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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十六章 2学期に突入!
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新学期です!

 夏休みが終わりました。


 クラスメイト達に「どこに旅行にいったのー?」とか質問される新学期あるあるな展開を想像してたんだけど。



「ごめん、未来……」


 教室に入った途端、クラスメイトである赤理あかりさんに懺悔され、赤理さんの目に溢れた涙がボロボロ零れて脳内で『たわわばっとわわ』と変な擬音が流れてしまった。


「な、ぁ、何がごめんなの!? 何が起こったの!?」


 お、女の子を泣かせてしまった! え、どして!? 俺、なんかした!? 



「み、みきちゃんが、痴漢に、襲われてたのに、なにも、いえながった、ごめん、ごめん、言わなきゃいけなかったのに、怖くて、言葉がでなぐて、ほんとに、ごめん、ごめん」


 赤理さんがしゃくりあげながら頭を下げてくる。

 え?? うやー?????

 痴漢に襲われてた!? 何の話!?

 ぐるぐる考え、ようやくハッと気が付いた。


 あ、そっか! 虎太郎に助けてもらった時のことか!


「あの時、すぐ、通報できてれば、、、、」


 赤理さんがスカートを握った手を震わせる。いや、その、そんなのなかなか無理だよ。

 当事者である俺さえ警察に連絡することができなかったのに、見てる人が通報するなんてさらに無理だと思う。

 警察に疑われるかもしれないって思っちゃったり、犯人に逆恨みされるかもしれないって怖かったり、いろいろあると思うけど、通報するってだけでも勇気がいるもん。

 


 俺自身、去年の6月ぐらいに、変な男に付きまとわれちゃって怖くてお巡りさんのとこに避難しようと交番の前を通ったんだけど閉店中だったし。あの時の絶望感は半端じゃない。


 無慈悲に掛かる『巡回中』の札。


 後ろから付きまとってくる男に交番に駆け込もうとしてたとばれるのが怖くて、横目で巡回中の札を見ながら通り過ぎ、そのまま近くのスーパーに入ってごまかしたんだけど、交番に寄ったって後ろの男にばれたら殺されるんじゃ無いかと気が気じゃなかった。

 そのスーパーの女性用のトイレは外に繋がる構造だったから、そのままトイレに逃げ込んで外に脱出し事なきを得たけど。


 それとは別の話になるけど、小学校時代に財布を拾って届けた時も巡回中で交番は閉店してた。用があるときに限って誰もいないのはなぜだ。


 通報は万能じゃない。タイムラグ、不在。それだけに留まらずどうにもできないアクシデントがある。

 お巡りさんがすぐに駆け付けてくれるわけじゃないし、自分が交番に行ってもすぐに助けてもらえるわけじゃない。

 三分、五分。どれだけの時間ができるかわからないけど、犯罪者からすれば標的を傷つけるのに十分な時間だ。


 俺一人が傷つけられるならともかく、俺を守ろうとした女の子を傷つける事態になったら自分自身を一生許せなくなるよ。

 足を開き指を突きつけ声を上げる。


「絶対に、女の子が口出しするな! 俺は一人で大丈夫だし、触られても平気だから!! 言わなくて正解だよ! 泣く必要なんかない! 口を出したら次の標的が赤理さんになっちゃうかもしれないだろ! 絶対に声を出しちゃ駄目だ!!! ほんと駄目、絶対駄目、女の子が出しちゃほんと駄目!! 加害者のヘイトを一身に受けることになるから。だいたい、痴漢が刃物を持ってたらどうすんだよ。赤理さんが被害にあっちゃうかもしれないだろ。そんなの絶対に駄目だ! そんなことになるぐらいなら俺が被害にあった方が何倍もまし! 助けられなかったことを罪悪感にするのはやめて。責めないよ」


 言いながら、矛盾を感じてしまった。


 俺には姉も妹も居ないけど、美穂子や花ちゃんが痴漢にあったら絶対怒る。なにがなんでも犯人を警察に突き出そうと頑張る。

 赤理さんが痴漢にあってても、琴音があってても、全力で止めに入る。


 なのに、自分が痴漢にあったときはどうして何も言えなくなるんだろ。

 声を上げるのが怖いって、我慢すれば終わるからって、思ってしまうのはなぜなんだろ。


 言わなきゃいけなかったのに。


「うーーーー!!!」

 赤理さんが唸る。そして椅子を蹴って立ち上がった。


「ばかー! 怖がってたくせに! 声も出せなくなってたくせにいい!! だから助けられなかったのが悔しかったの!! 悲しいの悔しいの情けないの悔しいの悔しいの!!!! ごめん、ごめん、ごめん、ごめん!」


 胸倉を捕まれ、襟に涙が落ちてくる。


「な、なきゃないで(なかないで)あ、あれは、派手な恰好してたから狙われちゃったんだよ! 次はもっと地っ味地味地味のダッサイ恰好で行くから気にしないで!!」


 侍とでっかく書いたシャツはともかく、だっぼだぼのボーイフレンドデニムは可愛かった。だから、狙われてしまったんだ。

 次は割烹着とか給食着とかだっさい恰好で乗ろう。三角頭巾もかぶってな! 


