竜神のダミーを目指す虎太郎
「竜神君が好きな湖はどこかな?」
虎太郎が竜神に問いかける。
「琵琶湖」
「理由は?」
「日本一でかいから」
「二番目に好きな湖は?」
「摩周湖。理由は世界で二番目に透明度が高い湖だから。いつか見に行きてえ」
「世界で一番透明度が高いバイカル湖は入らないんだ……?」
「あそこは悲惨な歴史があるから観光を楽しめないんだよ」
「……ああ、25万人が凍死したもんね…。じゃあ、一番好きな惑星は?」
「火星」
「一番好きな外洋は?」
「太平洋」
「嫌いなおにぎりは?」
「ない」
「一番好きな料理は―——?」
「ストップ。虎太郎さん、会話をしましょうよ。なんすかその尋問。竜神先輩もガチで答えすぎですって。こんなん受け答えする必要ねーでしょ」
達樹が手のひらを立て虎太郎を止める。
「虎太郎の意図が謎すぎて突っ込めなかったんだよ」
一方的にポンポン質問を繰り返す虎太郎に、俺たち全員が沈黙してしまってた。
「なんのつもりで質問しているんだ。竜神が好きなものを知るのにどんな意味がある」
腕を組み足を組んで問いかける百合に、虎太郎は俺をちらりと見て視線を外し、答えた。
「竜神君に万が一何かあったら、僕が代わりになれるように―——好きなものを把握しておこうと思って」
「えぇ!?」「うわぁ……」「なるほど」「ちょ!?」
美穂子、達樹、百合、俺が悲鳴みたいな声をあげてしまう。
美穂子が目元を押さえ、深く息を吐いて声を絞り出した。
「虎太郎君は、もし竜神君が死んじゃったら髪を黒に染めて短髪にしてSPを目指しそうなメンタルだもんね……。竜神君になりかわって未来を獲るという下心とかじゃなく、ごく自然に竜神君になっちゃうの」
「あぁ……それわかります」
達樹まで同意してしまう。
「オレが死んだ後なら未来に言い寄っても文句は言えねーが、オレの変わりじゃなく、浅見虎太郎として未来の傍にいろよ」
竜神ががしりと虎太郎の頭を掴んで言う。
「……それは無理だ。未来は竜神君が居なくなったら話すことも出来なくなるんだよ。誰かが竜神君の代わりにならないと」
「要するに、竜神に何かあった時のため、竜神強志と全く同じ『好きなもの』と『嫌いなもの』を持ち合わせたにんげんを作ろうとしているのか。未来の面倒さもさることながら、虎太郎も中々にぶち壊れているな。面白い」
「百合ちゃん!」
興味深そうに顔を傾げる百合を美穂子が叱る。
「竜神君に何かあったときは僕は竜人君のダミーになるよ。未来が未来として生きられるように」
言い放った虎太郎に竜神が拳骨を落とした。結構な容赦のなさで。
「バカなこといってんじゃねえ。まずは自分が幸せになることを優先しろ。自分が幸せじゃない人間は他人も幸せにできねえからな……。どうしてこうオレの周りには厄介なのばっか集まってくるんだ。百合といい達樹といい虎太郎といい……」
「おい、私を達樹や虎太郎と同列にするな」
「完全に同列だろうが」
百合が竜神の胸倉をつかむが、竜神の返事はにべもない。
「あの、お話し中のところ失礼しますが」
両手を挙げても揉め合いになりかけた百合と竜神を止める。
「竜神が死んだらそこで終わりになると思うからダミーとかいらないよ。深いこと考えずそのまま見捨ててください」
「「「「「…………!!!!!」」」」」
竜神、虎太郎、達樹、百合、美穂子が一斉に沈黙してしまう。
たっぷり五分も押し黙ってから、
「やっぱり必要なのかな――竜神君のダミー――」
美穂子がまたもや顔を掌で覆って声を絞り出した。
「虎太郎、竜神の好みだけじゃなく仕草もトレースしておけ。未来が竜神だと完全に勘違いできるようにな。身長も10センチ伸ばせ」
「うん。頑張るよ」
「身長って頑張って伸ばせるもんなんすか?」
「未来、オレが死んだ後はオレのことを忘れてくれ。お前がそんなじゃおちおち死ぬこともできねーだろうが」
「おちおち死ぬな!」
絶対忘れられないしな。
最近誤字脱字が多くてすいません。漏れを発見したら教えていただけると助かります!