剣崎君のファンに絡まれる。
掲示板事件の次の日、三年生のお姉さん方に呼び出された。
呼び出しに来たのは去年のクラスメイトの下澤君。
高校生になって一番初めに話を交わした同級生だ。
その後俺が事故死して女になったりしたから話す機会が無かったけど、俺にとっては『仲いい男子』のカテゴリに分類されてた。
「ぼ、僕の部活の先輩が……日向さんと話をしたいって」
「え!? それって男の先輩!?」
思わず答えてしまった俺を過剰反応とは言わないで欲しい。
「女子の先輩だよ……」
俺より20センチは大きな体を小さくして言う下澤君に「うん、分かった、行くよ」と瞬時に返事をした。男なら瞬時に断るけどな! 女の先輩ならありです!
呼び出されたのは校舎ハズレの女子トイレだった。
うわ、懐かしい。一年生の頃はここで着替えてたなーなんて思いつつ中に入ると。
「まじ来たよー」
「はぁ? これのどこが美人? ぶっさいくじゃん」
「ぶぁはははは、お前の1000倍綺麗だって。そこは認めとけよ。でも、綺麗だからって調子乗ってんだろねえ。まじうっぜ」
見慣れない制服を着た女子が待ち受けていた。
「え、あ、」
やばい! 本能的に察して逃げようとしたんだけど、後ろにも女子が立ちふさがってた。
びぃ!
思わず変な悲鳴を上げ、隙間から逃げ出そうとするものの5人もの女子に押し倒され砂ぼこりで汚れた床に倒れ込んだ。
大勢の腕が俺を押さえる。怖い、怖い、俺が暴れるたびに自分の胸が無様に揺れるのが分かる。太ももがスカートからはみ出るのが分かる。
「たすけて、しもざわくん――――しもざわくん――――――!!」
友達だと思っていた人はドアから走って逃げて行った。
(下澤君……!!!)
俺をはめるためにここに呼び出したのか。
友達だと思っていたのは自分からだけだったのが悲しい。
黒髪で目付きが暗い女が俺の上に伸し掛かってきた。
女の掌が俺の二の腕に食い込みギリギリと締め上げる。
「っ……!」
痛い。
「竜神クン浅見クンに二股掛けてる癖に剣崎君にまで手ェだしてんじゃねーよ糞ビッチが」
上から放たれた予想もしなかった罵詈雑言に頭が真っ白になった。
「二股なんかするわけねーだろ! 虎太郎も竜神も浮気を許すほど軽い男じゃない! 二股した時点でわたしなんか切られる!! 意味不明なこというな!!」
自分が糞ビッチだと言われたことよりも、虎太郎と竜神が軽く見られていることに腹が立った。
「剣崎君に色目使った癖、偉そうにすんじゃねーよ!!!」
バン、と、押さえつけてる女子からビンタをかまされた。
相手にとっては全力だったんだろうけど、所詮女子のビンタだ。後さえ残らない程度の軽い打撃でしかない。自分の口内を探っても血の味は無かった。
ちょっとまて、剣崎君? 異常な状況のせいで剣崎が誰かさえ思い出せなかった。
ここにきてようやく揺れるおっぱいがどうのこうのとセクハラしてきたイケメン君を思い出す。
この人たち、剣崎君のファンなのか。
「中学校の頃から憧れてたのに、お前みたいなビッチに持っていかれてたまっか!」
ちがう、持っていくつもりなんて無い。
剣崎君は会話した記憶も無いただのクラスメイトだ。一方的にセクハラされただけだ!
言うのは簡単だ。でも、言えなかった。俺を押さえつけてる女子生徒の目は全員血走っている。俺の言葉なんか一つも信じないだろう。
言えば益々激昂させるに決まってる。
つーか、他校の生徒をやすやすと入れるこの学校のセキュリティはどうなってんだ! とか頭の端で責任転嫁しちゃったけど、冷たい感触が腹に当たって目を見開いた。
「ひ、ぅ、」
俺の夏服の裾にハサミがあてがわれていた。
「や、」
全身を押さえられているというのにガクガク震える。歯も、足も、馬鹿みたいに。
泣きたく無いのに目に涙が浮かぶ、目を見開いて涙が零れないように堪える。
じゃき、と、制服をハサミが切り裂いた。
それからはあっという間だった。
ジャキジャキと音を立て胸までハサミが食い込んでくる。
「やめて――――!!」
ブラの中に冷たい刃先が入り、ざく、制服と一緒に切り裂いた。
弾かれたみたいにブラが取れ、押さえつけていた胸がぷるんと露わになったのがわかる。
「うっわ、きょにゅー。これ、小さく見せるブラ? 贅沢な悩みだよね超むかつくー」
笑いながらスカートの裾にハサミを入れてくる。
怖くない、怖くない、相手は女の子だ、負けるな、息が出来ない、苦しい、体が震える。
どうやれば逃げられる? 俺を押さえつけてる人数は五人、周りに四人もいる、全員を振り払って逃げるにはどうしたらいい!?
腕にも足にも掌が食い込んでいる。非力な体じゃ振り払うこともできない。
スカートを切り刻んだ刃先が下着にまで食い込んだ。