文化祭(クラスメイト視点)
時系列がちょっと前後してしまいました。
文化祭の話のクラスメイト視点です。
私の名前は柳瀬 香。手芸が趣味の、日向未来のクラスメイトだ。
「よし、やっぱり可愛いー超可愛いー! 私やばくない? 凄くない?」
私が一か月かけてデザインして作成したエプロンを未来に着せると、想像以上に可愛くてはしゃいでしまった。スマホで連写する。
もちろんエプロンはピンクのフリフリだ。
「本当だ超すごー、これ香が作ったんでしょ!? 可愛いミキミキ! 強志君も気に入るって絶対!」
塔子もすぐに食いついてきた。
「うんうん、可愛い可愛い。これ手作りなの? 超すげー」「だねー、ただでさえ可愛いのに。さすが未来。わがクラスが認める一軍女子」
ギャル軍団のヒマリも心から称賛してくれた
「可愛い可愛い言うなよー! 恥ずかしいだろ! 確かにこのエプロンは可愛いけどさ……」
未来はちょっとだけうつむいてそっぽ向く頬がほんのりと桜色になった。その仕草もわざとか? と言いたくなるほど可愛い。
「大体一軍ってなんだよ。一軍ならヒマリたちだろ」
「百合美穂子未来に決まってるじゃん。うちらと比べて可愛さのランクが違うもん」
「メイクしたうちらよりすっぴんのアンタらの方が可愛いってほんと喧嘩売ってんの? って感じだしー」
その気持ち、わかる。でも。
「一か月もかけたかいがあったよー。早く強志君に見せてあげようよ」
未来の肩を両手でつかんで押す。ってか肩細! なのに柔らかい、気持ちいい!
「え!」
「呼んだか?」
私たちはカーテンで隠された調理場ブースにいた。
強志君がカーテンをめくって覗く。
うわ。
こっちもカッコいい。黒のエプロンがよく似合っている。
いつもコタロー君が傍にいてコタロー君がカッコいいからカッコいいが麻痺してるんだけど、単体で見ると強志君も充分カッコいいんだよね。ちょっと……てかかなり人相が怖いけど。
「見て見て、凄いでしょ、私が作ったの!」
強志君は未来を見て、
「あぁ、可愛いな。良く似合ってるぞ」
なんと、笑顔で褒めてくれた。
わ、笑顔なんて初めて見た。これは未来が惚れるのも分かるなぁ。
「強志の笑顔可愛いじゃん。いつも笑ってれば怖がられないのに」
「それはそれで怖いだろうが。未来、なんかあったらすぐ逃げろよ。フォローはするから」
ハーフツインテールにしてる未来の頭をぽんぽんして優しい声で言う。
「ん」
強志君を上目遣いで見上げ、嬉しそうに言う姿があざといほど可愛い。
「でも、客が未来ばかり指名しそうで客の回転が遅くなりそうじゃん?」
確かに、この店はお客さんが来た順にそれぞれ接客担当が接客することになっている。
順番さえ待てば未来が接客するのだ。
「じゃあ、入口担当で、接客は他がやるってのはどう?」
「あ、それいいかも」
「じゃあコタローも入口担当だね」
「僕が何?」
今度はコタロー君が入ってきた。うん、今日も超イケメンです。
強志とコタロー君が並ぶと迫力が凄いな。って私さっきから凄いばっかり言ってる気がする。
「ミキミキ準備できたー? のぎゃ、かわいーエロ―いエプロンー! 柳瀬凄い!」
「エ、エロイってなんだよ! ただのエプロンだろ!」
抗議する未来をよそに、入ってきた琴音と握手する。
「おい竜神、客引きに行くぞ。さっさと客を集めたいからな」
今度は百合が入ってきた。
「――未来、そのエプロン、良く似合ってるな。お前のいやらしさが前面に押し出されている」
「百合まで! いやらしさってなんだよ! もー着れなくなっちゃうだろ! せっかく柳瀬が作ってくれたのに!」
未来が抗議するが、百合は静かに笑うばかりだ。そして強志君を連れて調理用ブースから出ていく。
「おい寺戸、こい。チラシを配りにいくぞ」
「え、え、ぼ、ぼくが?」
ちまちまと机を並べていた寺戸君を連れて行ってしまう。
開店はしているんだけどまだ客が一人も来てなかった。
そりゃそうだよね。買ってきたお菓子でキャラを作って出すだけの店だもん。飲み物も普通に自販機で売ってる物だけだし。なのにお値段は200円。
みんな屋台のほうがいいに決まってる。
