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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十五章 ようやく夏休みです!
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スープと具を選び、自分だけのカップラーメンを作ろう!

カップメードル体験会です。かの有名なカップヌードルミュージアムとは何の関係もありません。日清さんに通報とかは勘弁してください勘弁してください。

「明日、カップメードル体験会に行かねえ?」


 ノートパソコンで何やら調べていた竜神がそう言った。


「カップメードル体験会?」


 カップメードルとは世界で最初に売り出されたカップラーメンのことだ。


 一番有名って言えるぐらいに知名度が高く、誰もに愛される味と高い品質を誇る日本の宝ともいうべきラーメンである。

 ラーメンの何を体験するの?


「自分で味や具を選んで好きにカップメードルが作れるんだよ。自由館で9月でまでイベントしてるぞ」


「え!? 何それ!!」

 慌てて竜神の横にくっついて座り、ノートパソコンを覗き込む。

 自由館とは季節ごとにいろんなイベントが開かれている、イベント専用のビルだ。

 夏になったら当たり前のようにお化け屋敷が開かれたりもする、俺的には恐怖のビルでもある。


 その館で開かれる夏休み限定イベントの一つに、カップメードル体験会があった。


 竜神の言うとおり、スープと具を自分で選んで世界で一つだけのカップラーメンが作れるという体験会だ。


 スープに選べるのは4種類の味。

 大正義「ノーマル味」、誰もが大好き「シーフード味」、溢れる存在感の「カレー味」、そして忘れちゃいけない「チリトマト味」。


 具はもちろん、コロコロ肉から甘い卵、可愛いヒヨコちゃんがプリントされたナルトまで、その数はなんと10種類以上!!


「面白そう、やってみたい! 行こう行こう」

「じゃあ、二人分、予約取っとくな」

「ちょっと待って、皆にも予定が無いか聞いてみるから」


 すぐさま4人にグループ通話を掛けて確認を取った。

『何味で作ろうかな、楽しみ!』と、美穂子が笑う。『そんなイベントがあったんだ、知らなかったよ』『絶対行きます! 具は何入れよっかなー』達樹は虎太郎の家に入り浸ってるらしく、二人の声がエコーみたいになってる。『行く。予約は頼んだぞ』と百合。


「美穂子と百合と虎太郎と達樹も明日行けるって!」

「………………………………」

「どうしたの?」

「何でもない……。6人分予約とっとくな……」


「?」

 違和感のある沈黙を挟みながらも、竜神は6人分の予約を取ってくれた。



――――☆



 翌日、待ち合わせは虎太郎のタワーマンション近くのバス停となった。

 ここからならバスの乗り換えなく行けるから。


「あ、みほこー! ゆりー!」

「みきー!」「来たか」

 俺達が到着するより早く美穂子がバス停に居た。百合もだ。

「達樹と浅見はまだなんだ」

「うん」

「一番近くに住んでる癖に何をしているんだか」

 百合がタワーマンションを睨み上げる。


「すんません、お待たせしました!」

 と、同時に玄関から出てきた達樹がこちらに向かって走りながら、大声で呼びかけてくる。

 隣には虎太郎(?)らしき男が巴さん(サクラエンターテイメントの社長さん。30代ナイスバディ胸は恐らくHカップ)に首根っこを引っ張られ引き摺られてくる。


「強志、この子を頼んだわ」


 まるで物でも投げるかのよう、虎太郎(?)を竜神に投げつけた。

 いつも虎太郎が着ている服とはまるで違う、ダボダボのシャツとくるぶしまでのブカブカのカーゴパンツ、そしてキャップにサングラス、マスクをつけた、コンビニでも襲いに行くつもりかと言いたくなるような恰好をした男を。


「何かあったんですか?」

「まだ未発表なんだけど、東ジャパンテレビがやってる抱かれたい男ランキングで虎太郎が1位になったのよ」

「えええ! すげー! だから変装しないと駄目なんだ……!」

 って、あれ? 未発表なのに変装?


