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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十五章 ようやく夏休みです!
167/239

夏祭り(酔っ払いは厄介です!)

 お仕置き、お仕置き、お仕置き、と美穂子にお尻を三連発で叩かれる。

 ぺ、ペロペロチュッチュってそんなに怒られる事なの!?

 30本も無料で貰えるのに!?


 ……理不尽である。


 なんとか一人で買い物を続ける許可をいただけたものの、初めての子供のお使いを見守る夫婦さながらに竜神と美穂子が監視に付いてきてしまったのだった。


 ちょっとお似合いなのが悔しい……。


 気を取り直して、続いて向かうは「はしまき」の屋台。……はしまきってなに?

 暖簾だけ見て意味も分からず屋台の前に立ってしまう。


「わぁ、こんなの初めて見た……! 美味しそう、えと、えと」

 一本200円。残金を見ようと財布を取り出すより早く、屋台のお兄さんがいった。


「お嬢ちゃん可愛いねー! 目の保養だわ。もってけドロボー10本くれてやる」

「うゃあああありかとうございます」

 どさどさと箸巻きをいただいてしまう。


「こっちにもおいで、どれでも一つ好きなのをあげるよ。どれがいい? キティちゃんが似合うかな?」


 続けざまに隣のお面屋のおじさんに呼ばれてしまった。


 俺の顔の横にキティちゃんやリマックマちゃんを合わせる。正直、お面に興味は無いので返事に困っていたのだが――。みつけてしまった。

 俺が愛するバカヅラシリースのヒヨコちゃんを!!!

 人気が無いのか、足元に近い場所にぽつんと展示されていた。なのになぜか俺の身長ほどにバックヤード(?)に在庫が積み上げられてる。


「バカヅラシリーズのヒヨコちゃんください!!」


「え? あ?これ? 無理やり押し付けられて困ってたんだけど……ほんとにこれでいいの?」

「はい! これ大好きなんですこの世で一番可愛いキャラクターです!」

「珍しい感性の女の子だねぇ」と苦笑しながらも俺の頭にバカヅラヒヨコをつけてくれた。

 俺が手にしたのは約20人分の食料と、お面。

 だけど、使った金額は800円程度だった。






「男ってちょろい……!!」


 頭の横にお面をして、両手に沢山食べ物を抱えズザーっと戻ってきた俺に達樹が顔を渋くした。


「あらー。未来先輩が妙な学習してきちゃいましたよ」

「すぐ調子に乗って」

 テーブルに片肘をついた百合まで呆れた声を出す。


「だって一杯サービスして貰っちゃったんだもん!」


 どざざざ、と紙のタッパーやら包みをテーブルに積み上げる。ざっと見積もっても20人前はある。


「足の一つでも出せばもっとサービスしてもらえますよ」

「あし……」


 達樹に言われるがまま、サッカーボールを蹴るみたいにちょっとだけ足を持ちあげてみる。

「そうじゃねーよ! 足出すっつったらポーズはこうでしょ? どうしてあんたは肝心なトコで面白いんだよ!」


 達樹が親指を口元にやり、足を曲げて太ももまで浴衣から出した「アーン(深夜番組のSEで)」のポーズを取る。

「で、できるわけねーだろ! 恥ずかしいもん!」

「えー。いっぺんぐらいやってくださいよー。見たいっす」

「「達樹」」


「すんません!」


 竜神と百合に同時に名前を呼ばれ達樹が直角に頭を下げる。


 テーブルの上に包みを開いていくと、虎太郎がとある品を興味津々に手に取った。

「お好み焼きが箸に巻かれてる……」


 そう、それが、はしまきだ!

 割り箸にくるりとお好み焼きが巻かれているのだ。


「箸巻きって言うんだよ! 10本もタダで貰っちゃった」

「食べやすくていいな。一ついただこう」

 珍しくも百合までも興味を示した。

「食べて食べてー! たこ焼きもあるよ。焼きもろこしも! それと……」


 とっておきの逸品を取り出す。


「見て見て、ステーキ焼きをおまけに貰っちゃったんだよ! 食べたい人ー」

 なんと、イカ焼きを買ったらおまけにステーキ焼きを貰っちゃったのだ!


