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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十七章 とうとう三年生です!
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担任の先生から理科準備室の清掃を頼まれる

 今更になるが、3年5組の担任は2年生のころの担任だった柊先生だった。

 厳しい先生が多いこの学校で、数少ない緩い先生だからちょっと安心しちゃった。


「おーいパラゼ部」


 自己紹介などの新学期のイベントが終わり、六人で鞄を持って部室に行こうとしたら、その柊先生に呼び止められてしまった。


「なんだ。プール掃除ならもう引き受けんぞ」

 百合が一刀両断する。


「違う違うって。お前たち新入生の部員の募集はしなくていいのか? 届け出がまだ出てないぞ」


「そんなことか。必要ない。パラゼ部は今年で潰す予定だからな」

「あー」


 きっぱりと言い切った百合に、達樹がちょっと物悲しそうな声を出す。

「そっかぁ、来年になったら先輩たち居なくなっちまうんすね……やべーせつねぇ」

 達樹が本気でがっかりして首をたれる。


「パラゼ部が無くなるのが嫌なら私たちが卒業した後に募集でもしろ」

「それじゃ意味ねーす……先輩たちの弁当も食えなくなるし、きっと新しい奴ら入れたって先輩たちとの違い感じてつまんねーって思うだけですもん……」


「達樹、そんなことないって。弁当ならレシピ教えてやるから作ってみろよ。最近料理やってるんだろ?」

「……」

 肩を落としたまま達樹が黙ってしまう。


「とにかく今は新入生は募集してない」

「はいはい了解ですよっと」


 バインダーに×を書き込んでいる。


「達樹君、私たちが卒業するまで、まだ一年もあるんだからそんなにガッカリしないでいいよ」

 美穂子が達樹の肩に手をかけて顔を覗き込む。


「そうっすよね。後一年もありますもんね」

「そーだよ。早く部室に行こ!」

 腕を達樹の背中にまわして押す。


「でもこういうラッキーエロもなくなるんすね……」

「ラッキーエロ?」

 ふ、と達樹の視線を追うと俺の胸がばっちり達樹の腕に当たっていた。ちなみに今日つけてるのは胸を潰すブラじゃなくて普通のブラだった。


「ちょっとしんみりしたのに何考えてんだこのエロ魔人!」

 思わず自分の胸を腕で×印にガードして離れてしまう。心配して損した!


「未来先輩がしてきたんじゃねーすかー、俺がエロ魔人なら先輩はエロ魔法少女っす」

「うるさい!」


「というわけで理科準備室の掃除を頼む」

 先生が実に自然な動作で、達樹の掌にチャリン、と、鍵と夢屋のカフェのタダ券を乗せた。

 そして光の速さで逃げて行った。


「なにがというわけだ! 達樹も受け取るんじゃない!」

「つ、つい」


「理科準備室ってどこにあるの?」

「B棟の最上階だ。達樹と未来にはしんどい作業になりそうだな」

 と、強志が言う。

「そうだねー、私としてはちょっと楽しみなんだけど」


「どうして?」


 とりあえずパラゼ部部室に荷物を置いて、掃除道具を持って理科準備室へと向かう。


「う――――うゃあああああ!!!」

「ぎゃあああああ」


 鍵を開けた途端、達樹も俺も悲鳴を上げて廊下の窓際まで逃げた。

 だってそこには解剖された動物のホルマリン漬けがいくつもあったんだ!!!


 人体模型も! 骨も!


「こんなとこ掃除するなんて無理無理無理無理っす!! ぜってー祟られる!」

「お前が引き受けたんだろうが。逃げだすな」

「だってこんなんだと思わなかったんですもん!」

「驚く事ないのに。みんな可愛いと思うけどなー」


 美穂子が嬉々としていくつあるのかさえ定かではないホルマリン漬けを見上げる。

 そうだ、美穂子グロ好きだった。最近その片鱗がなかったから忘れてた。


「未来と達樹が使えないならオレ達でやるしかないだろ。さっさとすませるぞ」

「まて、奥の教室には何も置いていない。達樹と未来はそっちを片づけろ」

「は、はい」

 俺も達樹も目を瞑って強志に引っ張られ中に入っていく。


 長い机が二つ置いてあるだけの狭い空間だった。

「良かった、なにもねえ……」

「空気をいれかえるか」

 窓を開けると目を疑うような光景があった。


「寺戸君!!??」

 B棟は五階建てだ。俺たちの使っているA棟にはないが、B棟の五階と四階の間には日差しを遮る小さな屋根があった。


 そこに寺戸君が寝転んでいたんだ! いや、落ちかかってるぞ!!

