竜神のご家族に挨拶に!(妹とお風呂)
婚姻届けを出した後、向かったのは竜神宅だった。
もちろん結婚のご挨拶をするために。
正直緊張で足がガクガクしてしまう。
駄目だ俺、頑張れ俺。深呼吸をしよう。
スー。
「おねえちゃーん!!」
「え!」
お母さんが鍵を開けた途端、玄関で待っていたらしい花ちゃんが俺に飛びついてきた。
息をたっぷり吸ってたところだったんで、うぐ、となってしまった。
「未来さんがお姉ちゃんになってくれるなんて嘘みたい! すえながーくお願いしますお姉ちゃん!」
「う、うん、花ちゃんが妹になってくれて凄く嬉しいよ。妹が欲しかったし」
「あ、未来さん口紅塗ってる! どおりでいつもより色気があると思った」
「い、色気? あるかな??」
「うん、素敵! 良く似合ってるよ」
「いらっしゃい未来ちゃん! パパも、パパも嬉しいぞ……! こんな木偶の棒に、未来ちゃんみたいな可愛らしいお嬢さんが嫁いできてくれたなんて」
「自分のことパパって言うのやめて! 気持ち悪い!」
お父さん相手に花ちゃんの辛辣な言葉が飛ぶ。
「お父さんはパパって呼ばれたいんだ!」
お父さんも負けてない。
「おやめなさい宗人! お嫁さんの前でみっともない」
お婆さんが出てきてお父さんを止める。
「さぁお上がりなさいな未来さん。お茶の用意が出来てるわよ」
「は、はい、お邪魔いたしまう」
噛んだ。
ぎくしゃくとしながら応接室のソファーに座らせてもらった。
そこにいたのはお爺さん。お婆さんとお母さんとお父さんと俺と強志と花ちゃん。7人が入っても全然窮屈にならない広い応接間だ。
「未来さん」
「は、はひ!」
噛んだ。
お爺さんと顔を合わせるのは初めてだったから余計緊張してしまう。
昔、泣きながら強志に電話した時、強志が話してた相手がこのお爺さんだったけど、声も聞こえなかったんだよな。
「まずはすまなかったね。うちの強志が麻酔薬など飲んだせいで怖い目に合わせてしまって」
「え」
それいつの話? もうとっくに時効だよ! それにジュースに麻酔薬が入ってるかもしれないなんて想像も出来ないし!
「いえ、結局強志君に助けてもらいましたし、その、八つ当たりして叩いたりして、本当にあの時のことは反省しています」
深く頭を下げる。
強志のグラスには致死量の薬が入ってたから、もしかしたら今、強志はこの世に居なかったかも――!
怖くなって、隣に座る強志の裾をキュ、と握ってしまう。
「こんな孫ですまんが、武道だけは一通り仕込んである。二度と未来さんを危険な目に合わせないから、強志を頼んだよ」
「は、はい! こちらこそ……、何もできないのに、皆さんが大事に育てて来た息子さんと結婚させていただいて……本当に感謝しかありません」
「大事に育てた?」
「千尋の谷に放り込んだ記憶はあるが、大事にした覚えは無いな」
お母さんが不思議そうな顔をし、お父さんがお茶をすすりながら言う。
「男の子なんてそこから這い上がってきて初めて一人前ですものね」
お婆さんまで!
「ねえ未来さん、もう一度聞くけど、本当にお兄ちゃんで良いの? ほんとのほんとの本当に?」
強志の妹の花ちゃんが迫ってくる。
「本当に決まってるよ! むしろ、選んでくれたのが夢みたい!」
結婚指輪をさすりながら答える。
「そう……よかったああ!」
「そうかそうかぁ」
「喜んでくれて嬉しいわぁ!」
一家全員で異口同音に安堵の言葉を吐いた。歓迎されてるみたいで凄く嬉しい!
「じゃあ祝いだな祝い! 寿司でも取るかぁ!」
「でも未来ちゃん、ディナー終えたばかりよ」
「じゃあそうだな、盆に祝うか! 親戚への面通しもしたいからな」
「未来ちゃんみたいな素敵な子をお嫁さんだと紹介できるなんて、お母さん鼻が高いわぁ」
「私も! 未来さんを見せびらかすんだー!」
隣に座っていた花ちゃんが俺の腕に抱き着いてくる。
「あ……れ、花ちゃん、また身長伸びた!?」
「ふふふー160センチになりました! 完全にお姉ちゃんを抜いちゃったぁ」
「ええええ160センチも!? ひどい、ずるい、裏切者ー」
「だから身長は諦めろって。花も170超えるから覚悟しとけ」
「ううう悔しいよー! お姉ちゃんより妹の方が身長高いなんてええ」
俺のそんなやりとりに、皆が笑ってくれた。
竜神家の一員になれたようで、本当に嬉しかった。
「今日は家に泊まっていきなさい」
お婆さんが優しくそう言ってくれた。
「そうね。入籍したおめでたい日ですもの。今日一日ぐらいはここで一泊していって」
続いてお母さんにも言われてしまう。
「で、でもご迷惑じゃありませんか?」
「ぜんぜん。朝食を楽しみにしててね。腕によりをかけて作っちゃう」
「わたしにもお手伝いをさせてください!」
お母さんだけ働かせるなんてできないよ。
「ふふ、今から頑張らなくていいのよ。さぁ、お風呂に入ってきなさい。そろそろ沸くころだから」
と、同時にお風呂が沸いた音楽が鳴った。
「花ー! 今日未来ちゃん泊っていくから服を貸してあげなさい」
「え、泊っていってくれるの!? はーいわかりました、準備しておきます!」
びし、と警官の敬礼をして二階へ駆け上っていく。
「さ、未来さんは先に入っておきなさい」
「で、でも一番風呂でいいんですか?」
お爺さんもお父さんもいるのに。一番風呂って偉い人から入るんじゃないのかな?