「寺戸君と強志と百合か……客を呼べる気がしなーい。未来とコタロー、10分待っても客が来なかったら二人も客引きに行ってくれない?」
琴音が言う。
「なにそれ、最強の客引きじゃん」
「でしょ。さっさと売って売り上げで皆でカラオケ行こ! パラゼ部の歌聞いたら歌いたくなっちゃったからさー」
「あ、わかるー!」
パラゼ部の歌は大好きをいっぱい詰め込んだ幸せな恋の歌だった。
ちっとも悲しくないはずなのに感動で泣いてる子まで何人も居た。私もうるっときたぐらい。
彼が欲しくなっちゃった。恋がしたくなる、恋人がいる人はもっと恋人に甘えたくなるような歌だったんだもん。
「ね、ね、これ持ってあれ言ってみて」
琴音がずい、と未来に近づく。そしてお盆を差し出した。
「あれ?」
「『おかえりなさいませ、あなた』!」
「う……」
未来は両手でお盆を抱きしめて、恥ずかしそうに赤くなりながら、というかうっすら涙を浮かべながら、
「お、おかえりなさいませ、あなた!」
とやけくそのように言った。
「かわいー」「恥ずかしがる未来かわいー」
「こんな大勢の前だもん。恥ずかしいに決まってるだろ!」
「コタローは大丈夫なの? 言える? 『おかえり、待ってたよ』」
絶対恥ずかしがると思ってたのに、コタローは笑って、
「『おかえり、待ってたよ』」
と言った。
イケメンオーラに殺されるかと思った。
「緊張しーのコタローがこんな簡単に言えるなんて超意外!」
ヒマリが顔を真っ赤にして言う。
「今、ナンパ男の役のドラマの撮影をしてるんだ。名前は神階 良。その役になりきったつもりでやってるんだよ」
でもやっぱりちょっと恥ずかしかったのか、視線をそらして頬をかく。
「ほえー、コタローがナンパ男なんて想像も付かないなー」
私も琴音に大賛成である。
「虎太郎じゃないみたいで複雑」
未来がなぜか口をとがらせて言う。
未来にそう言われるとなぜかコタローが顔を染めた。
案の定、誰も来ないから未来とコタローが降りて行った。
そしてあっという間にお客さんがさばききれないぐらい大群で上がってきた。
酔っぱらいおっさんが上がってきてもめごともあったけど、それ以後はちゃんと営業できた。
「お、おかえりなさいませ、あなた!」
「おかえりなさいませ!」
ちょっと照れてる未来と笑顔の美穂子の接客がパーフェクトすぎる。
スマイル0円がもったいないぐらい。二人の笑顔にお金を払わせたくなる。
「帰ってきたか、さっさと食って出ていけ」
「こら百合ちゃん! ごめんなさい、おかえりなさいませあなた」
なにがあったのか、たれ目メイクばっちりで別人みたいに優し気な印象になった百合から放たれる言葉にお客さんがドン引きするが、すかさず美穂子がフォローに入った。
「『おかえり、待ってたよ』」
笑顔で言うコタロー君の挨拶に感動で泣き出す女性まででたり、
「『おかえり、待ってたぞ』」
効果的に笑顔を作って怖がられないように接客する強志に、連絡先を聞こうとする色気むんむんなお姉さん達がいたり、
未来のお兄さんがかなりのイケメンだったり。
しかもお医者さんという高スペック!
肉食系女子の西郷さんが連絡先を渡そうとしたけど、「子どもに興味は無い」とあっさりふられていた。西郷さん、顔も悪くないし、ボンキュボンなスタイルなのに。お医者さんともなると選び放題なんだろうなぁ。
「スマホ持ってるんでしょ? レイン交換しない?」
「え、あ、あの、か、彼氏がいますので、」
いかにもチャラい男4人の席で未来が困っている。目が無意識に強志を探していた。
「へーどんな彼氏? 俺たちの方が楽しいよ。遊びに行こうよ」
強志が大股でその席へ向かった。
「俺の彼女を口説くのはやめてください」
「う」「わ、悪かったよ」
眉間に皺を寄せた凄みのある強志の登場に尻込みしてスマホをしまう。
「ご、ごめん竜神」
「なんで謝ってんだ? ああいうのは俺の役目だろ」
ぐ、と未来を引き寄せる。
「ん」
その未来の笑顔といったら。あれは魔性の女といってもいいんじゃないかな。
未来を見慣れているはずのクラスメイトの男子たちやお客さんがゴク、と喉をならした。なぜか一部の女子たちも。
本人にその自覚がないから厄介。
がんばれ強志、と、心の中でエールを送ってしまった。