「はい!!!」

 達樹が勢いよく手を上げた。


「お手!」

「わん!!」

 バッと差し出した手に達樹の掌が乗る。

「おまわり!」

 続いて命令する。達樹はその場で「わん!」と立ち上がりくるりと一回転した。


「よし、良く出来ました。ご褒美だ」

 ステーキ焼きを手渡す。

「ありがとうございます!!」


 ふっふ、達樹に勝った。最近……でもないけど、達樹には偉そうな態度を取られてばかりだったからな。たまには俺が先輩だと分からせないと。


「達樹、一口くれ」

「え、一口だけっすよ」

 達樹が竜神に肉を差し出す。

 ぎゃー半分も食われたあああ!! とか叫び声が続いたようだがもはやどうでもいい。


 小腹を満たした後は屋台で思う存分遊ぶのだ!


――――☆


「何しよっか。虎太郎君、なにかやりたいのある?」

「えと……」

 美穂子に問いかけられた虎太郎が、人混みの頭の上からあちこちを見渡して「ヨーヨー釣りやってみたいかな……」と呟いた。


 丁度良く、ヨーヨー釣りにお客さんはいなかった。

「お願いしまーす」

 六人でしゃがんでお金を払う。

「お、おう、どうぞ」

 奥に座っていたおじさんが金具のついたこよりをくれる。ヨーヨー釣りの定番の道具だ。

「紙を水につけるなよ。切れるからな」

「うん」

 竜神にアドバイスを貰いながらも、虎太郎はあっさりとこよりを切ってしまった。

「あ、切れた……」

「そりゃ水の中に入れてウロウロしてりゃ切れますよ。不器用にもほどがありますね」

「もう一度お願いします」

 虎太郎がおじさんにお金を渡そうとする。


「失敗しても一つはサービスしてんだ。どれがいい?」

「え……」

 虎太郎はしばし戸惑ったものの、

「自分で取りたいのでもう一度お願いします」とお金をおじさんに渡した。

「こっちとしちゃ儲かるからありがたいが……」おじさんもまた戸惑って虎太郎にこよりを渡した。


「やった、取れた!」

 美穂子が見事に黄色の金魚柄のヨーヨーを吊り上げる。

「おお、お嬢ちゃん上手だねえ。そっちのお嬢ちゃんはどうだ?」

「うやぁ、切れたぁ……!」

 ピンクのを狙ってたんだけど、ゴムが下過ぎて持ち上げてる最中にこよりが切れてしまった。

「はは、残念だったな。ピンクのヨーヨーサービスだ」

「ありがとうございます」


「竜神、勝負だ」

「あぁ」

 並んで座っていた百合と竜神がこよりを構えた。


「あ、また切れた……。もう一回お願いします」

 虎太郎の失敗はかれこれ4回目だ。

「いや……その、さすがになぁ。タダでいいよ。ほら」

「え、あ、ありがとうございます」

「頑張って虎太郎君」

「いい加減釣ってくださいよー」

 いつの間にか釣ってたらしい達樹が左手で深緑の、右手で青色のヨーヨーを跳ねさせながら挑発する。

 お客さんが増えてきたので俺、美穂子、達樹は後ろに立った。


「う……、やった、吊れた……!」

 4度目の正直だ。やっと虎太郎が黒のヨーヨーを吊り上げた。

「おう、おめでとうさん! ――ってそっちのお兄ちゃんとお姉ちゃんはもう勘弁してくれ! 店がつぶれちまうよ!!」


 いつのまにかバケツに山盛りヨーヨーを詰んでいた竜神と百合におじさんが逆毛を立てて叫ぶ。


 まるで運動会の玉入れのように数を数えると、釣りあげたヨーヨーの数は竜神34個、百合34個の同点だった。


「く、同点か……忌々しい」

「こんなに持って帰れないんでお返しします」

 百合も竜神も純粋にヨーヨー釣りをしたかっただけで、ヨーヨー自体には興味がなかったようだ。あっさりと全部をお店に返す。俺なんか1個も釣れなかったのにどうやって34個も釣ったんだ。極意が知りたい。


