恐怖のクラス替え
今年も魔の日がやってきました。
そう、クラス替えだ。
「百合、今年もちゃんと校長を脅してくれたんだよな!? 五人が同じ教室になるって!」
偶然校門で出会った百合の腕を掴んで身を乗り出してしまう。
百合が唇を釣り上げて笑った。
「さぁどうかな」
「な、なんではぐらすんだよ! 百合様、今すぐでもいいから脅してきて!」
「今からじゃ手遅れだろうが」
強志が無慈悲に言い放って俺は息を呑んだ。
「やだやだやだ、強志達がいないと友だちも作れないのに!」
「クラスが離れたら休み時間のたびに通ってやるから心配すんな」
そ、それならいいのかも……。
「って、それじゃダメだ! みんな揃ってないと寂しいよ……!」
なんだかんだいいつつも、百合と強志と俺はクラス分けが発表されてる体育館に着いてしまった。
三年一組から見ていく。全員の名前がない。
二組もだ。
三年三組。
無い。
どんどん心臓が痛くなってくる。
三年四組。
無い。
三年五組
そこには虎太郎の名前が書いてあった。浅見虎太郎だから名前順が早いんだよな。
そして、熊谷美穂子の名前。佐野良太の名前。花沢百合。そして、竜神強志と竜神未来――――!
「やたあああ! また同じクラスだ!」
「私がちゃんと校長に『ゲイクラブに出入りしてると奥さんと娘さんに言っちゃおうかな♡ きゃは♡』と可愛く脅して来たからな」
百合が自分の口元に両手の拳をあて、片足を後ろに曲げて腰をひねりウインクし、ぶりっ子ポーズをきめる。
やっぱり脅していたんだ!
「もー、先に言ってくれよ! 無駄にドキドキしちゃっただろー!」
そして、日向じゃなく、ちゃんと竜神未来と書かれていることに恥ずかしさを感じてしまう。
「脅しているに決まってるだろうが。私たち五人が揃えるのはこの一年しか残っていないんだぞ」
「――――――――」
百合の言葉に息を呑む。
そうだった。俺は看護系の大学に進むし、強志は警察官関係の大学に、百合と虎太郎は誰でも聞いたことがある有名大学へ、そして美穂子は調理関係の学校に――。
皆ばらばらになっちゃう。一緒にお昼ご飯も食べられなくなる。ほんとに最後の一年なんだ。
痛む胸をきゅと握る。一年なんてもっと先の話だ。今から落ち込む必要は無い。それより、同じクラスだったことを喜ばなきゃ!
「未来、今年も同じクラスだったね、よかったよー!!」
駆け寄ってきた美穂子が抱き着いてくる。俺も抱き着き返した。
「うん! すっごく嬉しい!」
「僕も嬉しいよ。ボッチを覚悟してたから」
美穂子と一緒に体育館に入ってきた虎太郎も喜ぶが、今のお前だったらボッチにはならないと思うんだけどな。
「せんぱーい達! 今年も皆お揃いでおめでとうございます!」
達樹が駆け寄ってきた。
「うん、ありがとー」美穂子が笑顔で答える。
「百合のお陰だから感謝しないとな。新しいクラスにいこうよ強志」
あ、皆の前で強志って言っちゃった。ちょっと恥ずかしい。
「初めてっすね、名前呼び。まぁ未来先輩も竜神になったんだから当たり前っちゃー当たり前ですけど」
「未来ー!」
メイちゃんが全力で走ってきて、俺に飛びついてきた。
「うやあ!?」
危うくひっくり返るところを強志が受け止めてくれる。
「メ、メイちゃん何!?」
「今年は同じクラスよ! 嬉しいでしょ? っていうかどうして未来の名前が竜神未来になってるの!? 説明して!」
「あの、その、強志と結婚したから……」」
「結婚!!??」
「ミッキミキー! アタシもまた同じクラス! 一年よろしく!」
「琴音も一緒だったんだ、こっちこそよろしく!」
「結婚指輪見せてヨー」
また謎の中国人を出しながら俺の手を取る。
「う、羨ましい~~~~超ラブラブだったからいつか結婚するのは分かり切ってたけど、まさか学生結婚しちゃうなんて!」
「やっぱり結婚してたの!? 未来に結婚は早すぎるわよ! だって社会にでたらいい男一杯いるのに。まぁ八代目も悪いとは思わないけどさ。でももったいない」
メイちゃんが唇を尖らせる。
「だからさっさと結婚しておきたかったんだよ」
強志があっけらかんと言った。
「強志君の誕生日に結婚するなんてロマンチックだねー。よかったね、未来」
美穂子も喜んでくれた。
「よー、結婚したってマジかー。つか今年もお前と同じクラスだとかびびるわー。12年連続だぞ」
「あ、良太」
今年も同じクラスだった腐れ縁の元親友が間延びした声で言う。
「確かに奇跡だよなー。そして見ろ! この結婚指輪を!」
「お前が結婚ねー、実感わかねえなぁ」
「お前に実感がなくとも未来はオレの嫁だ」
半分敵意みたいな言い方で反論して、強志が俺を抱き寄せた。
「わりぃわりぃ」と、さっさと良太が退散していく。
「何怒ってんだ?」
「お前を取られそうだからって前も言っただろ」
「な、まだそれ言ってんの!? ありえないありえない! 強志だって花ちゃんと結婚したいなんて思わないでしょ!?」
「あいつは兄妹じゃないだろ」
「違うけどさぁ」
恋人と元親友の仲が悪いのはちょっと悲しい。あ、恋人じゃなくて……お、夫、だけど。