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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十五章 ようやく夏休みです!
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ボウリングで遊ぼう(後編)

「百合と竜神の分も買ってきてやるよ。何が食べたい?」

「未来のお任せでいい」

「オレも」

「りょうかい!」

 びしっと警察官の敬礼の挨拶をして、自販機に向かった達樹、美穂子、虎太郎の背を追う。


「自動販売機でアイスが買えるんだね」

 虎太郎が珍しそうに自販機に並ぶアイスクリームの写真を眺める。


「私も初めて見たな」

 あれ、百合、いつの間に。


 百合が選んだのは『スイーツ☆スイーツ ストロベリーとピーチたっぷり 女の子のためのジュエリーアイス』というド派手なパッケージのアイスだった。


 珍しいな、と思いつつ、竜神の分を買おうとすると「私が買う」と百合がお金を投入した。

 買ったのはガトーショコラだ。うん、確かに竜神の好きなアイスだ。


 レーンに戻り、百合が竜神にアイスを手渡す。

「買ってきてやったぞ」

 渡したアイスは『スイーツ☆スイーツ ストロベリーとピーチたっぷり 女の子のためのジュエリーアイス』だった。

 そんな気はしてたよ。


「これはお前が食え。ビターチョコの方がいい」

「黙って食え。画像を取って拡散してくれる」

 図体のでかい二人が小学生のように揉み合う。


 竜神と百合の喧嘩を止める妥協案として、俺のクッキーアイスとスイーツ☆スイーツを交換にすることになったのだった。


 あ、甘いぞ……スイーツ☆スイーツ……!


「あー、あの子スイーツ☆スイーツ食べてる! 可愛い子って食べるものも可愛いんだね」

「あはは、ほんとだ。目の保養」

「あたしらもカラシチョコアイス食ってる場合じゃないね。見習わないと」


 綺麗なお姉さん三人組が笑いながら後ろを通っていく。

 誤解です。わたしは普通に地味なチョコチップが好きです。


 チロチロ舐めて食べる俺とは違い、さっさと噛みついて食べちゃう百合が席を立つ。

 どこに行くんだろ? 一瞬だけ疑問には思ったが、特に質問はしなかった。


 丁度食べ終わるころに戻ってくる。


「ジュークボックスで曲を選んできた」

「えー! 珍しい、何の曲?」


 カラオケで百合が好んで歌う曲は少し古めのバラード曲だ、ちなみに超上手い。


 かかっていたアイドルグループの曲が終わり――流れてきたのは運動会でおなじみの曲、『クシコス・ポスト』だった。


 力強いトランペットの『テテテーン、テテテーン、テテテテテン!』に徒競走の前の緊張感が体に走る。


「うわああ焦る!!」

「あああ、心なしか他のレーンの皆様までボールを投げるのが早くなって!」

「全体心理攻撃を加える曲を入れるのはやめろ」


 周りまで巻き込みつつ楽しみつくした勝負の行方は――。


 僅差で、百合、美穂子、達樹グループの勝利となった。

 負けたチームへの罰ゲームを決める話し合いが始まり、達樹は晩飯を奢りだとか、百合は温泉旅行へ招待しろだとか、お金がかかりまくる提案をしたんだけど、さすがにそれはきつい。


「じゃあ、みんなで初ボウリング記念のプリクラ取ろうよ! お金は負けたチームもち」


 美穂子がごくごく普通の提案をしてきた。それなら高くても1人2百円もいかない。

 相変わらず気遣いできる女子! と、感動したのだが。


「左側に私と百合ちゃんと達樹君、右側に竜神君と虎太郎君と未来で。負けたチームの上には敗者って落書きするから」

「み、美穂子様、結構厳しい」


 ぐうう、プリクラとは言え負けた記憶が刻まれるとなると悔しい……!


 数百円で収まったのはいいとして、なぜか追加の罰ゲームとして俺が美穂子のほっぺにチューしてるプリまで撮ることになってしまった……!!

