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モブ君(ある朝突然)絶世の美少女になる  作者: イヌスキ
十四章 とうとう二年生です!
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達樹のアホが未来の動画をyotutubeに

「おじゃましまーす!」

 達樹が2年2組の教室に入ってくる。


 達樹が高校生になってからと言うもの、俺たちのクラスに来る頻度が格段にあがった。


 中等部は別校舎にある。かつて達樹は中等部棟を抜け中庭を走り高等部棟に入り4階にある1年生の教室まで来ていた。だが今は違う。高校一年生の教室は4階、俺たちの教室は3階。一つ上の階から降りるだけでいいのだ。

 滞在時間が長くなるのも当然だった。


「先輩、今年の夏休みもまたどっか行きましょうよ!」


 今日も今日とて2年2組に乗り込んできた達樹が俺の机の前にしゃがみこんで切り出してくる。


「そだなー。また皆で海に行く?」

 去年買ったビキニはちょっとサイズが合わなくなっちゃったけど(胸のあたりが)買わされたスクール水着があるし、丁度いい。


「海っすかー、うー」

 達樹が頬を机に付ける。どうも気が乗らない様子だ。


「泳ぐのは楽しいんですけど、先輩達の裸が知らん男達にガン見されるのがマジ鬱陶しいんですよね」

「裸じゃねーよ水着だろ!」

「とにかく今年は違う場所にしましょーよ」


 「あぁ?」

 答えたのは俺じゃなくボクシング部三人衆の一人、直正君だ。


「んだそりゃ。未来ちゃんとか美穂子ちゃんとか花沢を連れて歩いてたら、周りの男から超羨ましいって目で大注目されのは当たり前だろ。むしろ優越感あるだろ。いいよなー、俺も超可愛い彼女を見せびらかして歩きたいぜ」


 直正君がちらりと横目で見てくる。顔から首、胸、ウエストと視線が移っていくのがわかる。


 ずいっと達樹が直正君の視界に割って入った。直正君の視界から俺を隠そうとしてしてるのがわかる。後輩として先輩の失礼にならない程度に。


 ……別に気にしないんだけどな。体を見られることぐらい慣れてきたし。


「そんなん無理ですよ! だって未来先輩と百合先輩と美穂子ちゃんっすよ。おれらのアクセサリー扱いしちゃダメなレベルの女じゃねーっすか」


 直正君がう、と引く。


 そうなのか? 達樹の考えてることはよくわかんないな。こいつ昔は俺の事軽く見てたはずなのに。俺が竜神の彼女になったからか好物のカレーを食べさせたからかわからないけど、俺の評価がやたらと上がってる気がする。


 あぁ、でも、竜神が他の女の注目集めるのは嫌だな。

 長身と落ち着いた雰囲気、そして無駄のない筋肉と真っ直ぐに伸びた大きな背中のせいで、街を歩くだけでも大人の女の人の目を惹いてるんだ。まだ17歳の癖に。


 『二年後には世界に通用するモデルになる』と業界で評価されてる虎太郎と一緒に歩いてても、虎太郎6:竜神4ぐらいの注目度だから侮れない。


「達樹君」

 と考えてると、ドン、と、当の虎太郎が俺の机の上にビニール袋に入った巨大な物体を置いた。


 丸々一個のかぼちゃだった。

 学校にかぼちゃ? なんのまじない? 風水?


「今日はこれが食べたい」


 達樹の額に青筋が浮かぶ。

 なでなでなで、なでなでなでなで、とかぼちゃを撫でまわし、猛然と立ち上がった。


「これ、どうやって切ればいいんっすか!? つか、これ何ですか打撃系の武器っすか!? 絶対包丁とおんねーよ! どうやって料理すればいいのかすらびたいちわかんねえ! いい加減無茶ぶりすんのやめてください! おれの家庭科の成績1っすよ1!! かぼちゃ料理が食いてえならせめて切り身になったパックの買ってきてくださいよ!!」


 達樹は虎太郎のタワーマンションに入り浸っていて、施設や豪華な部屋やお風呂を好き勝手使っている。その分、虎太郎が「これが食べたい」と持ち掛ける無茶ぶり――もといリクエストに答えていた。


一回目『これが食べたい』ドン。(白菜丸々一つ。まぁわかる)

二回目『これが食べたい』バッサァ。(万能ネギ三束。何気に難易度高い)

三回目『これが食べたい』ファサァ…。(なんかよくわからない葉っぱ。虎太郎自身も何の野菜か知らなかった。目が合った瞬間ビビッと来たらしい。野菜の目ってどこという突っ込みは誰もしなかった)


