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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十五章 ようやく夏休みです!
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おっさんから見る、高校生達。

 俺の名は服部忍。STKである。この前口上も二回目である。


 だが今はかつてのSTKストーカーではない。正式に日本探偵事務所に採用された(というか百合様に雇用された)正式なストーカーだ!!


 そう。前回の事件の後、百合様から能力を認められ日本探偵事務所にスカウトされたのだ。百合様に提示された給料の額は当時務めていた会社よりも1.5倍ほど高かった。ボーナスは倍率ドンだった。ありがたや。ありがたや。


 人生何がきっかけで転換するかわからないものだ、としみじみ噛み締めてしまう。


 今日は百合様の命令で、お祭りを楽しむ百合様、美穂子ちゃん、そして未来ちゃんの写真を撮りまくっていた。

 もちろん男子はほぼ見切れている。あんなもん写す価値無しである。


 未来ちゃんがバカヅラシリーズのヒヨコのお面を買った瞬間、女子がお面屋に集まってあっという間にバカヅラヒヨコが売れまくった。

 未来ちゃん以下六人が箸巻きを食べながらダラダラと道を歩いていた。それだけで箸巻き屋台に人が集中した。

 ヨーヨー屋で6人が遊んでいた。それだけでヨーヨー屋に人が集中した。

 無料で遊んだ射的屋にも人が集中した。


 未来ちゃんにサービスした屋台は物の見事に『損して徳取れ』で利益を伸ばしていた。


 ちなみに大人数でバカヅラヒヨコを付けた小学生女子の集団が微笑ましかった。

 こっそり撮影したので後で百合様経由で未来ちゃんに写真を渡そうと思う。

 きっと喜んでくれるはずだ。


 あと20分で打ち上げ花火が上がる。

 竜神が百合様に目くばせをした。

 百合様は右腕ともいえる秘書の冬月冬子に連絡を入れ――冬子はすぐにお祭り会場へとベンツで駆けつけた。


 どこに行くのかもわからず困惑する未来ちゃん達を乗せ、ベンツが走り出す。


 そして俺はベンツをバイクで追った。

 たどり着いたのはさびれた公園だった。周辺には民家も少なく、ツタが絡んだ空き家が目立つ。


 だけど、やたらと空が開けていた。


 ドン。パラパラパラ。


 一発目の花火が空に輝く。

 まるで、頭上に降りかかって来そうなほどに大きく花開いた。


「――――」


 バンバンバンバンバン!


 大輪の花火がいくつも夜空に咲き乱れる。

 手を伸ばせば届きそうだった。

 未来ちゃんが恐る恐る手を伸ばして、「すごい……」と声を漏らした。


 未来ちゃんのうなじが眼に焼き付く。

 処女雪よりも白い肌に包まれた細い首。首にしな垂れた数筋の髪。背中まで見えそうな襟足――――。


 花火に見惚れている未来ちゃんのうなじに、竜神がラムネの瓶をぴとりとくっつけた。 車に乗る前に買ってたラムネだ。温くならない様にとビニールに氷まで入れて貰っていた。竜神はラムネ屋さんとちょっと話しただけなのにたっぷりの氷を融通してもらってた。こいつのコミュ力はほんと異常だ。見た目は殺人鬼を狩る殺人鬼の癖に。


「きゃぁ!?」


 首筋に充てられた冷たいラムネに、未来ちゃんが飛び上がって叫ぶ。

 悲鳴が可愛すぎて思わず前かがみになってしまった。股間で暴走しそうなアレ的なアレを押さえつける。


 おのれ未来ちゃんの色気丸出しのうなじに何をしてくれる……!

 くっそ羨ましい俺も高校時代に女子のうなじにラムネ押し付けてキャア、とか言わせてみたかったぞこの野郎。竜神強志死ねばいい。


 ここで俺が愛読するラノベ女子(およびジャンプマガジン系女子)ならば真っ赤になって竜神にビンタしたり顔面を殴ったりしたところだろうけど、未来ちゃんは違った。


「この――負けるもんか!!!」


 顔を真っ赤にして、竜神からラムネを奪い取って竜神の首元にラムネを押し付けた。

 キャア、と叫んでしまったことが恥ずかしかったようだ。

 竜神は悲鳴を上げることもなく、ただただ首元に抱き着いてきて未来ちゃんに押し付けられるラムネの冷たさを楽しんでいる。

 むしろ自分が持ってるラムネを未来ちゃんのほっぺたに押し付けてお互いにニコニコしている始末である。なんだこれ。


 ドン、ドン、と花火が上がる。街灯も無い真っ暗の公園に光が舞い散る。




 竜神が手にしていたラムネは6本。

 百合様美穂子ちゃん、達樹浅見に配られた。


「これ、どうやって開ければいいのかな」


 ラムネの開け方が分からない浅見が達樹に問いかける。

 達樹はイラっとした顔をしながらも浅見にラムネの開け方を指南する。


 美穂子ちゃんは簡単ラムネを開け、一口呑んで、百合様の肩に額を付けた。

「凄いね。頭上に降りかかってきそう」

 打ち上げ花火を見上げながら瞳を閉じる。


 高校生達の柔らかな時間がただただ過ぎ去っていくのを見ているだけしかできない、俺の目尻に少しだけ涙が浮いた。


 こ、こんな青春を送りたかったとか思ってないんだからね! ……ってか、みてるだけでも結構楽しいってこともあるんだな。


 おっさんとしてはほんと全員が幸せになってほしいと思っちまったわ。そういう考えになっちまう自分も恥ずかしいけどな。俺も年取ったなぁ。丸くなったなぁ。

 全員がゆっくりと成長していけばいい。


 カメラを構え、六人全員が写り込む構図でシャッターを切る。


 未来ちゃん、美穂子ちゃん、百合様はもちろん可愛い。

 だけどクソほど可愛くないはずの竜神、浅見、達樹にも、部活の後輩を見ているような心持ちで、まぁ、頑張れ。と応援することが出来た。


 俺ってほんとおっさんになったな!と痛感したのは言うまでもない。

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