皆に結婚の連絡
時間はまだ九時だ。まずはパラゼ部にグループ通話をする。
『どうしたの未来』
『竜神と喧嘩でもしたのか?』
『未来、こんばんは』
『ちーす未来先輩!』
「あの……」
竜神と結婚したんだ。その一言が喉に引っかかってしまい、今更ながら真っ赤になってしまった。
『? どうしたの?』
「あの……そ、その、あ」
強志が俺の後ろから抱きしめるように座り、手からスマホを奪い取ってスピーカーモードにした。
「今日未来と入籍した」
そして短く端的に俺の言いたかったことを言ってのけた。
『『『えええええええ!!???』』』
皆が一斉に驚きの声を上げる。百合以外。
その百合は舌打ちをして言った。
『やはりそうだったか。お前が市役所に入ったと聞いて嫌な予感はしていたが』
「誰から聞いたんだよ。オレの事嗅ぎまわるんじゃねえ」
『それよりも入籍って、入籍ってマジっすか!?』
「マ、マジだよ!」
『よかったね未来! 竜神君となら絶対幸せになれるよ! おめでとう!』
「うん!」
美穂子が本当に喜んでくれて、嬉しくてくすぐったくなってしまった。
『そうだな。とりあえずおめでとうとだけ言ってやる』
百合も含み笑いで言う。な、なんだよそのなにか企んでいそうな声色は!
わたしと強志の仲を引き裂くつもりなのか!? 絶対許さないぞ!
『とうとう結婚しちゃったんすねぇ……』
『結婚おめでとう。結婚式はいつするのかな?』
虎太郎が聞く。け、結婚式!?
そうだよな、結婚したんだから結婚式もやるんだ!
「大学を卒業してからかな」と、強志が答える。
『そんなに遅く?』
「結婚資金を自分で貯めたいんだ」
『メイさんから貰ったお金、使い果たしちゃったのかな? 結構お金遣いが荒いんだね。意外だよ』
「ちげーよ。あれは働いたって気がしねーから手をだしてねえ」
『そっか……』
虎太郎はなぜか残念そうにしながらも、納得はしたようだ。
メイちゃんから貰ったお金を、強志はうちの兄ちゃんに全額振り込もうとしたけど、税金がかかるから、と断られ、結局お金は竜神の手元に残っていた。
詳しくは会った時に、ということで通話を切る。
「オレの貯金が溜まるまで待たせることになるけど……待っててくれるか? 未来」
「うん、もちろんだよ。なんなら一緒に貯金する」
俺もバイトすれば貯金の足しになるだろうしな。なのに、
「いや、それはいい」
とあっさり断られてしまった。
パラゼ部に伝えた後は、学校の友達たちだ。
前のクラスのグループを開いて、ただ一言、竜神と結婚しました。新学期から竜神未来になるからよろしく!と書いて、結婚指輪をはめた手を重ねた写真を送った。
春休みになってほとんど動いてなかったのに、次々に驚きとお祝いのメッセージが届いた。
『うそだああああ』『夢だと言ってくれええええ』という慟哭のメッセージも。
「ほんとだってば」
布団に入って足をバタバタさせてしまう。
「そろそろ寝るぞ。……今日はいいのか?」
「何が?」
「添い寝」
「う……、」
ここは竜神宅で、ひょっとしたらお母さんや花ちゃんに見られるかもしれない。
戸惑ってたんだけど結局強志の布団に入ってしまう。強志が手を恋人つなぎに握ってくれた。
「ん……」
もっと強志に寄って、恋人繋ぎのまま、俺はいつの間にか眠りに落ちていたのだった。
翌朝。ノックも無くドアがバン! と開けられてしまう。
「お早う、お姉ちゃん、お兄ちゃん、え、一緒の布団で寝てるなんて……! まさか」
犯人は花ちゃんだ。
「ん……!? な、なんにもないなんもしてないから! りゅ……じゃない、強志に添い寝してもらってただけだから!」
いまだに繋いだままの手をほどこうとしたけど強志にがっちりと掴まれていたので、自由な右手だけでぶんぶん振る。てか強志、手、離して!
「えー? ほんとにぃ? 初夜なのに?」
くふふ、と意地悪く笑ってくる。初夜って、一緒に暮らしてるからこれが初夜じゃないもん!
「強志起きてくれ! 無実を晴らして!」
「ん……」
実は寝起きが悪い強志は俺の身の潔白をはらしてはくれなかった。それどころか俺の手を握る手にますます力がこもる。
もー、やっぱり添い寝なんかしなければ………………いや、添い寝はしたかったです。そこは認めます。