西郷さんが露骨に俺たちのグループに入ってこようとする(後編)
――――――
「なんだったんすか朝の露出狂みたいな人」
お昼時間、パラゼ部部室でのお弁当中だ。
トングで自分の皿に好きなものを盛りつけながら達樹が嫌そうに言った。
「わかんないよー、いきなり絡んできてめんどくさかったんだぞ。強志を取られるかと思ってひやひやしちゃった」
「取られるわけないだろうが。未来の方が何千倍可愛いか計算したくなったぐらいだ」
「強志君が未来以外になびくわけないのにね」美穂子があきれたように言う。
「っすよね。虎太郎さんだってあの手のタイプ嫌いでしょ」
「正直に言うとそうだね。あまり人に向かって嫌いと言いたくはないんだけど」
「あの人、おれのクラスで妖怪胸ぶりんぶりんって言われてますよ。体育祭のインパクトで」
「的確なあだ名だな」
百合が言って、口に里芋を入れる。
「うん、うまい。美穂子の煮物は最高だ」
「ふふ、ありがとう」
「こんにちわー」
ガラ、と戸が開いて妖怪胸ぶりんぶりんさんが入ってきた!
「何をしに来た。ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
「お昼ご飯を食べにきちゃいましたー」
と言いながら百合のわきをすり抜けて中に入ってきてしまう。
「えー、お弁当茶色いー。もっとバエルの作った方がいいよー。これ、誰が作ったの?」
「私だよ」
美穂子が答える。
「やっぱりお母さんだ。愛華、美穂子ちゃんの事お母さんって呼んじゃおうかなー」
「ちょっといい加減にしてくださいよ。美穂子ちゃんの料理は美味いんだよ。けなすようなこと言わねーでください」
「やだ、なんで達樹君が怒るの? 見て見て、私のお弁当! 可愛いでしょ?」
て差し出されたお弁当にはサンドイッチが2つしか入っていなかった。後はサラダだ。
可愛いっていうのか? 量が可愛いってことか?
「愛華超小食でー、いっつも皆から怒られちゃうんだー」
「その『皆』のところで食ってくれませんか? ほんとここ、関係者以外立ち入り禁止なんで」
「1日ぐらいいいでしょ? あーんしてあげるから怒らないで」
とサンドイッチを達樹に突き出すが「おれは茶色い弁当が好きなんで」と唐揚げを口に入れてはねのけた。
「ひどーい、自信作なのに。コタロー君も食べてくれる?」
「も」ってなんだ「も」って。今達樹に断られたばかりだろ。
「僕も茶色い弁当が好きだから必要ないよ」
といいつつ好物の焼きそばを食べている。
「ふーん。強志君の好きなものは?」
「茶色い弁当だよ。あと、未来の作った弁当は全部好きだ」
「このタッパーに入ったのが未来ちゃんのオベントー? えー、なにこれ、ほうれん草の胡麻和え? きんぴら? お婆ちゃんのオベントーみたーい」
いくつも置いてあるタッパーの中身を見てまた手を叩いて笑い出した。
ヤバイ、そろそろ百合の鉄拳が飛んできそうだ。その前に何とかしなきゃ。
「西郷さん、お弁当持って、こっちこっち」
どさくさに紛れて弁当を持たせ、外に出してガシャと鍵をかける。
「ひどーい、入れてよー!」
しばらく外で騒いでいたけど、やがて静かになった。
「はーようやく落ち着いて飯が食える……」
「僕たち、平和な日常を送ってたんだね……」
「ほうれん草の胡麻和え、うめえ」
「いかんな、危うく手が出そうになってしまう」
百合が拳を作ってフルフルと震わせた。
「そんな顔してたから出てって貰ったんだよ。暴力は駄目だからな百合。西郷さん超ウザいけど」
「美穂子さんも未来も西郷さんの言葉は気にしないで欲しいな。本当に二人の料理は美味しいから」
「そうだな。あんな手を叩いて笑うことしかできないサルの言葉は間に受けないでいい」
百合が辛辣だ。
ぽんと頭にシンバルを持ったサルのヌイグルミが浮かぶ。
あんな感じかもしれない。
――――
余裕を持って教室に戻ると西郷さんの声が響いてきた。
「未来ちゃんにパラゼ部の部室から追い出されちゃったのー。愛華、男の子に好かれちゃうから嫉妬されたみたいで――」
「えー竜神さんが? ちょっとひどくない?」
「ひどいよねー。でも愛華って愛されキャラだし? 未来ちゃんより可愛いから嫉妬されるのも分かっちゃうんだよねー。あ、未来ちゃん!」