「違うんだ……、世間の言う「浅見虎太郎」と実際の「僕」がどんどん違うものになってて……本物の僕は弱くてどうしようもない人間なのに、周りの人の中に理想の僕が出来上がってると考えたら……人に見られるのが怖くなって……」


「まったく、弱弱しいったらないわ。裏切られても泣いてもステージに立つメイのタフさを見習いなさい」


「はい……」


 社長さんにお説教され虎太郎が俯く。


 この症状には俺も覚えがある。「本当の自分どこにいった病」だ。


 俺の場合は自分の一人称や言動を変えたら日向未来が消えて無くなるような気がして怖かった。


 虎太郎の場合は本物の自分と偶像の自分との乖離か。


「大丈夫だよ、虎太郎」

 肩をポン、と叩いてやる。


「だって、虎太郎って自分で言うほど弱く無いもん。時々すっごいタチ悪いし。雑誌やポスターで偉そうな顔してるお前もお前の一部だよ! ほんのちょーっとの一部だけど。正確に言うと0.2部ぐらいだけど」

 バイクのマフラーで人間の顔を焼こうとした男だぞ。弱いわけない!


「そ、そうかな……?」


「私もそう思うよ。敵意を向けてこない人相手には穏やかで優し過ぎるのも知ってるけどね。実は私、虎太郎君が出てる雑誌を全部買ってるんだよ」

 美穂子も虎太郎の肩を叩いた。


「か、買ってくれてたんだ……。言ってくれればあげたのに。いつも何冊も送られてくるから」

「いらないよ。お姉ちゃんと妹とお母さんも読んでるもん。お父さんもかっこいいなーって褒めてたぐらいだよ。家族で読んでるんだから、売り上げに貢献しなきゃね」

「み、美穂子さんの……!!?」

 虎太郎がショックを受けたみたいに繰り返し、俯いてなにやらブツブツと呟き始めた。友達の親姉妹に観られていたのが恥ずかしかったようだ。


 固まる虎太郎の首根っこを竜神が引っ掴み、来たバスに無理やり乗せる。


 そしてやってきましたカップメードル体験会!

 まずはカップを渡され、自分だけのオリジナルパッケージを書く所から始まった。


 たくさん並んだ丸テーブルの上には色とりどりのマジックペンが用意されていた。


「な、何を描けばいいんだろう……?」

 いかにもこういうのが苦手そうな虎太郎が、ペンを手に取ることもできずに戸惑う。

「何でもいいんだよ。私はメダ君を描こーっと」

 美穂子はまた目玉のお化けを描くのか。

「おれはノラエモンにします」

 達樹が青色のペンを手にしながら宣言した。


 一番最初に書きあがったのは俺だ。


「じゃーん、未来ちゃんヌードル!」

 意外と綺麗に書きあがった立体的なロゴを皆に向ける。

「わぁ、普通に売ってそう、凄いね未来」

 ふっふっふ。

「私はメダ君ラーメンです」

 美穂子が目玉がドアップになったパッケージをこちらに向けた。怖がりの俺と達樹がすぐに目を逸らす。


 達樹のノラエモンは意外とありそうな感じのパッケージだった。ただ、ノラエモンの背後に「たつきらーめん」と書き文字があったのは余計だ。


「虎太郎さんは?」


 達樹の質問に虎太郎が差し出したカップメードルにはごくごく普通に黒一色で『浅見虎太郎』と書かれた。

「シェアハウスで他の連中に食べられないよう取り置きしてるラーメンっすか……?」

「名前だけって思い切りが良すぎるぞ」

「次回はもうちょっとひねろうね」

「全く、発想が貧困過ぎる」

 達樹、俺、美穂子、百合が続けてダメ出しをしてしまう。けど、百合。

「百合は何を描いたの?」

「無地だ」

 何も書かれてないメードルを見せつけてくる。

「虎太郎以下じゃねーか……」

「シンプルイズベスト。発想の転換だ」

 めんどくさかっただけだろうが!


 竜神は何かを一生懸命描いていたが誰もなにも突っ込まなかった。黒線だけで描かれた何かだった。それが何かは誰にもわからなかったし、百合も聞こうとはしなかった。何だったんだろうアレ。


 6人ともパッケージを書き終わり、カップメードル作成の列に並ぶ。まずは麺だ!


 係りのお姉さんにカップを渡して列を進む。

「ハンドルを回してください。

 優しい声に促され、矢印の向きにハンドルを回す。麺の上に伏せられたカップが円状のラインを周り、見事にポスンとカップの中に麺が落ちた。


「やった!」

 ラインが流れ次のスタッフさんへとカップが流れていく。次はスープだ。


「ノーマル、シーフード、カレー、チリトマト。どのスープにしますか?」

 えーとえーとえーとどうしよう!?