「そんなこと気にしなくていいの」
笑われて脱衣所に入れられてしまった。
もちろん着ていた服はたたんで、下着が見えないように服で隠す。
「なるべく早くお風呂からあがらないとな」
ひとりごちてお風呂に入り、髪を洗っていく。
がらりとドアが開いた。
え、誰!?
「わー、お姉ちゃんの体、真っ白できれー!」
裸の花ちゃんが入ってきていた。
「は、は、は、はなちゃ、駄目だよ、その、一緒にお風呂なんて!」
「どうして? 姉妹になったのに。背中洗ってあげるね」
ボディーソープを泡立てて、手でゆっくりと洗ってくれる。
「く、くすぐったい~~~」
「!!! 胸、おっきい! 服着てる時もおっきいけど裸の方がおっきー! どうして!?」
下から胸を持たれて、「うややわわ」みたいな変な声しか出なかった。
「そ、それは、その、胸を潰すブラ付けてて……」
「え、駄目だよ! 形が崩れちゃったらどうするの? ちゃんと自分に合った下着の方がいいと思うけどなぁ」
「それより花ちゃん胸揉まないでー!」
「羨ましいんだもん。私Bしか無いし!」
「え? そうなの?」
もうちょっとありそうに見えるんだけどな
「寄せてあげてるの。毎朝ブラと格闘だよ。すべすべで気持ちいいなー」
裸で後ろから抱き着かれてバクンと心臓がはねた。胸が、裸の胸が背中に当たってる!
「おねえちゃんすっごいドキドキしてるー」
「ドキドキするよ! あ」
花ちゃんの手がその、足の間の……言えない場所に入ろうとして、思わず声が出てしまった。
「そこは駄目!」
「滑っちゃっただけ。ごめんね。って無駄毛が全然ないー。んー気持ちいい触り心地ー!」
ぎゅーと抱き着かれてしまう。
俺はとても耐えられなくなって、残りの部分を速攻で洗い上げて、湯船に逃げた。すぐに花ちゃんも入ってきちゃったけど。
「すごーい未来さんの胸、お風呂に浮いてるー!」
「す、凄いの?」
「むー。これがお兄ちゃんの物だと思うと嫉妬が……」
といいつつまた揉んでくる。
「や、やめてやめて! 竜神とはまだなんもしてないし!」
「え゜、してないの!?」
「してないよ!」
「お兄ちゃんってそんな意気地なしだったんだー、いがーい。兄妹でも知らないことってたくさんあるんだね」
「りゅう……じゃない、強志は我慢強いだけ。心の準備できるのを待っててくれてるの」
「そっか。じゃあ私が付け入る隙もあるかも!」
「わー、ないからやめてやめて」
抱きしめられて、半分お湯に浮かんだせいでお尻を撫でられてしまった。
『花! 未来にちょっかい出すんじゃねえよ』
強志の声が脱衣所の外から聞こえる。
「どうしようかなー」
「あがります、上がるから待ってて!」
「あ、お姉ちゃん!」
速攻で体を拭いて、花ちゃんが用意してくれたであろう新品の下着とスカートタイプのパジャマを着た。
もちろん着ていたワンピースを持って脱衣所を出る。
「はぁ、はぁ、りゅう、呼んでくれてありがとうな」
「なんで息を切らしてるんだよ。ほら、もうちょっとちゃんとふけ」
タオルをパサリと頭に掛けられた。
「それから、りゅうじゃなくて強志な」
「うー」
階段をふたりで登る。
かつての竜神の部屋のドアを開くと、布団が並べて敷いてあった。
「わ、ふかふかー」
布団なんて久しぶり。
「ほら、ドライヤーかけてやるから座れ。乾かさないと風邪ひくぞ」
強志が後ろに回ってドライヤーを掛けてくれる。
気持ちいいー。
「オレと違ってさらさらだな」
「強志は頑固な直毛だよな」
「おう。寝癖がついたら全然とれねえ。風呂の中で花に何かされなかったか?」
「ん、大丈夫」
全然大丈夫じゃなかったけど。
「なぁ、結婚したこと皆に伝えとこうよ。急に竜神未来になったら皆驚くと思うしさ」
「お前がいいならそうしろ」
「ん」