「えい」

 達樹のヨーヨーが俺の後頭部を直撃した。

「……よくもやったな……」

 ペペペペペペペペ、と達樹相手にヨーヨーで戦闘を始めてしまう。

「しょうもない喧嘩すんな」

 竜神の手が俺と達樹の頭に乗って引き剥がされた。


「……あれ? 達樹、身長伸びた……?」

 前は俺の視線の高さに首筋ぐらいがあったはずなのに、胸元になっている。

「伸びましたよ? つっても176ですけど」

「え!? お前そんなにでかかったの!?」

「でけ……っすか? 百合先輩とほとんどかわんねーですよ」

「私は172だからな。ヒールを履けば達樹など軽く抜く」

 抜かさないでくださいよ……。とブツブツ呟く。


「虎太郎は何センチ!?」

 飛びついて聞くと、ヨーヨーを掌で弾ませ、中の水の動きを楽しそうに観察していた虎太郎がビクリと体を震わせた。

「ひ、183だけど……??」

「ひゃくはちじゅ……いつのまにそんなにでかくなったんだ……」


 竜神が一際大きいからそっちにばっかり目が行ってた……。いつの間に成長してたんだ……!!!


「未来は154.8だったよね」

 美穂子が俺のシークレット情報を簡単にばらしてしまう。


「ん? 未来、去年の身長は155じゃなかったか?」

 百合が更に追い打ちをかけてくる。


「…………ちぢんだんだ……。信じられなくて5回ぐらい計りなおしたけど……154.8だったんだ……」

「最後には背伸びして猪狩先生に身長計で押さえつけられてたもんね」


「どうして……お前たちばかり伸びるんだ……」


「うわ、未来先輩ガチ泣き」

「未来は小柄な方が可愛いだろうが。泣くほどのことか」

「うん。小さい方が可愛いよ」

「だ、大丈夫だよ、来年にはきっと165ぐらいまで伸びてると思うから。まだ成長期だから」

 虎太郎やめてくれ。そんな根拠の無い慰めはいらないのだ……!!


「悔しい……身長がほしい……! 切実に身長が……しんちょうが……!」


「おーい」

「ん?」


 頭に鉢巻を巻いた射的のおじさんが俺たちを手招いていた。

 なんだろう?


「そこの六人組の子達、無料にしとくから遊んでってよ」

「え?」


 俺達全員に弾が入ったお皿を差し出される。

「いいんですか?」

「おうおう。景品沢山とってっていいからさ。あんた達、目立つねぇ。ただ歩いてるだけだってのにオーラが違うっていうの? 目を奪われるってのはこのことだ。人が歩いてるの見て感動したなんておっちゃん初めてだよ」


 そうなの? よくわからないな。まぁ虎太郎はモデルやってるぐらいだし竜神はデカいし、美穂子も百合も綺麗だからそんなもんなのかな。


 景品は、んまい棒からキャラメル、ヌイグルミ、ゲーム機まで様々だ。


 俺は射的が嫌いだ。小学校の頃に、なけなしの千円使い果たして一つも景品を取れなかったというトラウマがあるから。


 無料で出来るんならいっか、と銃を手にした。


 どれを狙おうかな、と銃を右往左往させ、見つけてしまった。

 バカヅラヒヨコちゃんのイヤホンジャック! しかも目付きの悪い青のバカヅラヒヨコとのセットだ!


「ほ、ほしい……!」

 器用な百合、竜神、美穂子、達樹が次々と景品を落とす中、俺は必死にイヤホンジャックを狙い続ける。

 何発も打ってるのに全然当たらず、ようやく一発当たったけどイヤホンジャックはピクリともしてくれなかった。


「未来先輩何狙ってんですか?」

「あれ! ヒヨコのイヤホンジャック」

「またバカヅラっすか。まいっか。同時に狙いましょうよ。弾余ってる人」


 美穂子、竜神、虎太郎、達樹の銃の照準がイヤホンジャックを向いた。


 せーの、の合図で同時に打つ。奇跡的に全部が命中し、イヤホンジャックのセットがパタンと倒れた。


「やったあああ!」

「おめっとさん。どうぞ、お嬢ちゃん」


 おじさんが俺にイヤホンジャックを手渡してくれる。


「ほ、ホントに貰っちゃっていいんですか!?」

「もちろんだよ。いやー、ご協力ありがとうね」

 ご協力?

