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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十七章 とうとう三年生です!
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他校の文化祭(ジェファーソン女学院)(後編)

 アシュレイさんの胸元には青いリボンがあった。

 どうやら男性役の人は青のリボンをつけているらしい。


「あ――あの、コタローさんですよね、モデルの! よ、よかったらワタシと踊っていただけませんか!?」

「……光栄です」

 虎太郎が笑顔で女性の手を取るが完全に営業スマイルだった。また何かの役になりきってるんだろうな。


「あの、おれ初めてなんですけど踊ってもらえませんか?」

 達樹も要領よく女の子をひっかけている。


 俺から見たらただのガキ臭い男なんだけど、冷静に見ればかなりイケメンの部類に入る。誘いを受けた女の子は顔を真っ赤にしていた。


 強志も身長が高い女性とペアを組んでいた。ほかの女の子と踊るとこ見たくないな……。

 アシュレイさんの断ればよかった。


 俺たち以外は女の子同士で踊っている。百合も美穂子を完璧にリードしていた。


 ターンして、お辞儀をして、次のパートナーに。

 俺は迷わず竜神とペアになった。


「わ」

 ちょっと乱暴だけど引っ張られて踊りやすい!

「大丈夫か? 変なちょっかいかけられてねえか?」

「ん、平気!」

 なんて言ってる間にも曲が変わってパートナーが入れ替わる。リリィさんだった。


「やっぱり綺麗な子。桜丘高校なんかやめて、この学校で学びなおさない?」

 なんてことをおっしゃいますか。

「わ、わたし、家が貧乏なのでとても無理です!」

「ふふ、特例で入学させてあげてもいいのよ? もちろん授業料免除でね」

「とんでもないです」


 桜丘が気に入ってるんだ。

 確かにお嬢様校に興味がないと言ったら噓になるけど、転校なんてしたくないよ。


 くるくる相手を変えて、ダンスは終わった。


 ふー、疲れた。

「楽しかったねー」

 美穂子が笑うが可愛いその笑顔でも体が回復しない。


「あ、あの……」

 女の子が三人、俺に話しかけて来た。


「はい?」

 明らかに年下っぽかったけど敬語で返事をする。


「その……浅見虎太郎さんと日向未来さんにお話が……と、アシュレイお姉さまが……」

「校舎裏までついてきてくれますか?」

「お願いします」


 アシュレイさんが? 何の用だろ? さっきダンスの時に話してくれればよかったのに。

「未来、オレも行くか?」

「ううん、大丈夫、虎太郎が付いてるから」

「うん。ちょっと行ってくるね」


 女の子達について校舎裏まで曲がる。フェンスには薔薇の飾りがついた鉄格子がはられていた。


 女の子の逃走防止じゃなく、不審者への警戒なんだろうな。


「ここで少しお待ちください」

 言われた場所で止まっていると。


 ばしゃぁあ!


 いきなり水が降ってきて俺の体がずぶぬれになってしまった。隣に立つ虎太郎も。

「な……!?」

 上を見上げると、ヘンリエッタが嫌な笑い方で俺たちをののしってきた。

「よくもまぁ恥ずかしげもなくこの学園へ入ってこれたものね。あなたたちはそれがお似合いよ!」

 取り巻き達と一緒に嘲笑してくる。


 バケツまで投げつけられ、咄嗟に頭をかばうが、その前にバケツは虎太郎の蹴りに飛ばされていった。

 へしゃげたバケツがガンガン音を立てながら転がっていく。


「未来、怪我は無い?」


「うん、大丈夫。って――――」

「うわ、ごめん!」

 虎太郎が咄嗟に視線を外した。中間服である長袖のブラウスが水で透けていた。ブラが完全に見えちゃってる!

