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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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未来が着た男子制服をキラキラと彩る、女子たちのヘアピン。

 教室に行った百合は手ぶらで戻ってきた。

「全員体操服を持ち帰っていた。ソーイングセットを持っている女子もいなかった」


 そっかー……。俺も持ってないから文句言えないんだけど、うちのクラスの女子ってほんと女子力低いな。まぁ、大人しそうな顔をして下ネタ怪人の藤岡さんや俺にセクハラかましてくる琴音といったメンツだもんな。「女子力? なにそれ? リンゴなら片手で潰せるけど」と物理の女子力を行使してきかねない。


「あ、じゃあ、いっそのことホチキスで止めようかな。ホチキスなら先生たちが持ってますよね!」

「「「「駄目だ!!!」」」」


 いい考えだと思ったのに竜神にも先生にも百合にも全力でとめられてしまった。


 ところで、竜神はインターハイを目前にしたこの季節、各種運動部に対戦相手のシミュレーションとして呼ばれている。竜神は器用に運動をこなすからって。

 竜神自身はバスケでは「ダンクしかできねえ」バレーでは「スパイクしかできねえ」と、なぜ自分が呼ばれているのかわからないと言った反応だったけど、頼まれれば律儀に体育館に向かっていた。

 所属は文化部のパラゼ部なのに。


 だけど、そのおかげで体操服もジャージも常備していたのである。

 もちろん俺が竜神のジャージは着れない。

 原因はただ一つ。ウエストが合わないから、である。


 ジャージのウエストは当然ゴムだ。ベルトは使えない。竜神のジャージを俺が履けば立つだけでズボンがずり下がる。

 竜神がジャージを着て、俺が竜神の制服を着ることになった。


「この辺でいいか?」


 使い込まれたベルトに技術室から持ってきた鋭利なキリを当てながら竜神が言う。

 竜神家は多少値が張っても長く使えるものを使うのがポリシーらしく、学生の竜神が使ってるベルトもかなり値段が高そうな品だ。

 なのに、俺のウエストに合わせ穴が開けられようとしている。


「ほんとに穴開けてもいいの? このベルト高そうなのに……」

「良いって。開けないとずり下がるだろうが」

「うん……」


 躊躇いなくベルトに穴が開けられる。

 ベルトを締め、ズボンのすそを何回も折ってから立ち上がる。


「ぶっかぶかだな」

「うん」

「男子制服が歩いてるぞ」

「うん」


――――☆


 教室に入ると途端に騒ぎになった。


「み――ミキミキどうしたのその恰好! 制服はどうしたの!?」

「えと………………」


 どう誤魔化そうかと考えるが、いい案は一つも浮かばなかった。ので、


「燃えた!!!」

「燃えた!!??」


「人体発火現象だ!」


 超常現象のせいにして力技で押し切る。

「あ……」

 気合を入れて叫んだせいか折り曲げた裾がズルリとほどけてしまった。


「ほら、止めてあげるから」

 女子が寄ってたかって裾にピン止めを付けてくれる。俺の足元が色とりどりのヘアピンで装飾されていく。

「うゃー、可愛い……」

「でっしょ可愛いっしょ!」


 俺と竜神の体格差は大きい。裾を停めるピンも10個程度では止められない。くるぶしが覗く程度の高さまで折り曲げられたズボンに次から次に花の付いたピン、ケーキの付いたピン、宝石が散りばめられたピンが所狭しとズボンを押さえる。


 女子たちが持て余してたピン止めの数は俺が想像するよりずっと多かった。


 びっしりとズボンの裾を止めたのにまだ余ってたので、俺の膝まである竜神の半袖上着の裾にまでパチパチと止められた。


 がばっと開き気味になり胸の谷間が覗いていた襟元までも「ムネチラ禁止! 襲われたらどうすんの!」「未来ってほんと無防備なんだから!!」と怒った女子たちにデコられた安全ピンで止められていく。

 大きく開いた袖口にも、ダボダボ上着の裾にも、ズボンにも、大量のヘアピンと安全ピンで飾られた。


「ど、どうしたんだ日向、男子の制服を着て」

 入ってきた数学の先生が息を呑んだ。


「なんでもありません」

「でも、それ、いくらなんでもでかすぎるぞ。制服に埋まってるぞ」

「なんでもありません」

 キリっとした顔で答える。


「けどキラッキラだな……! 裾を止めてるのはヘアピンか? 可愛すぎ――げふげふん」


 何かを言おうとして先生は言葉を呑んだ。



――――★



 授業はつつがなく進んだ。


「えーと、この問題を、日向、前に出て」

「はい!」

 先生から名指しされると同時に片手を上げて立ち上がる。

 この問題、難しいけど自信ある!

 昨日予習して頑張って解いた問題だもん。


 ぶっちゃけるとこの問題だけに30分も掛けてしまった。けど、解けたからこそ当てられたのが嬉しい。


 竜神のでかい制服をなびかせながら黒板に向かう。

 ヘアピンは背中側の上着の裾にもいくつも止められていた。

 立ち止まると、ヘアピンで重たくなった裾が膝裏に当たった。


 ぐう。

 身長差も体格差も今更だが、竜神の上着が膝まであることが悔しい。去年の誕生日にも感じたことだけど、何度突きつけられても悔しい。


 気を取り直し、チョークを手に取る。カツカツと黒板にチョークを走らせ、少し屈むと同時にふわりと上着がまくれ上がるのが分かる。といっても、上着の長さは膝まで届くぐらいに長いので太ももが見える程度だけど。


「ミキミキ! キラキラしてるから動かないで!!」

 問題を解いてる真っ最中に琴音がそう叫んだ。

「え!?」

「未来ってほんと動くセクハラ大魔神! エロエロ空気流すのやめて!」

 曲山さんが後に続く。

「何の話!?」


「えと、日向、先生が悪かった、もういいから席に戻りなさい」

「先生まで!!」


 どこがセクハラなんだよ誹謗中傷にも程があるぞ!


 俺の――というか俺が着てる竜神の制服にヘアピン止めまくったのは女子のくせ女子のくせ!!!


 頑張って解いた問題だったのに中途半端しか回答できないまま席に戻されてしまったのだった。



 俺は知らなかったのだが、この数十分後、キラキラ光るヘアピンに止められた裾から覗くくるぶしが至宝とか言って教室に乗り込んでこようとした2年8組のイケメン男子入江君が教室前で百合に蹴り飛ばされたらしい。


 竜神が剣崎君にも入江君にも持ち前の怖い顔で威嚇して二度と未来に絡むなと言ってくれたそうだ。俺の知らない場所で、俺へのイジメ問題は静かに収束していたのだった。



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