「派手な恰好してたの?」


 泣きじゃくる赤理さんに後ろから抱き着いて、肩に顎を乗せた琴音が聞いてくる。

「う、う、うん」

「どんな恰好?」


「侍って書いたシャツに、ダボダボのデニムです」


 言うと同時に、


「このアホがぁああ」


 叫んだのは琴音じゃない。

 一年生のころ同級生だった岩本が背後から俺の頭に容赦のないチョップを繰り出してきた。

 お前5組だろ!いつの間に2組の教室に入ってきてたんだよ!


「ぺぎゃー」

 頭を押さえて叫ぶ俺に岩本が怒声を張り上げた。


「全然派手じゃない…っつーか、そこらの女子よりド地味なカッコしてどうすんの!? 痴漢に襲われたくないならガッツリメイク、ネイル、髪を染めて挑め!!! 地味な恰好をすれば痴漢を迎撃できるだなんてありえないよ!!!!!」


 えええええええ!?


 そ、そんなもんなの???


 痴漢撃退するのに、地味な恰好しちゃダメなの!?!?


「未来は馬鹿なの??? いや、馬鹿だよね馬鹿なのは知ってるけどあたしの想像以上のお馬鹿ちゃんすぎて話にならんわあああ!!! 今から、痴漢に合いにくいタイプの説明をしてやるから、ちゃんと聞けオルァアア!!!」


「え、はひ?」



 思わず席に着席し、背筋を正してしまう。


「日向未来さん、あなたは強盗です。17歳ぐらいのネイルメイクばっちり電車内にも拘わらず電話して「マジデー」とか言ってる女子と、17歳ぐらいの下向いてうつ向いてる地味な女の子がいたら、どっちを襲いますか?」


 え。

 う。


「通話してる女の子を襲うのは怖いので、うつ向いてる地味な女の子を狙います」


「それがお前や!!!!!! 痴漢が狙うのは痴漢しても声を出せなさそうな大人しそうな子だよ! 弱そうだと思わせる恰好をしちゃだめ!!!」


「で、でも、痴漢の動機って、女が薄着だったからとかだし、ズボンなら狙われないと思ってたんだけど」


「追いはぎだってひったくりだって弱そうなお年寄りや女を狙うでしょ!? 自分より屈強なプロレスラー男相手にひったくる犯罪者なんかいないでしょ!!!! まずは、見た目で自衛するしかないの!!!!! 痴漢相手だってそう。自分が弱そうだと思わせちゃダメ!!! 痴漢したら指を逆ボキしてきそうなぐらい物騒な女だと思わせることが大事なの!!!!!」


 え!?!?!?


「あたし小学校のころ痴漢されたことある。マジでくっそムカついて、爪をギザギザに切って尻を触ってきた男の肉をむしったよ。爪めっちゃ割れたけど、二度と痴漢されなくなった」


 琴音が手をわきわきさせながら言う。


「おはよー」


 入江ヒマリさん、雨竜梨々花さん、毎熊なみさん、新島心海さん、このクラスのギャル軍団四人組が教室に入ってくる。

「あ、リーマーミーコー、痴漢されない極意を未来に教えてやってよ」

 琴音が四人に手を振った。


「変なあだ名で呼ぶなってーのー」

「未来、痴漢にあったの? マジ?」

「うっそ未来なんか一番痴漢に狙われないタイプじゃん」

「きゃって叫ぶだけで男も女も大注目でしょ。絶対誰かが助けるっしょ。痴漢が一番嫌がるのに」



 不思議そうに言うギャル軍団に、琴音が続けた。


「虎太郎が掛けてたみたいなダッサイ眼鏡してダボダボジーンズとシャツ着てたんだって」

 その言葉に。

「「「「はああああああ!?」」」」


 ギャル軍団四人が一斉に声を上げる。

 そして、新学期だからと用務員さんや技術科の先生にまで挨拶に行ってた竜神が戻ってくるまで、延々とお説教をされてしまったのでした……。というか、痴漢されたと竜神にだけは知られたくない俺が竜神が戻ってきたと同時に全力で女子を止めたんだけど!!!!


 俺の中では「痴漢が狙う女=ミニスカートで肌の露出が多い美人」のイメージだったのに、「声を上げられなさそうな地味な格好の女子が狙われる」というのは目から鱗でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ずっっっと待ってました!!
[一言] この子達の人生の続きが見たい
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