 そのたび、俺に相談したりネットで調べたりと一生懸命頑張っていたようだが。

 とうとうぶちぎれたか。


「コツさえわかれば簡単に切れるぞ。スマホで検索しろよ」

 言うと、達樹は頭に血管を浮かべつつもスマホをいじり出した。


「……??」

 右に首を傾げ、

「…………????」

 左に首を傾げる。

「わかんねー……。未来先輩、詳しく説明してる動画教えてください」

「えーめんどい」

 動画って開いて中身見なきゃ確認できないもん。一つ一つ調べてたらあっという間に今月の通信制限に引っかかっちゃう。


「このぐらいの硬さなら道路に叩きつければ割れるよ。そこから料理すればいいんじゃないかな」


 虎太郎が名案とばかりに言った。

 俺と達樹が同時に青ざめた。

「道路に叩きつけたかぼちゃなんか食いたくねえっすよ……」

 達樹が嘆く。当然だ。道路に叩きつけ割れたかぼちゃを拾い集め料理するだなんて常軌を逸している。何時代だ。いや、数万年前の原人さんたちも道に叩きつけて割ったりしてないだろう。石斧とかで割ってるはずだ。多分。


「未来先輩、お願いします」

 がばりと頭を下げた達樹に深く同情してしまったのだった。


――――――


 と、いうわけで、今日の俺の家の晩御飯はかぼちゃである。

 市場で購入したのは丸々一個のかぼちゃと、たっぷりのひき肉。


 買ってきたばかりのスマホを横に置いて、撮影を始める。


「ではでは、かぼちゃの解体を始めまーす。まずは、包丁の一番手前の、直角になった場所をヘタの周りに押し込み、切り込みを入れ――」


 かぼちゃは大好きだ。煮物にしてもサラダにしてもスープにしても天ぷらにしてもグラタンにしてもコロッケにしてもめちゃめちゃ美味しい。


 竜神も沢山食べてくれる。何でも沢山食べてくれるんだけど。


 説明を入れつつ解体し種を取り、食べやすい大きさに切り分ける。


「――で、完成。今日のうちのメニューはこってりボリュームのあるかぼちゃとひき肉の煮物。そしてあまーいかぼちゃのポテトサラダ風! どっちも美味しいから試してみろよ」


 動画を達樹に送り、かぼちゃを調理していく。

 煮物は鍋にたっぷりと。

 竜神の実家と三軒先の坂本さん家にも差し入れをする予定だ。


「未来、すげーいい匂い」

 鍋をかき回していた俺の背中に、柔道場から帰ってきた竜神がぼすりと乗る。


「いっぱいあるな」

「うん! かぼちゃ一つ分料理しちゃった。出来たらお前んちに差し入れ行ってくるよ。坂本さんちにも」


「……………………」

 背中の竜神が無言になる。


「オレ一人で食いきれる量だけど……」


「え」


 ぐうう、と、俺の背中で竜神の腹が鳴る。


 ふみゃ、と変な笑い声をあげてしまった。

「分かったよ、これ、全部竜神のな」

「おう」


 満足気に答えて竜神が風呂に向かっていく。


 前言撤回だな。竜神って見た目で大人の女の人に好かれても、言動で幻滅されるタイプだ。見た目が怖いくせ、中身があれだと女の人はがっかりするよな絶対。竜神の良さは俺だけが知ってればいいのである。


――――


 翌朝、登校した途端に達樹が2年2組に突っ込んできた。

「未来先輩! マジすんません! やっちまいました!!! お、おれ、スマホ容量やばくて、だから……もらった動画をよつつべのアカウントに上げたんですけど、非公開にしたつもりが公開になってて……」


 恐る恐るとスマホ画面を俺に向けてくる。

 チャンネル名を考えるのもめんどくさかったのか、「パラゼ」と部活動の名前そのまま流用したチャンネルに、俺のサムネイルが表示されていた。


「お前はあほか!!!!!」

 怒鳴りつけたのは俺ではない。百合だった。


「ど、ど、どうしたらいいっすか、これ、消した方がいいんすかねやっぱ」

「消すな! コメント欄も閉じるな!! 下手にクローズすれば転載されよけいに手が付けられなくなる!!! まとめサイトや企業からの打診があっても全部断れ、説明文に転載禁止の文章をいれておけ! ネットリテラシーのある視聴者を味方につけろ!」

「わぁ、動画が一つしかないのにチャンネル登録者数が3万人超えてるよ。しかも再生数もとんでもないことになっちゃってる。達樹君……やっちゃったねぇ……」

美穂子が自分のスマホで確認しつつ溜息をつく。


「朝からずっとランキング一位なんっすよ……。やべえ、めっちゃスマホに通知きてます、商品のレビューとかゲームの実況の依頼とか……!」


 スマホをタップした達樹が、え、と息を呑む。


「すげー! 商品レビューの動画あげるだけで3万くれるらしいっすよ! しかも商品はプレゼントだって! やりましょうよ先輩! しかも実況は一再生で20円ってマジっすかこれ!」

「えええええ!? マジで!? やるやるやるやる!!!」

 俺の動画は数十万再生されてた。×20円ってものすごいぞ! 一気に大金持ちだ!


「やめんか! 動画で稼ぎたいならサクラエンターテイメントに所属した方が100倍マシだ!」


 百合に怒られ俺も達樹も自重したのですが、ちょっぴりもったいないなー。なんて思ってしまいました。


 動画ってすごい。


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