「未来ちゃん先輩……」


「またそれ!? ちゃんはいらないよ!」

「でも、わー……」

「すごーいやっぱりすごい可愛い……」


「な」

 未来の頬がカッと赤くなる。

(え、こんなことで照れるの!?)

(可愛いなんて何万回も聞いてそうなのに!)


「そ、そんな言葉に騙されないんだからな。強志は未来ちゃん先輩のものなんだから」


 自分で未来ちゃん先輩と言い、顔の前で掌を広げ、結婚指輪を見せつけた。


 一年生二人が黄色い悲鳴を上げる。


「いいなー、学生結婚憧れちゃう……!」

「竜神先輩も同じ指輪してるんですか!?」


「ほら」

 図書室についてカウンターに本を乗せると強志も左の薬指に付けた指輪を見せた。

 未来が付けているのと同じ輝きの指輪だ。

 同じ色のリストバンドも目に入る。


「「きゃー!」」


 何がきゃーなのか分からないが二人とも目を潤ませて、

「おめでとうございます! 応援してますね!」

「竜神先輩って怖い人だと思ってたのに、すっごく優しいんですね。優しい彼氏羨ましい~!」

 と二人を祝福したのだった。


――――――


 今度は一年生女子、鈴木奈乃香が大量の書類を抱えて階段を駆け下りていた。

「もう、前が見えないじゃない!」

 書類は数年前からのテストの原本だった。しかも全教科分である。資料室を目指して走りながら階段を降りようとする。と、


「きゃ……!?」

 思いっきり階段端に足を引っかけた。

(あ、終わった)

 と思ったと同時に天国のお婆ちゃんの顔が浮かんでいた。


 バサバサと書類が落ちて、完全に体勢を崩してしまった鈴木が大けがを覚悟する。

 階段から落ちちゃう――!


 が、力強い腕が落ちる寸前の鈴木をとめた。

 片手でお腹を支えてもらい、半ば宙に浮いた状態で、階段に戻されたのだ。


「こ、怖かったよおお」

 鈴木が思わず涙目になる。

「大丈夫だった? 怪我はないかな?」

 モデルである浅見虎太郎が女子を助けていた。


 一年生は「は、はい!」 と真っ赤になって答える。

 虎太郎は細身だ。なのにこれだけの力があるなんて想像もしていなかった。


「よかった。階段で走るのはやめたほうがいいよ。せめて手すりを持たないと」

「は、はい!」


 虎太郎は手際よく年代別にテストを集めてくれた。

(は、私も手伝わなきゃ!)


 と正気に戻ったのはいいのだが、散らばった書類は全て虎太郎が回収していた。


「持ってあげるから行こうか。場所は資料室かな?」

「は、はい、そ……です」


 自分が『はい』しか言えないBOTになってることに気付いて、は、と息を呑んだ。

 助けてくれた恩人に対して義理を欠いてはいけない。


「その……ありがとうございました」

「どういたしまして」


 虎太郎が笑って返した。

(やばい、イケメンオーラにやられちゃうところだった。私一応彼氏いるし、虎太郎先輩になびいちゃ駄目だから!)


 自分だと書類を持つと前が見えなくなるぐらいだったのに、虎太郎が持つと胸までしかないのもポイントが高い。

(コタロー先輩ってこんなに背、高かったんだ)

 強志と一緒に行動してるところしか見たことがなかったので改めてそう思う。

「あぁ、紙のにおいがこもってるな。少し窓を開けようか」


 外は昨日振った雨がやみ、カラッとした天気になっていた。

 レースカーテンがはためき、虎太郎の姿を薄くする。

「コ、コタロー先輩!」

「ん? どうかした?」


 レースのカーテンから出て来た彼はごく普通に存在していた。

 コタロー先輩が消えてなくなりそうだったから、とはいえず、ただ、書類ありがとうございました、と深々と礼をするしかなかった。

「虎太郎さん、さっきの見てましたよー」

 二年生の王鳥達樹が入ってくる。

 ヤンキーっぽい見た目に一歩下がってしまう。


「さっきのって何のこと?」

「一年生の女子をたぶらかしてたでしょ」

「たぶらかしてないよ! 書類運びを手伝っただけだから!」

「えー、マジっすかぁ? 気を付けた方がいいよ、えと……」

「す、鈴木です!」

「鈴木ちゃん。この人むっつりだから近くに寄ったら危ないぞ」

「だから、むっつりじゃないって! 君がそう思い込んでるだけだろ!」

 ぎゃーぎゃーと子供っぽい言い合いをして、二人とも教室を出ていく。


 鈴木は、コタローが消えそうに見えたのは目の錯覚だったんだな、と、一人納得をした。

 そして、サインの一枚も貰えなかったことを後悔した。

スズキ、ホンダ、カワサキ……ヤマハが出せそうで出せなかったです

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― 新着の感想 ―
[一言] 「山葉」って、ヤマハの創業者の苗字なんですよね。 ただし、日本中探しても数十人しかいない、珍しい苗字だそうですが。
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