 何の事だろうと思って後ろを振り返ると、俺たちの後ろにずらりと列が出来ていた。 

 俺が触った銃を触りたいとか、虎太郎が触った銃を触れるとか聞こえてきたが、幻聴だと思いたい。普通に怖いから。




 邪魔にならないうちに店を後にし、続いて向かうはクレープ屋!

 ここでは竜神が奢ってくれた。

 さっき肉を食べられた達樹がここぞとばかりにトッピング山盛りの贅沢クレープを注文する。百合も全く容赦無しだ。


「ゴチです先輩!」

「おう」

「これ、はじめて食べた……」


「……虎太郎君、浴衣がはだけてるよ」

 美穂子が自分の胸元をトントンと叩きながら虎太郎に指摘する。

「! 気が付かなかった……」

 クレープを口にくわえ手早く開けた浴衣を治す。


「ブルーベリー美味しいー! 未来、一口食べる?」

「食べる! 美穂子も一口ドーゾ。ストロベリーだよ」

 美穂子と俺がお互いにクレープを差し出して、お互いに食べさせ合う。

 横で百合がすかさず携帯で撮影していた。


「未来」


 竜神の大きな掌が俺の肩に乗り、引き寄せた。

 ドン、と、体と頬が竜神の体にぶつかる。

 黒の浴衣越しに、いつも俺を守ってくれるしっかりと鍛え上げられた筋肉の形がわかる。


「――?」

「あぁー、可愛いねーちゃんに触れんかったなー」


 すぐ隣を酔っ払いのおじさん達がからかうように笑いながら早足に通り過ぎていく。

 あのまま立ってたらおじさんたちに突き飛ばされていた。


 俺に触ろうとしてたのか。


 体に悪寒が走った。触りたいと言われただけなのに、怖い。竜神以外の男が俺の体に触るなんて考えたくもない。


「祭りになるとタチの悪い酔っ払いが出るのは古今東西変わらんな」

 百合が不愉快気に眉をひそめた。

「……」

 せっかくの美味しいクレープが台無しだよ……。



 でも最後まで食べきって、次はどの屋台で遊ぼうかと話し合っていた矢先、遠くから声がした。


「おい、喧嘩だぞ、女の子が絡まれてる!」

「酔っ払いがカップルに絡んだんだって」

「6人がかりなんて可哀そう……」


 周りがざわざわとざわめいた。


「喧嘩……?」


「もうやめてください、ごめんなさい……何度も謝ってるのに……!」


 女の子の泣き声が微かに聞こえた。


「琴音……!!?」

 俺が言い終わるより早く、男三人が駆け出していた。


「うっせー。ぶつかってきたのはお前だろうが、さっさと慰謝料払えよ」

 酔いにニキビだらけの顔を赤くしたひょろ長い男が琴音に向かってコーヒーの缶を投げつけた!


「おらぁ!!」


 寸前で滑り込んだ達樹がインフロントキックで珈琲缶を男に蹴り返す。琴音の綺麗な浴衣を汚す寸前でコーヒーの口が逆を向き、ものの見事にド派手な浴衣の腹に吸い込まれた。

 下品な柄ながらも高そうな浴衣にコーヒーのシミがバシャリと広がる。


「てめぇ……!!」

「おっさんが寄ってたかって女の子イジメてんじゃねーよクソダセエエ!!!」


 元桜丘中学校のサッカー部主将の名に恥じぬ走り込みと、見事なシュートだった。ちょっどだけ見直したぞ達樹! よく女の子の浴衣を守った!!!

