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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十五章 ようやく夏休みです!
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夫婦って凄いよね

 畑のあぜ道を竜神と一緒に歩いていると、俺の携帯に電話が掛かってきた。かーちゃんだった。

「どうしたのかーちゃん」

 二三言葉を交わしただけで電話が切れる。

「何かあったのか?」

 竜神がそう尋ねてきた。


「お義父さんが帰ってきたから戻って来いって」

「そうか。……やべぇ、緊張する……」


 え。


「竜神が緊張するなんて……!!」

 ガチで驚いてしまう。こいつ、恥をかくのも全然平気なメンタルオリハルコンなのに、緊張!!?

「恋人のお父さんに会うのに緊張しない男はいねーだろ」

「そ、そっか……」


――――☆


 んなどと言いながらも、竜神の態度はしっかりとしていた。


「始めまして。未来さんと結婚を前提としたお付き合いをさせていただいております、竜神強志と申します」

 正座した竜神がお父さんに向かって深く頭を下げる。


 お義父さんは身長が170ある母ちゃんよりずっと身長が低くて、小太りで、おまけに頭も禿げていた。お世辞にもかっこいいとは言えない、どこにでも居そうなおっさんだった。

 でも、かーちゃんが選んだ男なだけあって、凄く感じがよかった。


「いやー、この年になってから頼もしい息子と可愛い娘ができるなんて、人生何があるかわからないなぁ。末永くよろしく頼むよ、強志君、未来ちゃん、猛君」


 ペシンと自分の頭を叩いて頭を下げる。

 慌てて俺も正座したままお辞儀をした。


「いやーしっかし、千佳子ちゃんそっくりの別嬪さんだ。町でも噂になってたよ。大和田さんとこに偉い美人が居るって言ってね。まさか未来ちゃんのことだったとは。おっちゃんはてっきり千佳子ちゃんの事だと思ってたんだけど」

「あら。ちゃんと話を聞いてみなさいよ。私のことだから」


 母ちゃんの軽口にお義父さんが笑う。

 ……俺の本当のお父さんもこんな人だったのかな……?


「強志君は大きいねえ。何かスポーツでもしてるの?」

「警察官を目指してますので、柔道と剣道を習っています」

「へー柔道と剣道!? すごいねえ……! あぁ、足を崩していいよ。正座のままじゃ疲れるでしょ。そろそろ晩御飯にしようか。千佳子ちゃん、ご飯出来てる?」

「出来てますよ。未来、手伝って」

「うん!」


 大きなお皿一杯に盛り付けられたお刺身や、箸休めの酢の物、竜神がいるので肉もいるだろうとたっぷりのローストビーフを並べる。

 俺が作った母ちゃんの好物である煮凝りも。


「ん!? この煮凝り美味いな」

 煮凝りを食べたお義父さんがそう褒めてくれた。

「未来が作ってくれたのよ。私の好物だからって一杯練習したのよね」

「う、うん。お、お口にあって良かったデス」

「うんうん。……やっぱり、家族って言うのはいいねえ。うん」

 お義父さんはどうやら泣き上戸らしく、ちょっとしかお酒を呑んでないのに泣き始めた。


「婆ちゃんと爺ちゃんが同時にボケて18の頃から介護に追われて……二人が亡くなると同時に、今度は親が二人ともボケて……、あっという間に60近くなって、一生家族は持てないと覚悟したのに……この年になってこんなに可愛い娘と息子が出来るなんてなぁ……! 生きててよかったよ。ありがとう、千佳子ちゃん……!!」


 壮絶な告白に息を呑んでしまった。

 18歳から60歳近くまで介護の人生を歩んできただなんて辛すぎる。


「お、おとうさん! お父さんが好きな食べ物は何ですか? が、頑張って作りますので教えてください!」


 そう、俺が叫んだんだけど。


「うんうん、ありがとうな未来ちゃん。でも、俺が好きな物は千佳子ちゃんが作ってくれるからいいんだよ」


 ――――――!!!!


 父ちゃん、カッケー!!!!!!!!


 全力で感動してしまった。

 母ちゃん男を見る目がありすぎて怖い。なんなの? そんだけ男を見る目があるのに育てた男がコミュ障兄ちゃんとメンタルゴミ屑の俺ってどういうことなの?


 竜神は食べながらも、母ちゃんとお義父さんに酌をし、料理を配膳する俺の手伝いをしてくれた。ちなみに兄ちゃんは座って食うだけだった。しかもほぼ無言だった。兄ちゃん、コミュ障という重い病気を抱えているのはわかるけど、もうちょっと頑張ろうよ。


 夜も更け、俺と兄ちゃんは2階の部屋に引っ込んだ。

 この家は2階の部屋が一繋ぎになっている。ワンピースだ。

 だだっぴろい部屋に俺の布団、竜神の布団、兄ちゃんの布団が並ぶ。


「猛さん」

 夜も更け、竜神が兄ちゃんを起こす。


「そろそろ猛さんが酌をしてください。呑めないオレが相手だとお義父さんもお義母さんも遠慮してしまいますので」

「ぐー」

 露骨な寝息を立て兄ちゃんが竜神を拒絶する。

「猛さん」

「俺は酔っ払いも酒飲みも嫌いなんだ。酌などしたくない」


 兄ちゃん……。


「未成年の竜神に押し付けるなよ。行くぞ」

 兄ちゃんの首根っこをひっつかみ階段から引きずりおろす。

 酒に溺れたかーちゃんとお義父さんが大喜びで兄ちゃんを迎える。


 俺はその二人を見て少しだけ笑って、竜神の所に戻った。


 りゅー。

 九州の夏は暑い。竜神は首筋が大きく開いたシャツを着ていた。


 首元に指を掛け、背中まで刷り下げる。


 いつも俺を守ってくれる強靭な背筋に、ちゅ、とキスをする。


「――――未来」

 りゅうじん、が、俺の上に伸し掛かってきた。

 大きな影がからだに落ちる。

 怖い。でも、嬉しい――――。

「りゅ――」

 涙目で名前を呼んだ俺の横に竜神が倒れ込んだ。

「りゅう?」

 竜神の上に乗って、胸も股もぷにぷに押し付ける。

 けど、竜神は無言で俺を二つ離れた兄ちゃん用の布団に横たえ、自分の布団に戻って行った。


「りゅー、りゅー」

 ここが嫌なら外に行ってもいいんだよ。

 竜神を呼ぶ俺を竜神は抱え込んで眠ってしまった。


 竜神が俺に愛想をつかさないうちに、竜神の子供が欲しかったのに。母ちゃんとお義父さんみたいな夫婦になりたかったのに……。



――翌朝。


 竜神はまだ眠っていた。

 隣には兄ちゃんも寝てる。

 けど、竜神の肩に手を掛け、ゆっくりと竜神の顔に顔を寄せてしまう。

 りゅうじんとの距離が縮まっていく。


 唇と唇の距離が、あと、3センチ。2センチ――――。


 あと、1センチという距離になって、弾かれたみたいに竜神から離れてしまった。

 わけわかんないけど、ボロボロ涙が零れる。

 ごめん、りゅうじん。

 ぼたぼた流れる涙が竜神の顔に掛かってしまった。


 咄嗟にふき取って竜神から離れる。


 やだ。いやだ。ごめん。意味不明な言葉ばっかり溢れてくる。大好きなのに。母ちゃんとお義父さんみたいな関係には慣れないんだって、心のどこかが諦めていた。

なんでや

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