 火が上がるんじゃないか? って竜神に心配されるぐらいにガチで真っ赤になって、恐る恐ると美穂子の頬にキスをする。


 り、りゅじん(竜神)にした時より恥ずかしかったかもしれない。みんなの前だし。

 めっちゃ柔らかかった。ぽにょんってした。竜神と全然感触違った。マシュマロだった。


「次は私の頬にキスだな」

 百合がそう迫ってきたけど「無理です無理ですこれ以上無理!! 特に百合とか絶対無理!!!」と悲鳴を上げて竜神の後ろに逃げ込んだ。


「なぜ美穂子が良くて私は駄目なんだ!」

 カカっと背後に雷が落ちる勢いで百合が叫ぶ。

「自分の胸に手を当てて聞いてみろ」

 百合は竜神に言われるがまま自分の胸に掌を当て数秒考えこみ――。

「わからん!!!」

 またも背後に雷を走らせた。

 わからないのかーそっかー。一生百合のほっぺにチューなんて出来ないな。怖いから。


 竜神の背中に腕と額を付けてブルブル涙目で震える俺を引っ張り出す気にはなれなかったらしく、百合は意外にも大人しく引き下がってくれた。


 この機種はシールが一枚一枚小さいけど、数が一杯ある。6人で分けようとハサミを入れようとした達樹に食ってかかる。

「待って、チュープリは全部回収する! 切り分けるな!」

「いやっすー。おれにもください。下敷きに貼っときますー」

「絶対やめて!!」


 抵抗するものの、シールは均等に分けられてしまった。

 こいつが腕を伸ばしてシールを切ると、ぜんっぜん届かないことに愕然としてしまった。

 年下で、チビな印象があった後輩だったはずなのに。いつの間にこんな、差が!


 け、携帯にも画像を取り込むし、抵抗しても無駄だっていうのは判ってるんだけど恥ずかしい……!!!


「大丈夫っすよ、他の男の見える場所に貼ったりしませんから」

 達樹が笑って切り分けたシールを全員に配った。

 ……それもそうか。

 こいつ、俺とか美穂子とか百合が他の男から見られるの嫌がるしな。


 いろいろあったけど、楽しい一日だったな。充実してた。

 ポテポテと走りシールを手に竜神の隣に並ぶ。


 前を歩く、百合、美穂子、虎太郎、達樹を見て、口から自然と声が漏れた。


「6人で遊んでる時が一番楽しいな」


 ごくごく小声で呟いたのに、美穂子が笑って「私もだよー」と答えてくれた。

「ぼ、僕も、楽しいです……」「おれもっすよ!」「私もだ」

 虎太郎、達樹、百合が続く。


「……」


 お祭り前に、竜神のお母さんとおばあさんに進路を聞かれた時、少しだけ実感したんだ。

 6人で遊べる時間なんて、たぶん、すぐに終わっちゃう。

 良太と美羽ちゃんと遊んでいた中学校時代が簡単に崩れ去ったように。


 高校を卒業すれば進路が別れ、それぞれの進学先で友達を作っていく。

 誰かが号令を掛ければ6人が集まることはあるだろうけど、今みたいに自然に集まって遊びに行くなんて機会は絶対に減る。


 考えてもしょうがないはずなのに、気持ちが沈んだ。


 俺が今体験してるのは、高校時代だけの、ほんの一握りの輝きだ。

 どうして今が永遠じゃないんだろう。


「未来、どうした?」

 竜神に呼びかけられ、は、と、意識が引き戻された。


「え、あ、なんでもないよ……」

「……そうか?」

 通行人が見ても違和感のない程度にそっと引き寄せられ、竜神の匂いが近くなる。

 竜神を好きになる前から大好きだった竜神の匂い。

 少し嗅ぐだけでも体が蕩けるぐらいの安心する香り。


 夏の長い陽が落ち、秒刻みで暗闇が満ちていく。


 晩御飯をファミレスで食べようとみんなが楽し気に足を進める。

 こんな時間がずっとずっと続けばいいのになぁ……。











 と、それはさておきですが!


 後日、滑り台の事を調べてみたら、園児向けのアイテムでした。園児向けのアイテムでした!!!!

 もうね、ガチで泣いた。



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