 地面に顔を腫らした藤堂君が座り込んでいた。琴音は顔を涙で汚して藤堂君を抱きしめてる。

 俺と美穂子は琴音を庇うために座り込んだ二人の前に立った。


「学生相手に6対1はやりすぎです。いくら酔っているからとは言え、羞恥心まで捨てるとはみっともないですよ」

 達樹の横に立った虎太郎が冷たく言い放つ。


「ここまでやりゃもう十分だろ。引いちゃ貰えませんかね」

 最後に竜神が間に割って入る。

 酔っ払い達が「う」と息を呑んだ。いくら6対3と言えども、男たちの身長はこの中で一番小さい達樹の身長にさえ達してない。

 例え数の利があっても、大柄の竜神に正面から立ち向かおうという気概は無いんだろう。


「へ、へへ、わかったよ。今回は引いてやらあ」

 ボスなのか、派手な服装の男が両手を広げて竜神に言った。


「……」


 興味を失ったみたいに竜神と虎太郎が踵を返す。達樹だけは最後までガルルルと言わんばかりに睨みつけていたけど「大丈夫っすか、藤堂先輩」とこちらに視線を向けた。


「ばーか! 誰が許すかよ!!」


 え――――!!?


 慌てて振り返る。

 にやついた男達が足を振り上げ竜神達の背中を蹴ろうとしていた!!!


「あぶな――」

 俺の悲鳴が完結するより早く、


「見え透いてます」

「見え透いてるんだよ」

「見え透けすぎだな」


 虎太郎、竜神、百合がほぼ同時にそう言った。


 百合が虎太郎の背中を狙っていた男の顔面にヨーヨーをぶつける。竜神が自分に向かっていた男を横に蹴り飛ばし、虎太郎を狙ってた男に叩きつけた。虎太郎は達樹の背中を狙っていた男を蹴り飛ばす。


「な…っ!」

 半瞬遅れて達樹が背後を振り返り、「くっそ、騙された……!」と悔しそうに叫ぶ。

「お前は妙なところで素直だな」

 地団太を踏む達樹に、百合が半分呆れ、半分面白そうに笑う。


 達樹を蹴りつけようとして虎太郎に蹴り飛ばされた男が一番下で、竜神が叩きつけた虎太郎を狙っていた男が真ん中、竜神を狙っていた男が一番上に乗って、折り重なった三人が六本手と六本足の虫さながらにもがく。


 無様に蠢く酔っ払い達に、虎太郎が問いかけた。


「まだ、続けますか?」


 ビールに膨らんだ腹に蹴りは効いたはずだ。

「うぅ、」と無様に床に転がった酔っ払い達がうなる――と。


「どうしました!?」


 そこで、ようやく、お巡りさんたちが来てくれた。


「その酔っ払い達が女の子に絡んでたんです!」

「女の子を連れ去ろうともしてて」

「そこの男の子たちが助けにはいったんですよお巡りさん」


 周りの人たちが口々に証言してくれて、男たちは連れていかれ、俺たちは無事に無罪放免になったのだった。


「助けてくれてありがとうね、竜神、浅見、達樹、美穂子も未来も百合も……! 藤堂、大丈夫? あたしのせいでほんとごめん……!! すぐお母さん呼んで送ってもらうから」

「みっともなくてわりい……お前を守れなかった……」

「みっともなくないよ!!! かっこよかったよ大好きだよ!! ほんとごめん、ありがとう……!!!」

 ぼろぼろ泣きながら琴音が藤堂のシャツに顔を埋めた。

 周りの野次馬達からヒュー、と高い口笛や、「にーちゃん良くやったぞ!」と藤堂を励ます言葉が投げかけられる。


 美穂子が俺達の肩をポンと叩く。


「ほら、お邪魔虫たちは退散しよ。もう藤堂君と琴音ちゃんは大丈夫だから」

「うん」


 藤堂や琴音が気が付く前に、こそっとその場を離れた。


「藤堂先輩、一方的にやられてたみたいっすね。ボクシング部なのに……?」

「もうすぐ高総体だぞ。反撃なんかできるわけねーだろうが。下手したら部活動停止になっちまう」

「あ、そっか……!」


「虎太郎君、また浴衣が乱れてるよ」

「、ほんとだ」

「帯が緩いのかな? ちょっと止まって」

 美穂子が虎太郎の帯を緩めて結びなおす。意外と力のある美穂子にギリギリと締め付けられ「ぐううう」と苦しそうに呻いている。


 痛いなら痛いって言えばいいのに、外野には容赦ないのに身内には優しすぎるな。

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