早苗宅
「……待ってたよ、いらっしゃい。だけど後ろの子達は……?」
「俺のクラスメイト達です。こんなに大勢ですいません。おばさんがいるだけの友達を連れてきなさいっていってくれたんで、お言葉に甘えてしまいました」
「あれが、そんなことを?」
聞いていなかったのだろうか、おじさんは怪訝に眉根を寄せた。行き違いがあったのかな?
「まぁいい。入りなさい」
「お邪魔しまーす」
後ろの連中は会釈はあれども遠慮はない。おじさんの動揺もお構い無しに俺について中へ入ってくる。
早苗ちゃんの家は、外観も綺麗だったが中身はそれ以上に綺麗だった。あちこちに絵が飾られ、柔かい絨毯が敷き詰めてある。我が家の軋む廊下とはえらい違いだ。
「すっげー、綺麗ですねー」
「壷とかひょっとして骨董品なのかな」
わいわいがやがやしながら、応接室へ通された。
「ここも豪華っすねぇ。畳敷きの俺ん家と偉い違いだ」
達樹が応接室を見渡して、飾りの西洋の鎧にしきりに感心した。女の子達は剥製の鹿の首が今にも動き出すとでもいうのか、びくびくしながら「ちょっと可哀相」なんて呟いている。
俺はおじさんの正面に、後の連中は俺の横やら一人がけのソファやらおじさんの横に思い思いに腰掛ける。
「男性から女性の体に入って違和感はないかい?」
「ありまくりです。俺は可愛い彼女が欲しいのに、そこにいる達樹のバカとかに付きまとわれて迷惑してますし」
「ひでぇ。俺だけじゃねえっすよ。浅見先輩なんか、大人しい顔してるだけで心ではどんないやらしい妄想を繰り広げているか」
「広げてないよ! 達樹君と一緒にしないで欲しいな」
例によって茹るほど真赤になる浅見。
「えー、未来ったら彼女が欲しかったの? 周りが男の子ばっかりだから、彼氏を捜してるんだとばっかり思ってたのに」
「ほんっきで怒るぞ美穂子」
おじさんが、くくと騒ぎ立てる連中に笑った。
「飲み物を準備しないとな」
おじさんが部屋を出ていく。
「ごめん、誰かドアを開けてくれるかな」
ドアの向うからおじさんの声がして、一番近くにいた花沢がドアを開いた。
「おまたせ」
お盆の上のグラスには、美味しそうなジュースが満たしてあった。
「では、乾杯」
「カンパ――――イ!!」
ちん、とグラスを打ち合わせ、喉が渇いてたんで一気に飲み干した。
「うわ、うめえジュース」
「美味しいねー」
達樹と美穂子が笑った。
そこで、意識が途切れた。