「わ、わ、どうしよう」

「えと、これ」

 咄嗟に虎太郎が自分のカッターシャツを脱いで、きつく絞ってから背中をむけたまま俺に渡してくれた。

「ありがとう、ごめん、」


 服を広げて体にまとう。前を両手で押さえて。

 俺も虎太郎も髪からまでしずくが垂れている。虎太郎は下にシャツを着ていたけどそれまでびしょ濡れだ。


「ヘンリエッタさん」

 虎太郎が呼びかける。蹴りの威力にヘンリエッタとその取り巻き達は青くなっていた。


「二度目、ですね。このお礼は必ずしますので、忘れないでください」


 虎太郎が俺でも怖いと思うぐらいの無表情で言う。


「その必要は無いわ」

「!」


 リリィさんが居た。

「お、お姉さま……!」

「ヘンリエッタ。あなたはこの学園にふさわしくないようね。追って退学の通知を送らせてもらうわ」


「お、お姉さま! わ、私はその二人に嫌がらせを受けていて、その仕返しをしただけで」

「言い訳は聞かないわ。ごめんなさいね二人とも。シャワー室と更衣室があるので使ってちょうだい」


 地球温暖化中と言えどもびしょ濡れは寒い。5月だもん。

「せ、先輩たちどうしたんですか!?」

「びしょ濡れじゃない、何があったの!?」

「虎太郎、服を脱いでこっちに着替えろ」

 竜神がカッターシャツを脱いで虎太郎に手渡す。

 竜神も服の下にシャツを着こんでいたのだ。


「ありがとう……」

 虎太郎は躊躇いなく服を脱いで竜神のシャツに着替えた。ちゃんと腹筋まで割れている体に少し羨ましくなる。


「ちょ、写真禁止っすよ、やめてください」

 達樹が周りに言う。確かに虎太郎にも俺にもスマホを向けてる人たちがいた。


 着るんじゃなく、まとっていた服をきゅ、と寄せる。

「早くこちらにおいで。シャワー室まで案内するから」

 連絡を受けていたのだろう。アシュレイさんが俺たちを中に入れてくれた。内装も豪華でこんな状況なのに感心してしまった。


「犯人はヘンリエッタか?」

「うん」

 百合の言葉にうなづく。

「彼女は退学処分になるだろうね。この学校はいじめに厳しいから」

 とアシュレイさんが言った。

「ボッチ時代にも水なんかかけられたことなかったのに、生まれて初めてだよ」

「変な感心しないでくださいよ虎太郎さん……」


 シャワー室は学年で別れていた。俺は一年の、虎太郎は二年のシャワー室を借りる。

「未来君、着替えとタオルはここに置いておくから」

「はい!」

 充分に温まってからシャワー室を出る。

「な、なにこれ!」


 用意されていた服が予想外のものだった。


「未来ー、入るよ?」

 美穂子が百合と一緒に入ってくる。


「わ、可愛い!」

「あぁ、良く似合っているぞ」


 用意されていた着替えはジェファーソン女学院の制服だった。

 チェック柄で凄く可愛い。まさかここの制服を着る日が来るなんて! ちょっと嬉しいかも。


 三人で広い脱衣所から出る。

 スカートを広げながら竜神に笑いかけた。

「どうかな? 似合う?」

「すげー似合ってますよ! 超可愛いっす、この学校で一番可愛いんじゃねーの?」

 強志が何か言おうとする前に達樹ががーっと喋りまくってくる。

 お前はいいんだって! 問題は強志だ。

「似合ってるよ。学校一は間違いなしだ」

 うへへー。


 嬉しくなってニヤニヤしてしまう。


「その服はあなたに進呈するわ。うちの生徒がごめんなさいね」

「え!? 貰っちゃっていいんですか?」

「ええ」


「すごい嬉しいです!」

「良かったすねー強志先輩。制服プレイが出来ますよ」

 とバカなことを言った達樹に竜神のげんこつが落ちる。


「ふぅ、お待たせしました」


 さすがに男性物の着替えはなかったようで、虎太郎は竜神のシャツと少しだけ濡れたズボンで出て来た。


「見てくださいよ虎太郎さん。未来先輩の制服姿」

「あ……、す、凄い似合ってるよ、うん、一番」

 変な文法だけど褒めてくれているようだ。


「しかしこんな手を使ってくるとはな。退学になるなら逆上してくるに違いない。しばらくは身辺に気を付けておけよ、未来、虎太郎」

 百合が忌々しそうに言った。


「うん……って、なんで虎太郎まで狙われたんだろうな。なんかあった?」

「昔、ちょっと言い争いみたいになったことがあって……。それより、百合さんも気を付けた方がいいよ。車のナンバー調べてもらったこと、ヘンリエッタさんに言っちゃったから」


「私の事は気にするな。何かしてきたら前歯を二三本叩き折ってやる」

「ぼ、暴力反対! もうちょっと穏便にやってくれよ!」


 いくらなんでも女の子相手にそれはない。

「未来は女に優しすぎるんだ。必要以上に絡んでくる女にはもう少し敵意を持て。例えば氷室メイにもな」

「メイちゃんはもともとファンだったから仲良くなれて嬉しいと思ってるんだけど……」

「そこが油断に繋がるんだ」

 と言いつつ胸をぐいと揉まれて悲鳴を上げてしまった。

「分かった。百合には十分警戒する」

 強志の後ろから百合をじっとりと睨みつけた。


「これは二人へのクリーニング代だ。受け取ってほしい」

 と、一万円ずつ渡されてしまった。


「こ、こんなに必要ありません! ただの水だったから洗えば落ちるし」

「迷惑料込ということで受け取って頂戴」

 リリィさんが小さくため息をつく。


「よかったら来年もきて欲しいな」


 まだ日は高かったけど、リリィさんとアシュレイさんに見送られて俺たちはジェファーソン高校を後にしたのだった。


 後日の話だけど、ヘンリエッタの一族は冷泉家とのつながりを絶たれ没落していったそうだ。

 それが俺達への嫌がらせの報いであることは、俺は知らないままだった。

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― 新着の感想 ―
「私はその二人に嫌がらせを受けていて」? ヘンリエッタ、よくもまあ、そんなことが言えたものですね。 実際に嫌がらせをしていたのは、むしろ彼女の方だというのに。 彼女、もし本気でそう信じていたのなら……
[気になる点] 未来、家が貧乏って……。 あのCDが300万枚以上売れたのだから、すでに2000万円くらいは手元にあるのでは?
[気になる点] それにしてもヘンリエッタ、残りの生涯の内に気付いたのでしょうか? 自分が失恋したのも、自分の家が没落したのも、他ならぬ自分自身の、愚かな振る舞いのせいだったのだと。 ま、正直言って可…
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