 屋根はもちろん斜めになってるし!「ひ、日向さん、助けて……」という間にも寺戸君の体がずるりと下がった。


「強志、寺戸君が!」

「すぐ行くから動くな、待て」

 強志が俺と違って冷静に寺戸君に声を掛けた。

「う、うん……」

 落ちたら絶対に助からない。いや、助かっても重症だ。


 強志と一緒に隣のクラスに入り、開けっ放しだった窓から竜神が手を伸ばす。念のために虎太郎と達樹が強志のベルトを掴んで。


「駄目だ、届かねえ。屋根に降りるから放せ」

「大丈夫っすか!? 落ちたらただじゃすみませんよ!」

 寺戸君の体はすでに太ももまで屋根の外に滑っていた。

「強志君、僕が行くから」

「いいから、寺戸君をそっちに投げるからお前たちは受け止めてくれ」

 ひょい、と窓を乗り越えて寺戸君の手を掴み、引っ張り上げ、寺戸君が屋根を走るぐらいの力で達樹と虎太郎に投げた。


「よっしゃ、寺戸さん捕まえました!」

「強志君!!!」


 だがその反動で強志が落ちる。「つよ――――」

 ガン、と、音が鳴った。

「強志、死んだか!」

 百合が身を乗り上げて声を張る。


「生きてるよ。四階だ。先生に言って鍵を開けてくれ」

「よ、よかったよぉおお……」

 俺も達樹も美穂子も寺戸君もその場に座り込んでしまった。


 皆で四階に降りると、呼びに行く暇もなく先生たちが駆け付けてきていた。

 どうやら職員室から見えていたらしい。


 マスターキーで扉の鍵を開けて中に入り、窓の鍵も開く。


「お手柄だぞ竜神! まさか五階から落ちたのに四階のベランダに捕まるとはな!」

「クライミングでもやってるのか? おー良い筋肉がついてるじゃないか!」


 なぜかまたも、さすまたを持った先生たちが竜神の背中を叩いた。


「なんであんな所にいたんだよ。心臓が止まるかと思ったじゃねーか」

 強志が寺戸君に聞く。


「その……理科準備室の隣で自習してたらテスト用紙がとんじゃって……」

 それが屋根に引っかかったから取ろうとしたらしい。

「あぶねえな! 寺戸サン、強志先輩がいなかったら今頃頭カチ割れてたかもしれませんよ」

「本当にごめん、竜神君……」

「謝らなくてもいいよ。無事でよかった」


 右肩を回して筋肉をほぐしながらあっけらかんと言う。

「怖かったよぉ……」

 俺は情けないことに泣いて強志の背中に額をつけてしまった。

「あぁ泣くなって。この程度の事でオレが怪我するわけねーだろ。さ、準備室の掃除に戻るぞ」

 まるで何も無かったかのように俺の頭を撫でて抱きしめてくれてそう言った。


「バツとして寺戸さんも理科準備室の掃除の手伝いをしてもらいますよ」

「あ、う、うん、わかった」


 寺戸君もホルマリン漬けの拭き掃除を手伝ってくれて、掃除は無事に終了したのだった。


「先生からタダ券もらったし、早速夢屋のカフェに行きましょうよ」

「うん!」

「じ、じゃあボクはここで……」


 と、逃げだした寺戸君を捕まえる。

「バーガー七個買えるタダ券だよ。寺戸君も食べて行こうよ」

「で、で、も、お邪魔じゃ……」

「お前みたいなチビ、邪魔にもならん。さっさと行くぞ」


 はーい、と手をあげて、鞄を持って、俺たちは夢屋のカフェに向かったのだった。

 八人席に座り、ただ券のバーガーと、それぞれジュースやサラダを付けて席に座る。


「あ、そだ、強志先輩、バイクの参考書残ってたら貸してくれませんか?」

 バーガーをがっつきながら達樹が言う。

「あぁいいぞ。やるよ。オレにはもう必要ねぇしな」

「じゃあ代金払いますんで」


「いらねえよ。今、車の教習所に通ってるからな。お前が免許を取れたらオレのバイクをおろしてやる」

「え!? まじで!? あのバイクまだ新品同様じゃないっすか、いいんすか!?」

「ああ。でも事故には気ぃつけろよ」

「はい!」


「ええええあのバイク達樹にやっちゃうの!? なら欲しい! バイクの免許取るから!」


 一回も乗せてもらったことがない俺が乗り出し気味に言うが、


「未来は足が届かなかっただろうが」


 その一言で撃沈してしまった。た、確かに届かなかった……忘れてた……。

「身長差がものをいいましたね」

 達樹ににやりと笑われて悔しい。


「それに、バイクが倒れたら自分で起こさないと駄目なんだぞ。未来の力じゃまず無理だろ」


 ぐぬぬ。無理に無理を重ねられてしまった……。

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― 新着の感想 ―
この回で、『未来がバイクに乗りたがっていること』を知った百合。 未来にシルバーのホンダ・マグナ50(完全にレストアして新品同様になり、さらにチューンナップまでした代物)と、白のシステムタイプのヘルメ…
実際、未来が乗れる『かっこいいバイク』と言えば、ホンダの『マグナ50』か、スズキの『ストリートマジック』くらいでしょうか。 でも、そう言えば、なぜ買わなかったんでしょう? 費用は、レコードの印税で充分…
[気になる点] 強志、自動車の免許を取るのは何のためでしょう? 未来とドライブに行きたい? それとも、別の理由が有る?
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