 ノーマルもカレーも美味しい。チリトマト食べた事無いから食べてみたい。でも、一番惹かれるのは……!


「シーフードでお願いします!」


 大好きなのである。


 続いて選べる具で、チーズと海老とコーンをチョイスした。

 虎太郎がチリトマトスープにチーズ、ガーリックと言った攻めたチョイスをしてて隣で驚いてしまう。

 そして竜神がノーマルスープに肉、肉、肉のトッピングをしててまた驚く。味の想像が簡単に出来るチョイスだぞ。普通に売ってるラーメンの方が具沢山じゃないか。なんてひねりのない……。


 カップメードルは流れ、蓋をして、完成!


 出来上がったラーメンを受け取る。

「ありがとうございます!」

 お姉さんからラーメンを受け取り、上階の試食コーナーに進む。持ち帰る事でもできるけど、ここで食べることもできるのだ。


 自分でパッケージまで描いた、いわば、作品だ。持ち帰る派が大半だけど、俺達は食べて帰る派だった。お昼ご飯食べてないし。


 各々カップメードルにお湯を注ぎ、丸テーブルを囲む。

 3分経って完成だ。


「あ、美味しい」

「やっぱうめえ」


 美穂子と達樹が同時に言う。

「何入れたの?」

「私はシーフードにコロコロ肉とチキン」

「おれはカレーにチーズ、コロコロ肉っす」

「え!?」

 お、美味しそう……!!! シーフードに肉って発想はなかったしカレーとチーズは相性ばっちりすぎる!


「一口食べる?」

「食いますか?」

 なんと、美穂子も達樹もラーメンを差し出してくれた。

「いただきます! これも食べていいよ! シーフードにチーズ入り!」

 俺のラーメンもずずいっと押し出す。


 美穂子のも達樹のもめちゃくちゃ美味しかった! 売り出されたら絶対買う!


「私のも食べるか?」

 百合がラーメンを差し出した。ノーマルスープに、肉、卵、ネギ。

「いらない」

 市販されてるラーメンすぎる。

「オレのも食うか?」

「いらない」

 肉だらけラーメンはいらない。


 「ぼ、僕のは……」


「え!? 食べていいの!? やった!」

 まさか虎太郎が言い出してくれるとは思っても無かった。撤回される前に一口いただく。

 あ、美味しい!!! チリソースとチーズ、ガーリックの組み合わせは最強だ!

「これ一番美味しいかも! すごいな虎太郎」

「え!? 私も貰っていい?」

 美穂子が身を乗り出す。

「う、うん、美穂子さんが嫌じゃなければ……」

「欲しいって言ってるんだから嫌なわけないよ。いただきます」


 一口食べた美穂子の評価も絶賛だった。




 たっぷり楽しみ、ビルを出る。と。大きな車が停まっていた。そして、それにもたれかかりつつタバコを吸ってる女の人がいた――って巴さんだ。


 細く煙を吐きだしながら、虎太郎に、「どうだったの?」と聞く。

「え……? 楽しかったです」

 戸惑いながらもそう答える虎太郎に目を閉じる。

「そ」

 と短い返事をし、巴さんが直々に運転する車で繁華街へと送ってくれた。次はどこに行こうかな。ゲーセンかな。定番のカラオケかな。


「ありがとうございます」まずは虎太郎が降り、美穂子、百合と続く。


 竜神が降りようとする寸前に、巴さんが小声で言った。


「未来ちゃん、強志、これからも虎太郎を色んな場所に連れ出してやってね。あの子は人生経験がなさすぎるから」

 じゃあね、と言い残し車が去る。


「虎太郎に眼鏡を外せっていったの、後悔したこともあるんだ」

 ぽつりと、呟く。隣に立つ竜神に言ったわけじゃない。当然ながら、遠くを歩く虎太郎、百合、美穂子、達樹に言ったわけでもない。この距離では声も届かないし。


 前を歩く4人が騒ぐ。虎太郎が何か失言をしたのだろう。虎太郎の頭に百合が拳骨を落とした。


「でも、今考えれば、外せって言って良かった。おせっかいも役に立つことあるんだな」

「おせっかいじゃねーだろ。オレでも外せって言ったよ」

 竜神が俺の頭に手を乗せた。

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