西郷さんが話してる内容がかなりヤバイ。友だちを巻き込んで俺を悪人にしようとしているようだ。
どうしよう、面倒くさいぞ。
西郷さんが攻めてくる。
やめて、来ないでください。
「さっきの許したげるからぁ、明日はちゃんと一緒にご飯食べようね。美穂子ちゃんのお母さんご飯と未来ちゃんのお祖母ちゃんご飯には超笑っちゃったけどぉ。男の子達も愛華が居た方がいいでしょ?」
「なんでそう思ってんすか?」
俺の机の横に立った達樹が心底嫌そうな顔をしている。
「つかアンタが未来先輩より可愛いってマジで言ってんの? 鏡見た事あります? 未来先輩に比べたらアンタなんかチュパカブラっすよ」
「なっ……!」
何事もズバッと言ってしまう達樹からの反論に西郷さんが止まる。
口をぱくぱくして次の言葉を探しているようだ。
「これ」
達樹が携帯を構えた。
「な!」
それはプール掃除の時に四つん這いになってる俺の後ろから撮られた写真だった。
体操服から水着の……その、お尻より下の三角ゾーンがばっちり出ている。
「んでもってこれ」
ジャンプして掲示板から画びょうを取ろうとしている俺。パンツが全開になってる。
「い、いつの間に撮ったんだよ!」
「いいっすよねー、女の子の下着は見せたくないのを見ちゃうのがだいご味っすもん。西郷先輩みたくわざとブラちらつかされてるのは全然嬉しくないっす」
「ちょ、達樹、それ送ってくれ頼む!」
「お断りです」
男子に言われるものの、携帯を隠してポケットに入れた。
「とにかく今の画像、消せ! 消せ!」
「体操服透けて水着が見えてる画像もありますけど」
ほんといつの間に撮ってたんだよこいつ!
「そうだよなー。西郷さんも美人だけど未来ちゃんには遠く及ばねえし」
「そもそも結婚してる男にべたべたしてるのがっつきすぎて萎える」
「未来とやり合おうとするなんて、負け確イベントだよ」
クラスメイトたちが援軍になってくれた。
「だそうだぞ。二度とパラゼ部の部室に来るな」
百合が言葉を締め切った。
「そ――そんなことないもん。愛華の方が可愛いし、リレーの時だってみんな見てたし!」
「そりゃ見るでしょ。トリの種目であんだけ遅く走ってりゃ。つか胸を見せつけたいのがバレバレすぎて萎えましたわ。先輩のあだ名知ってます? 妖怪胸ぶりんぶりんですよ」
「よ……!」
西郷さんの顔が怒りで真っ赤になった。
周りからぶふ、と噴き出す声や笑いを我慢しきれてない人の失笑が漏れる。
「さっさと席に戻れ西郷愛華。お前が居ると暑苦しい」
しっし、と百合が手を振る。
「ひどいよ……、愛華、ただ皆と友だちになろうって思っただけなのに!」
うつむき、顔を掌で隠して泣き始めた。
でも涙が出てないからウソ泣きだな。
「ねー、達樹君のさっきの言葉噓でしょ? 未来ちゃんに気を使ってるだけだよね? 愛華といる方が絶対楽しいでしょ?」
と、両腕で胸を挟んで谷間を見せつけながら言う。やっぱりウソ泣きだった。
「未来先輩といる方が楽しいに決まってるでしょ」
「あぁ」
「うん」
達樹、強志、虎太郎の正直な反応に西郷さんの顔が怒りでますます赤くなる。
これ以上言うと口から火を出しそうだ。
「愛華の事よく知らないからだよ。知ったら絶対愛華の事が良いって思うはず!」
「人の弁当をけなしてマウントを取るお前の性格のどこに良さがあるんだ? 二度と近寄るな。パラゼ部部室に来ることも許可しない。これは部長である私の決定だ」
パラゼ部部長の百合がきっぱりと西郷さんを拒絶した。
「ひどーい!」
また泣きまねで同情を得ようとするが、西郷さんの味方は現れることはなかった。
「いや……だから未来ちゃん美穂子ちゃんと比べるのは無理があるだろ……」「昔っからナルシストだもんねあの子……」「友だちの恋人を何人も奪ったぐらいだしね」
小声で噂が飛び交う。
「もういい!」
やっと西郷さんが自分の席に戻って行った。
つ、疲れた……。
西郷さんを今後出そうかどうか悩んでます
手を叩いて笑うって嫌いじゃないんだけど、文章にすると腹が立つと初めて知りました。
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