未来、ステージデビューする(前編)
『ねぇ、未来……、今日のコンサートでステージに上がって欲しいんだけど、ダメ?』
メイちゃんからの連絡に、俺は声を裏返して叫んだ。
「メイちゃんのステージに上がれるの!? すっげー嬉しいよ! でも、ほんっと上がり症だから変なことしたらごめんな!」
『い、いいわよ! 失敗しても誰も怒らないから! アタシの親友が出るってツイッチャーでも宣伝してるし素人だってみんなわかってるから、変なことしても大丈夫!』
「メイちゃんの親友として舞台に上がれるなんて嬉しい……!!! 楽しみだよ……!!!!」
テンション上げて買ったばかりのスマホに叫ぶ。
でもでも、通話を切ると同時に、手も足もぶるぶる震えあがっていた。
「大丈夫なのか? 未来……」
「大丈夫じゃねーよおおお! 怖い怖い怖い怖い怖ぃぃぃぃ! でも、でも、メイちゃんに嫌がらせするために穴を開けたような奴に復讐してやりたい!! やってやる!! ばっちりやり遂げて見せる!!!」
「そうか」
「でも怖いからちゃんと見てて竜神!!」
「おう、任せろ」
竜神にぎゅうぎゅうに抱き着いて叫ぶ。
事の始まりは、数時間前に巴さんから貰ったらメッセージからだった。
『メイの友達が裏切ったの。未来ちゃんにお願いがあるんだけど』
そんな短いメッセージ。
どういうことかわからなくて折り返し連絡を繋ぐと、俺なんかでは想像も付かないぐらい暗い世界が目の前に広がった。
メイちゃんには小学校時代から仲良くしてる女子がいた。今回のコンサートで、その女子が主役ともいえるパフォーマンスを予定していたんだ。だけどその女子は、出場ぎりぎりで、
「メイのことは大っ嫌いだった」と、ツイッチャーで言い放ち、メイちゃんをあざ笑ってパフォーマンスには出ないと言い切ってしまった。
そんなのってない。
情けないけど、俺、ほんっきで泣いてしまった。
友達――しかも親友と思ってた相手にギリギリで裏切られるなんて、これ以上に辛いことは無い。親友に裏切られるのは恋人に裏切られるより、絶対に辛い。竜神に裏切られるのは辛いけど、竜神にはダメなとこばかり見せてるから裏切られても「やっぱそうか」って思っちゃう所がある。でも、でも、美穂子や百合に裏切られたら本気で辛い!!!!
ぐずぐず泣いてる俺に巴さんがまた連絡をくれた。
この友達の代わりに、俺がメイちゃんのステージに立ってほしいって。
そんなの無理だ!
俺、俺、本気で怖い。
メイちゃんが歌うステージは10000人を超える巨大な場所だもん。
10000人に注目されるなんて考えられない。想像するだけでも泣きわめいて逃げたい。
でも。
メイちゃんが侮辱されているのに、逃げ出すなんて嫌だ。
メイちゃんは俺が大好きな歌手だ。それだけじゃない。知り合いになってからは色々と面倒くさいけど俺の事を大事に考えてくれる友達でもあった。
侮辱されたのが許せない。
友達を助けたい、でも、怖い。大切な舞台を滅茶苦茶にしてしまうかもしれない。
ぶるぶる震えながら、巴さんに言った。
「怖いです、絶対にいっぱい、いっぱい失敗します」
『失敗していいのよ。むしろ思いっきり失敗しなさい。その分メイが引き立つから』
巴さんから帰ってきたのはごくごく簡単な一言だった。
そっか、俺は所詮素人だから失敗すればメイちゃんが引き立つんだ。
うん、なら、どれだけでも失敗していいんだ!
でもでもやっぱり、メイちゃんに恥をかかせようとした偽親友に負けたく無い。
もとサッカー部レギュラーとしての意地が蘇る。
「思いっきり失敗しますけど、絶対失敗しません。メイちゃんに恥をかかせたくないです。絶対に、成功させてみせます!!」
矛盾する俺の言葉に、巴さんが笑う。
『わかったわ。リハーサルするから早くこっちにきなさいな。予定してたメイの友達なんかより未来ちゃんの方がよっぽど可愛から宣伝効果はばっちりね』
含み笑いと共に通信が途切れた。
宣伝とかどうでもいい! 絶対に、勝ってやる!!(何に?)
竜神と一緒にメイちゃんの楽屋に行く。
楽屋に入ると、メイちゃんは俺の顔を見ようともしないまま、小さく言葉を漏らした。
「未来、ごめ――」
普段の尊大な様子からは考えられないぐらいに落ち込んる。
「絶対絶対絶対絶対、完璧な舞台にするから!! 親友のメイちゃんのために!!!」
ドン! と、背中に書き文字が浮くぐらいに叫ぶ。絶対絶対、成功させてみせる!のだ!