日本刀
「ドイツ人の巫女さんと友達になったってマジっすか!?」
達樹が俺の席にバンと手をついて言った。
あぁアーデルハイトちゃんのことか。
住んでるのは神社だし、学校が違うから達樹に話す必要もなかったもんな。どこから漏れたんだろ。花ちゃんかな。
「うん」
「おれにも紹介してくださいよ! 先輩たちだけずるいっすよ!」
「いや、竜神も虎太郎も知らないよ。行ったの百合と美穂子とだったもん」
「じゃあ全員で行きましょ、お参りに!」
美穂子がポンと手を叩いた。
「迷惑じゃないかなぁ?」
「じゃあ聞いてみようか?」
美穂子がスマホを取り出して打ち込んだ。返事はすぐに帰ってきた。
「大丈夫だったよ。ついでに神社見学させてくれるって」
「う、じ、神社見学、怖い。呪いの人形とかありそう」
「供養のために預けられてるんだから大丈夫だよ」
「年に数件は人形やぬいぐるみが知らぬうちに家に帰ったりしているそうだがな」
「「こえええええ」」
俺が達樹を、達樹が俺の制服を掴んでガクブルとしてしまう。
「じゃあ、やめとく?」
「う、行きます」
俺も、しばらく会っていないから挨拶に行きたい。
でもお化けが……と考えてたんだけど、パラゼ部の部活動として、竜神も虎太郎もくる事になったから恐怖がちょっと和らいだ。
☆☆――――☆☆
「cぱkf;ん;tご」
「ひさしぶりアーデルちゃん! 急に6人も来てごめんね」
美穂子が手を振る。アーデルハイトちゃんは相変わらず宇宙語だ。
「すっげー美人、あ、あの、連絡先交換しませんか、お願いします!」
達樹はかなり頑張ったけど、アーデルハイトちゃんは嫌がる。というか、俺を背中からだきしめて、顎を頭にのせてイヤイヤと首をふり続ける。
「く……やっぱダメか。もしいつかいいって思ったらお願いします!」
これ以上続くなら俺が止めようとしたところで達樹が諦めた。
神社のマナーにのっとってお参りを済ませる。
「ああ、いらっしゃい、君たちがアーデル君のお友達だね。座禅でも組んでいくかい」
眼が見えないのか、瞼を閉じた神主さんが俺たちに言う。
珍しく嫌がる気配も見せず、百合も「はい」と答えた。
この季節には珍しく、座禅の部屋には風鈴が下げてあった。 棒状の鉄が何本かかかっている。
ちりん、と鳴る音は、無骨な見た目と違って控えめで綺麗だ。
座布団に胡坐をかいて明日の献立なんかをぼーっと考えてしまうと、ぺちん、「いたっ」と打たれてしまった。かなり軽くだけど。
「あだ!」「いた!」達樹と虎太郎も打たれたようだが、達樹が風鈴を指さした。
「あの風鈴なんすか!? 音がすげー気になるんすけど!」
「う、うん、僕もどこかで聞いたみたいで……でも思い出せなくて気になっちゃって」
「おや」
神主さんが驚く。
「珍しい、その年で日本刀を振ったことがあるとは」
「へ?」
「あの風鈴を作ってくれたのは今では少なくなった日本刀の刀匠でね。ほぼ日本刀の行程を経て作られているんだよ。気になるのはそのせいでしょう。ああ、よく見ると男子三人の前には日本刀が揺らいで見えますね」
あ、確かに使った! ソコトラ島の薔薇を倒すために!
「君たちはもう持ち合わせていないようだけど、刀を手にしたことを忘れないでやっておくれ。その刀は君たちを守っているはずだから」
「お、おれ置いてきちまった……ざ、罪悪感が」
「別れの仕方は関係がないよ。これからも君たちが刀を忘れなければ。そしてそこに座ってる女の子」
神主さんが俺を指さした
「美しい巨大な薔薇に守られている。両隣の女の子も一緒にね」
薔薇ってソコトラ島の、あの化け物……守ってくれてるなら化け物なんて言っちゃダメだ。
ちりんと澄んだ音が響く。
「何で……守ってくれてるんだろう……」
「人の尺度で測ってはいけないよ。ほんの些細なことがきっかけだったりする。この世はそんなものだから」
大きな犠牲を出したのにニュースにも何もならなかったあの事件。
悪い夢だったようで話題にすらしなかったのに。
殺したことにはごめんと謝って、守ってくれてありがとう。と礼を言う。
風鈴がちりんと鳴り、薔薇の香りが漂った気がした。